【 目覚め 】
第507話 満足のいく強さだ
そんな
あ、こいつの事を忘れていた。
「どりゃああ!」
勢いよく弧を描く両手をホールドしたままのジャーマンスープレックス。
カウンターが効かない所が厄介だが――、
するりとホールドされた体を外すと、そのままの勢いで見事に自身の後頭部で床を砕いた。
痛そうに見えるが、実際には掠り傷ひとつないな。
というか分かってはいた事だが、俺たちが戦うと部屋が簡単に壊れてしまうか。
未だに貧乏生活が沁みついている身としては、修理費を考えると心が凍り付きそうだよ。
「まさかあれで終わりとか言わないよね。あんなのじゃ死ねない。何の恐怖も感じない」
もう復帰したのか!?
再び腐敗のスキルを発動したのだろう。一瞬にして両脚は骨が露出する程に溶け、床もまた液体の様になって俺は一階下に落下した。
これはさっきよりもきついぞ。瞬時に痛みを外していなかったら、激痛で意識を失っていたかもしれない。
しかしそれだけに
生きてはいる……というか、かなり元気だな。並の召喚者ならあんなものをカウンターでくらったら命に関わるが、やはり強いな。
ついでに上からドロップキックをして来た
ストレートに落ちて行ったので、戻って来るまでにしばらくはかかるだろう。
それより問題なのが、腐敗で溶けた床だ。今は天井だけど。
それはすぐさま無数のダガーへと形を変え、まるで雨の様に降り注ぐ。
こういったスキルは
だが状況次第では、初めて殺してしまった
しかしそれを感じさせないレベルの大盤振る舞いだ。
しかも刺さったダガーは一瞬にして腐った床の素材へと変わり、肉の中で神経を刺激して激痛が走る。
まあどうせこの体はもうダメだ。脱皮して、ついでに上の階へと戻る。
「さすがは教官組だ。期待通りだぞ」
「いうだけの事はあるが、この程度なら何人も知っている」
「死の恐怖には程遠い。きちんと楽しませてもらえるんですよねえ」
まだまだ不満って所か。実に頼もしい。
何せこれから倒すべき相手は強化された本体だ。まだ見てはいないが、正直言って戦力不足は否めないだろう。
だけどこの強さは予想していたとはいえ、俺には希望を与えてくれる。
そろそろ、それにはきっちり答えておかないとな。
先ずは
殴った右手は腐り落ちたが、
死ぬなよ――。
残った左手で、全力で裏拳を放つ。
確かに俺のスキルは単純攻撃には向いていない。というか攻撃スキルではない。
だがここまで戦ってきた実戦経験と、召喚者としての成長は彼らを凌駕している。
単純な力技。だがそれでも、
なんかダンプカーに魅かれたような感じになっている。やり過ぎただろうか?
なんて考えていられるほど甘くはないね。
四方から飛んできたのは水銀のダガー。更には早くも
だけど絶体絶命って感じがしないのは、俺も強くなったと自負して良いだろう。
というよりも、こいつらに勝てない様じゃ絶対奴には勝てないんだ。
きちんと本気で行かせてもらおう。
気を失ってスキルが解除されたせいか、僅かだが腐敗の煙がはれてくる。
同時に少しぎょっとしてしまう。
確かにここはホームグラウンド。ビルの構造は知っているだろうし、ある程度の支度があってもおかしくはない。
しかし――腐敗の煙の中に隠されていたのは百を超すダガー。
多くは水の様だが、いつもの水銀や腐敗したり壊れた建材。それに時間をかけ過ぎたか、普通の金属のダガーも準備済みだ。
「いいのか? もう気が付いていると思ったが?」
あれだけのダガーによる攻撃。当然、カウンターもそれに比例する。
「十分に計算した結果だよ。安心したまえ。目覚めたばかりの新人を、ここで失うような愚行はせぬよ」
そこは自分の心配をしろよ。やっぱり以前に召喚した時から思っていたが、根はいい奴なんだよな。
一斉に飛んでくるダガー。背後から掴みに来る
褒めはしたが、この辺りはまだまだだ。
足元の床を外し、自分は1階下に落ちる。
同時に響く
うん、絶対に解除しないと思ったよ。あいつはそういうやつだ。
いや本当に根はいい奴なんだよ。ただ長い経験が、それを掘り出せないほど深くまで埋めてしまっただけで。
そして今度は2階上まで距離を外し、
気配で察したかもしれないが、その時には既に遅い。
「油断をするなと警告はしたぞ」
轟音。そして土煙。
床が抜けなかったのは更に下の階にとっては幸いだが、床と天井のサンドイッチにされた
両方死んではいないが、少しやり過ぎた感じがしないでもない。
しかしこれで教官組の力は大体分かったか――、
だがまだ終わってはいなかった。
隣の部屋から一直線に、先ほどとは違う形で虹色の光彩が走る。
場所は俺が踏んでいる、さっきまで上の階の天井だった床だ。
まずい!
そんな事を思った時には、まるで泥の上に立っていたかのようにバランスが崩れる。
しかし痛みはない。これは早い分、単に床を溶かしただけか。
そんな俺の油断をあざ笑うかのように、溶けた床を貫いて無数のダガーが俺を串刺しにした。
「新人を失うつもりはないと言ったが、過度な手加減を期待されては困るのだがね。この程度では死なない事くらいは、もう理解したのだよ」
「確かにそうだ。まあ期待なんかしていないから安心しろ」
そう言ってダガーで穴だらけになった体を捨てる。
強がりは言っているが、
それでも普段の態度を崩さないところはさすがではある。
まだ何か隠し玉はありそうだが、現状では俺に致命打を与えることは出来ないだろう。
「こちらは最初から最後まで本気だったけどね。しかし成程――最後は反撃の痛みを恐れて腐敗を床だけに限定してしまった。心がそう判断したのなら、確かにそれなりに恐怖というものは味合わせてもらったのだろう。今日はもう満足だ」
そういうと
これから目覚めの儀式や追放される3人の帰還。更に勇者サンが黒竜と会う前に止めるなど、やる事は山ほどある。
だけどそれが終わったら、一度じっくり話そう。
あそこまで変わるからには並大抵な事ではない出来事はあったのだろうが……大丈夫。
俺は彼をよく知っているつもりだからな。
そんな中、床――じゃないな。かつての天井を爆発させるように吹き飛ばして
そういや俺、こいつの事はあまり知らないんだよな。
「俺はまだまだ何の恐怖も感じちゃいねえ」
こいつのスキルは持久力。というか、明らかに頑丈さも上がっているよな。
「クロノスよ、時間は後どのくらい残っている?」
「もう3時間も無いぞ」
「了解した」
仕方がないので、時間切れまでひたすらボコボコにした。
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