【 塔の交換 】
第518話 警戒心の強さがこの世界をよく表しているな
部屋に戻っても、まだ
とは言っても“心ここにあらず”ではない。その真逆だ。
無数の思考が渦巻いた結果、周囲と意識が離れてしまっているのだろう。
まあ俺もよくある。
そんな
どうも伝えたい事があるようだが、その決心がつかないといった感じか。
たださっきの話に関する事だと、聞くのは危険という感じもする。というか、絶対に聞いちゃダメ。
何より当然ながら
こいつが先輩から離れるとは思わない。そして先輩も、
「俺はちょっと大事な用事がある。悪いが
「それは構わんが――」
「エッチしに行くの?」
放心していた
まだ魚の死んだような目をしている。しかし意識が完全に閉じているわけじゃなさそうだな。
「いや、違うよ。それは信じてくれて大丈夫だ」
本当か? 俺。
確かに今はその気はない。今はスキルも使っていないから、完全に平穏な状態だ。
戦闘での悪影響はあったが、あの程度ならヨルエナのおかげでかなり解消している。
だけど自分がちょっと信じられない所が怖い。
さすがにこの状態で致して戻ってきたら、影法師となって
「本当に大丈夫だから」
しっかりともう一度言い聞かせながら、同時に自分の決意も新たにする。
何せこれから行く場所が場所だけにな。
それもちゃんと言っておいた方が良いだろう。
今は全てをきちんと伝える事が、生き残る秘訣だ。
「確かにフランソワに会いに行く」
「だけどこれは、邪な目的じゃない。召喚者全員の命に関わる事だ。本当はもっと早くやろうと思っていたけど、幸いここから先、しばらく死者は出ない。だけど確実に出てしまうんだよ。それを防ぐためにも、これは絶対に必要なんだ」
「……ねえ、死者が出るってどういう事?」
今度は先輩が質問する番だった。
そうだ、
確かに、知る人間は少ない方が良い。
だけど先輩には話すような気がしていたんだけどな。
「それに関しては……
「俺に言わせるつもりか?」
望むと望まざるに関わらず、二人とも自らの手を汚している。
そういった意味ではどっちも言葉にする事は簡単ではない。
だが――、
「任せた!」
そう言って、俺は話に聞いていたフランソワの工房へと跳んだ。
すまん、
そんな訳で丸投げだ。後でどんな風に話したかは聞いておこう。
一応、口のうまさは俺より上だしな。顔色一つ変えずに嘘をつけるし。
〇 ◎ 〇
工房の場所は以前とは全く違う、地下に作られた秘密基地という感じだ。
スキルを発動していたから勝手に外れたが、地上から地下にかけて罠だらけ。相当に警戒しているな。
工房の入り口にも罠があったが、これも簡単に外す。
だけど問題はそっちじゃない。最初に罠を外した段階で検知されていたのであろう。明確な殺気を感じる。
だが――、
「俺だ。入って良いかな?」
「
「ああ、それはもう解除したから良いよ。入るが構わないか?」
「確認など要りません。いつでもお入りください」
殺気などどこへやら。ウキウキした声が中から聞こえてくる。
フランソワは完全にクロノスに心酔しているな。
そして手も出している。それも俺の様にささやかではなく、話からしてもう相当にアレだ。
人の事を言えた義理ではないが、ダークネスさんはもう少し節度というものを持った方がい。
今更遅いが。
中に入ると、フランソワはいつものゴスロリではなく、オーバーオールに耐熱対刃、それに耐衝撃の作業用エプロンといった姿だった。
これはこれで新鮮だ。
それにこの国の風習を取り入れているのか、横から背中はもちろん、前も通常のオーバーオールより肌が露出していて、肌を隠しているのはエプロンだけ。
うん、ノーブラだ。
だが
「脱ぎましょうか?」
嬉しそうに。そしてもじもじしながらこちらを見るが、
「いや待て」
ちょっとガン見し過ぎたか。危ない危ない。
「ちょっと新鮮だなと思っただけだよ。それよりフランソワと
前の世界では仲良し発明コンビだった。塔の改良をしたのもこの二人だ。
当然交流があるものだと思っていたのだが、
「知りませんよ、あんなもの」
露骨に嫌な顔をする。
だけど俺の驚きを別の意味ととらえたのか――、
「あ、ごめんなさい。同じ教官組ですが、彼とは交流が無いもので」
そういや
それに教官組が入れ替わる事もあるとひたちさんから聞いている。
教官組同士が争う事も、普通にあったと考えた方が妥当かもしれない。
こちらの世界では、同じ教官組といっても仲間意識は希薄なのか。
それにしても本気で嫌そうな顔だったな。
「フランソワの方が先に召喚されていたな。そしてクロノスの事件があった後で
「確かに、新人の頃は知っています」
何が有ったか聞くべきだろうか?
だけどこういった事は、やはり本人から聞いた方が良いが――、
「教えてくれないか? あいつに何が有ったのか」
俺は素直にフランソワから聞く事にした。
だって戦った時の印象だと、本人は絶対に話してくれそうにないもの。
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