第491話 そりゃ肉親なんだから一番気になるよな
追放され、地球に戻り、絶望し、ラーセットでクロノスとなった時に、俺の復讐心は燃え上がった。
本当に倒すべき敵。全ての元凶。俺から
その後は、ラーセットを襲い地球を滅ぼした本体を倒す事が全てだった。現地との共存も、召喚者との友好関係も、全ては奴を倒す為。
かつてあったラーセットへのわだかまりは、実はもうなくなっていた。そりゃ最初は、滅ぼしてやっても良いんじゃないかと思った時期もあったけどな。
だがクロノスとなって知った。俺の召喚は、結局は避けられなかった事を。
けれどそれをしたミーネルを恨む気にはならなかった。
あの状況で、大勢の国民が死に、中枢にいた人間は子供を残して全員が俺を召喚するために命を捧げた。
それがどれだけの覚悟の元で行われたのか。
そして、何の保証も無い伝承でしかない召喚が本当に成功した時の彼女の喜びよう。
もし俺が責任のある立場なら出来ただろうか?
そんな不確実な事に、残った国民全ての命を賭ける事が。
まあ無いな。
確かに俺の全てはこの召喚によって奪われたと言っても良い。だけど恨む相手はやはり奴だ。ラーセットの人々は被害者でしかない。
そもそも追放は先代の俺が決めた事だった。
まさか途中で命を落としていたとは思わなかったが、それでも最後までやりとげ、きちんとバトンを託した。
しかも今まで代々の俺が果たせなかった事までやったんだ。
だから、俺はその結果に最高の形で応えたかった。
奴を根源まで消滅させ、もう二度とラーセットが襲われないようにする。
俺や他のみんなが召喚される事の無い平和な世界がやって来るんだ。
俺がそこに居ないのは残念だが、代わりに多くの人と出会うことが出来た。
別れは辛かったが、ケーシュやロフレ、それに他のみんなとの時間はかけがえのないものだった。
だから、俺は俺でそれなりに幸せを持てた。
そうやって満足して、後はゆっくりと召喚システムを消していこうと思っていたのに、今なぜかこんな状況です。
なんて出来事を早回しで話し終えた時には、もうすっかり夜になっていた。
明日はいよいよ先輩や
「そんな訳で、大体事情は分かってくれたかな?」
「うん、大体分かったけど……なんかすごく大人になっちゃったんだね」
ああ、目が完全に死んでる。
そりゃまあ、実際の結婚って訳ではないが、生涯を共にした女性の話までしちゃったしな。
将来を誓い合っていた同じ年の彼氏が、いつの間にか数十年の歳月を経て様々な――もうそれこそ一言では言い表せないような、一つの生涯にも匹敵するような経験をしてしまっていた訳ですよ。
一緒に歩むはずだった道を、一人で突っ走ってしまったわけだしなあ。
姿は若くても、もう一回りや二回りどころではない年上だ。
これが
いつの間にか結婚して子供を産んで未亡人になって高校一年生になって戻ってきました……。
うん、俺は変わらないや。例えそうだったとしても、
でも
「ねえ、
「ああ、何でも質問してくれ」
「私の事はスキルの事もあって、監禁されていたって言うのは分かった」
「うん」
「
「ああ」
当時の彼女の様子をストレートに伝えることは出来ないが、その辺りは全部事実だ。
「でもなーんか抜けているんだよね」
ギクッ!
「私の事も聞いたし、
「そうだな」
「それに世界の事も分かったし、色々と複雑だけど、
「ああ。色々な事があった。それにその、女性遍歴に関しては……」
「私も全力でスキルを使ったら消滅しちゃう。そうでなくても、使い続ければ弊害が出ちゃうんだよね。それに、忘れる事ができない世界で長くいる事は、それだけでも大きな負担になるんだよね。だから……仕方がなかったと」
「も、申し訳ない」
「それは大丈夫。全部を理解したわけじゃないけど、この世界とスキル。それに今の
「
もっと色々と説明しなければと思っていた。
絶対に幾つも怒られるだろうなと……それ以前に、嫌われる事も覚悟していた。
別れ話を切り出されたら、泣きながらも受け入れるしかない事も分かっていた。
だけど、
「でも不自然なほど、お姉ちゃんの話が出てこないね」
ぐ――。
やっぱりそうなるか。自分でも分かってはいるんだ。
でも何と言うか、どれを話してもこれだけは絶対にタブーだと本能が告げていたんだ。
「
「え!?」
「あれ? まさか知らなかったの?」
確かにかつての俺は知らなかったんだよね。
そして共に過ごした数年の間に、天然妹系の
一方で先輩は高校に進学して入った部活のせいなのか、清楚でしっかりしている点は変わらないけど中身は結構はっちゃけた感じになっていたんだよな。
見た目はそっくりなのに、中身はある意味正反対。
そんな二人の事はよく知っているが、正直言ってしまうと
気にもしなかったといいますか……。
だけど今は知っている。
あいつはずっと前から先輩を愛していた。多分俺と出会った時からそうだったんだろう。
そうでなければ、俺たちに接点がなさ過ぎる。
そしてこちらに来てからはずっと彼女を守ろうとして――でも失敗して――無関係な人々をも巻き込んで復讐をした。
完全に果たす前に、俺によって日本に戻されたけどな。
そして日本での生活で、ようやくあいつの本心に触れたんだ。
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