第509話 先輩も龍平もとても良いスキルだよね

 まあこの話に乗る事は決定事項なわけだが、逆に誰も何も言わなかったのは不自然だったかもしれない。

 そういや、あの時はそれぞれが決めかねて黙っていたので、先輩が切り出したのだったな。

 やっぱりいざという時に皆を引っ張ってくれる。頼りになるお姉さんだ。

 今はちょっと、色々と複雑な糸が絡み合っている事を知ってしまったけどね。


「私はやろうと思うの」


 だよね。状況が少し変化していても、絶対にそう言うと思っていたよ。


「うん、そうだよね。やろうよ!」


「ああ、俺達4人で行動すれば、何の問題も無いだろう。なあ、敬一けいいち


 いやまあやらないという選択は無いんだよな。

 だけど、なんか意識すると台詞が棒になると何度も指摘されている、ここはどう自然に振る舞うか。


敬一けいいち君ももちろんオッケーだよ、お姉ちゃん」


「そうよね。やりましょう。みんな一緒ならきっと怖くないわ。それにゲームとか言われるとワクワクするわね」


 ナイスフォローだ、奈々なな

 まあ実際にはそんなに生易しい世界じゃないんだけどね。


 そんな事を話していると、いよいよスキルの鑑定に入った。

 最初に名乗りを上げたのは、やはり野球部エースの栗森剛くりもりごうだ。

 そういや一つ疑問だな。なぜあいつが奈々ななの相方に選ばれたんだろう?

 事前に決めてあった訳も無いだろうし、定期的に崩れ去る奈々ななに全く気が付かなかったとも考え難い。

 もはや関係無いし、最古の4人の誰かに聞いても『その状況にならないと分からない』と言われるのがオチだ。

 取り敢えず放っておこう。

 こう言っては何だが、もうどうでもいい奴だしな。


 そうこうしている間にいつもの儀式。

 スキルの名を告げられ、光の膜の中から制御アイテムを取り出すんだ。

 それでスキルの使い方が分かる。まるで本能として最初から備わっていたかのように。

 だけど赤子がいきなり歩けないように。また機能は備わっていても、習わなければきちんと泳げないように、スキルを使いこなすにはそれなりに修練が必要だ。


 そう考えると、やはり奈々ななは問題を抱えている。

 彼女はいきなり超強力な攻撃をぶっ放したし、神罰を使って大地に大穴を穿つのは育ってもいないただのコピー。

 元々は、その力に耐えられないクロノスが建設的な方面でコピーを考え出したという。

 ではこのまま奈々ななが成長し、スキルが成長したらどうなるんだ?

 当然成長に従って使い方にも慣れてくる。だが元の力が大きすぎる。成長具合はアンバランスで、ほぼ間違いなく力の成長の方が早い。

 案外、残されている時間は少ないのかもしれない。

 少なくとも、奈々なな本人をあまり成長させないようにするという方向は正しいように感じるな。


 そんな事を考えていると、嬉しそうに先輩がこちらに走り寄って来た。

 しまった、きちんと見ていなかった。

 まあ前回の様子は完全に焼き付いているから大丈夫だろうけど、俺が他の事を考えていた事に気づいているかな?

 だとしたら、傷つけてしまったかもしれない。


敬一けいいち君、奈々なな。私のスキル、広域感知エリアサーチだって。レアスキルだって」


 あの時と同じだ。全く変わらない。

 1メートル程の杖を抱えて、弾むような声でそう報告している。

 良かった。杞憂だったようだ。

 何か変化があれば、ここまで同じにはならないだろうからね。

 そういやあの時も、ヨルエナとアイテムに興味津々で周りなんて見ていなかったな。


 それにしても何だろう。あの時の先輩の姿と完全に重なって目頭が熱くなる。

 あの日、不安はあったが同時に希望もあった。

 でもその不安の方は、この時の先輩の笑顔で完全に吹き飛んだんだよな。

 何というか、凄く眩しい。

 同時に、何も知らないってやはり怖い。この後の事を考えるとね。

 けれど、さすがにもうあんな目にあわせる事はしないさ。


 そしてあの時と同じように先輩のスキル講座が終わると、いよいよ龍平りゅうへいの番になった。


「じゃあ行ってくるわ」


 やっぱりあの時と台詞が違うな。

 当時は、いかにも元気な高校生が“これからやるぞー!”という感じだった。

 だけど今は違うな。何度も死線を潜り、苦汁をなめて来た言葉と仕草だ。

 その点は教官組からも感じたが、さてどれだけの人間がそれに気が付くか。

 奈々ななは意識してか無意識なのか、教官組を警戒していた。

 なんとなく本能だろうけど、そこに訴えるほど明らかな迫力があった。

 当時の俺もやがて教官組と対峙する事になるが、それほど意識しなかったな。自分が成長していた事もあるが、我ながらいかに暢気で世間知らずだったのか恥ずかしくもなる。


 既に周囲ではスキルを手に入れた人間がガヤガヤと騒がしくて、何を話しているかは聞こえない。でも明らかにヨルエナが戸惑っているな。

 だが龍平りゅうへいは冷静に済ませるようにさとしている感じだ。

 まあ、彼女もかなり焦っただろうな。


「終わったぞ」


「あっさりだな」


「今更だろう」


 確かにその通りだ。なんかもう話さなくても良いと思うが、やはり後で色々と聞いておこう。

 どうしても気になる点があるからな。


 そしてお次は奈々ななの番だ。

 あの時と同じ順番だが、それは可能な限りイレギュラーを避けたかった結果だよ。

 そう言えば、あの時点で奈々ななが別人だったのは間違いない。

 多分風見かざみ自身だったと思うが、この辺りのやり取りはさすがだったな。

 ヨルエナとの話も付いていたのだろうが、かなり自然なやり取りだった。

 それに戻って来た時も奈々ななが言いそうなことをちゃんと言ったしな。

 自身にコピーを重ねた時に、ある程度は性格も同じようにコピー出来るのだろう。

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