第489話 この程度の罰は覚悟の上さ

「その時はどうやって悪影響を解消したの? 長い戦いになったんでしょ?」


 だよね。奈々ななの興味はそっちだよね。


「その時の神官長はミーネルって人でね。そこまでの歴史は共通だから、代々の俺は、全員その人に召喚されたんだと思う」


「うんうん。それで?」


 絶対に誤魔化されないぞという強い意志を感じる。

 というか、もう分かっているな。

 ええい、誤魔化しても仕方がない。


「その人のお世話になりました」


「その人だけ?」


 ぐ! 追及が痛い。

 というか、さっき複数の女性を相手にしたと言ったばかりだしな。

 当然気になるか。


「ねえ、他には?」


 逃げ道は無いか……。


「ミーネルの血縁者と片っ端から寝ました」





《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》





 取り敢えず横一線。

 ここは高層ビルのほぼ最上階。この上には都市の生命線である食料プラントがあるだけだ。

 高さは3千メートル近い。穴から吹き込む風は痛いほどだ。

 だけど奈々ななはぷんすかしていて気にした様子はない。

 でも少し気は済んだって感じかな?


 それに当然ながら見張られていたんだろう。

 すぐさま神殿庁、内務庁の職員が来て修理を開始した。

 俺たちはというと、一つ下の階層へと強制的に移動させられたのだった。





 ★     ☆     ★





 その後は成瀬敬一なるせけいいちではなくクロノスとして、奴を倒す為に召喚、外交、それに政治の中核である三長官を中心とした現地人との折衝、そして戦いに明け暮れた事も話した。


「大変だったんだね」


「ああ。奈々ななが会った歳をとった俺ってのはその時の話だよ」


「そうか……全然意味が分からないままだったけど、あれは私を戦いに巻き込みたくなかったんだよね」


「そうだ。奈々ななが戦う姿もそうだけど、傷つく姿を見たくなかったんだ。それにもし運命でどうしても呼ばれてしまうのであれば、俺や先輩、それに龍平りゅうへいなんかも居た方が良いだろ? 多分、本当なら一緒に召喚されて来ると思うんだ」


「どうして?」


「経験と勘かな」


「ふふ……」


 ん? 何か変な事を言ったのかな?


「なんだか話し方が随分変わったなって思ったけど、やっぱり色々あったんだね」


「そうだな。生きた年月をいうなら、俺はもうおじさんどころかおじいちゃんだよ」


 ほほえましい談笑。

 ずっとこれが続けばいいのに。


「それで、あの時一緒にいた二人との関係は?」


 顔は笑っているが目が笑っていない。

 誤魔化しは効かないだろう。


「肉体関係です」





《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》





 白い光に包まれながら、これが罰か……なんてことを考えていた。





 ☆     ★     ☆





 こうして俺たちは、更に1階下へと移動した。

 なんか追い出されない事が不思議だが、まあ気を使っていると考えよう。別の方向に。

 場所が低いほど、何かの事故で人を巻き込む可能性があるしな。


「ねえ、色々あったのは今の敬一けいいち君を見れば分かる。私にとっては一瞬だけど、本当に想像も出来ないほど大変な事があったんだね」


「……ああ」


 本当に、言葉では語りつくせないほど色々な事があった。

 でもやっと……ついに願い求めてやまなかったこの時が来たんだ。奈々ななとゆっくり話をするっていうね。

 それが叶った事を考えたら、ここまでの苦労だって完全に無駄だったなんて言えやしないさ。


「でも、その経験の中に沢山の女性との関係も含まれている訳ね」


 死んだ魚のような目をしている……。

 これはアレだ。怒りとか通り越して、もうどういった反応をしたらいいのか分からない時の奈々ななだ。

 俺としても、この件はあまり触れたくはない。だけど、今後の事を考えたら避けては通れない問題でもあるんだよな。


「そ、それでな、奈々なな……」


「大丈夫。話を続けて」


「あ、ああ」


 そうだな。話はまだ終わっちゃいない。

 そこから先は、奴を倒した事。だけど時間を戻す事――これが特に重要だ。これを話さなければ、今の状況は説明できない。

 そしてそのせいで俺と奴との時間が繋がった――要は同調してしまったって事だな。

 その後、奴を倒すたびに時間は戻り……。


「そういう事があって、本当なら俺がクロノスとしてラーセットに召喚された時が限界のはずだったんだ」


「じゃあ若返ったの?」


「ストレートに言うとそうなるな。俺としては色々と覚悟をしていたんだ。何せ奴を倒したところでもう地球に文明なんてない。奈々ななもいない。先輩もいない。それでも倒さなくちゃいけなかったんだ。次の俺やみんなが、平和に暮らせるためにね」


 そう、その為に今の人々を召喚して犠牲にした。

 だから、当然俺は相応の罰を背負って残りの人生を過ごす。そのはずだった。


「なのに時間を戻った最終地点がここだった。確かに考えてみれば有り得ない話じゃなかったんだが、実際になると複雑だよ」


「そっかー……ねえ、さっきは少し飛ばしていたみたいだけど、敬一けいいち君が追放されていた間、私は何をしていたの?」


「いや、それは……」


「だってすごく大変だったんでしょ? 鍛える為とか言いながら、そんなこと誰も知らなかったんでしょ? 本当に命を狙われたんでしょ? 死にかけたりもしたんでしょ? なのに私は何もしなかったの?」


 これは困った。

 どういう風に説明したらいいんだろう?

 ストレートに真実を伝えるべきか?

 だけどあの時と今では全く違う。

 大体、みやの計画はそもそも不可能。

 あれは不完全すぎるし、失敗したか阻止された事は確定……いや、冷静に考えれば違うな。


 やろうと思えば可能ではあるのか。少し考えが足りなかったな。

 最初にコピーを作り、俺や先輩に会わせる。その間にみやの計画を遂行する。

 完成した頃には、初代コピーは崩れ去り、以後は男狂いの奈々ななのコピーに切り替わる。

 うん、これなら有るが、それは本当の奈々ななの話じゃない。

 でもそれを奈々ななが納得するかは別の話だ。

 自分がやった事やされた事を考えたら、どれほど深く傷つく事だろう。


 ちらりと奈々ななを見ると、真剣な目でこちらを見ている。

 だけどその奥にある好奇心は隠し切れていない。

 うん、今の彼女は間違いなく本物だ。

 しかしマジでどうするかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る