第482話 今はそんな事より塔の改良だな

 どんなにループしても、全ては事後。永久に繰り返し、その度に新たな歴史が生まれるだけだ。

 だけど俺には確信があった。このループを終わらせられると。

 きっかけは大穴戦で戦ったセーフゾーンの主だ。

 異物になった途端、儚く消えたあいつ。

 奴は事象を改変して無かった事にする厄介な能力持ちだった。

 外に出て異物化しても能力は残ったが、それは前とは比べ物にならないほど弱体化して、俺のスキルの前に塵となって消えたわけだ。


 その時に確信した。今の俺なら似たような事が出来るな――と。

 奴の存在そのものをその根底から外す。ラーセットを襲った”今”ではなく、その過去まで。

 外し切った先に何があるのか? 別の意味でダークネスさんに言われた事がある。

 今回は、おそらく奴が異物になる前。俺の力が及ばないほど強大だった頃。

 当然ながら根拠は薄い。だけど俺の感覚と、なにより切り離された奴の本体が俺を選んだ事で確証に変わった。

 あいつは、俺が可能だと思ったから接触してきたんだ。


 これで全てのループは終わる。本体から切り離された分身がそう願ったんだ。あいつが異物となる事はもうない。

 当然、ラーセットが襲われる事も。

 こうして全てのループが終わり、真の意味での平穏が訪れる。


 なら先代は? と思うが、こればかりはもう聞くこともできない。

 それに先代の俺――ダークネスさんは奴を倒していない。残念ながら、その程度では交渉対象とは見られていなかったんだろうな。

 というか、そうなると双子とどうやって知り合ったんだろうか――って、本人に聞けばいいじゃん。

 今度聞きに行こう。


 さてそれはともかく、奴が異物となる前から続く一本の歴史。クロノスが呼び出され、奴を撃退し、やがて成瀬敬一が召喚されまたクロノスに……ふう、これを考えるのはもう何度目だ。

 何度考えてもおかしい所はない。

 動いている歴史か……逆に止まっている歴史?

 そんなもの――いや待った。


「おかしいでしょ。私たちの本当の今は、いつループしたの?」


「いや待て風見かざみ。確かにループはしていないが――」


 確かにおかしい。

 生きて返した人間は、再び召喚されてくる。だが死んだ人間はそれまでだ。当たり前だと思っていた。

 だが俺たちの時は止まっている。動き出すのは、俺が向こうに戻ってからだ。

 だけどそれはその時代のクロノスの時間じゃないのか?


 いや、それもおかしい。ラーセットで時間の分岐が起きたとしても、その時点で地球の過去まで分岐する訳がない。

 新たな歴史は、俺が地球に戻ってから。その前の歴史は全て共通なのか?

 ラーセットに現れる奴の様に……。


「だがそれもまた変だな。今の時代に死んだ人間が、俺の時代にも召喚されている。そして俺の時代に死んでしまった人間は、新たに召喚されていない。それにそっちは2千人近く召喚しているんだろ? その中に、死んだのにもう一度召喚された人間がいなければ意味の無い話だ。ましてや、その考えだと同じ人間が召喚される可能性すらあるぞ」


「まあ説としては面白かったがな。ここは成瀬なるせが正しいだろう。未練は分かるが……現実はそんなものだ」


 確かにそうだ。でもだとしたら歴史はどう分岐してどうつながっている?

 俺が召喚された時点で、俺の過去も分岐したのか?

 いや、それは無い。過去が改変されたとしても、そこから変わるのは未来だ。更に過去が変わる事は有り得ないし、そう考えれば召喚されるまでの歴史の枝は共通だ。


 考えれば確かに風見かざみの疑問も分かるが、やはり死んだ人間が世代をまたぐことで再び召喚される事や、同じクロノスの時代に死んだ人間を召喚出来ない現実を前にしては机上の空論に過ぎないわけで……。


「さて、では話を本題に戻そう。今の問題は生きて日本に戻す手段についてだ」


「それなら簡単だ。俺が個別に戻しても良いし、塔を作り替えればもっと簡単だ。俺が個別にやった場合は間に合わない方が多いが、塔を作り替えればその可能性はなくなる」


「ええ! こ、この神聖な塔を交換するのですか!?」


 ここまで沈黙していたヨルエナが悲鳴のような声を上げるが――、


「元々その塔は先代が作ったものだろ」


「た、確かにそう伝わっております」


 この部屋に入れるのは召喚をする神官長と最古の4人だけ。

 ならフランソワや一ツ橋ひとつばしがいじくりまわす事など許されるはずがない。

 だけど、俺の時の塔と違ってある程度の機能は有していた。

 なら答えは簡単だ。以前のクロノスが俺と同じように好きにさせていたんだろう。

 死者を飛ばす所までしか作られていないが、それ以降はそもそも俺が召喚者を日本に戻せなければ不要な機能だしな。

 セーフゾーンの位置は決して変わらない。いつあの場所に決めたのかは知らないが、きっと何世代も前の事なんだろう。


「伝統ある大事なものだとは理解しているが、俺の時はまあ、とある二人のおもちゃのようなものでな」


「お、おもちゃ……」


 ちょっとふらっとするが、眩暈めまいでも起こしたか?

 無理もないが。


「とにかく色々と改良をして性能も向上している。召喚の負担も減っているはずだ」


「せ、性能……」


 まあ彼女にとっては単なる道具じゃなく神聖不可侵なものだしな。

 その点は、彼女の前でぶっ壊したからよく分かる。

 でもここは素直に飲んでもらうしかないだろうさ。

 それと――、


「ヨルエナ、そろそろスキルの制御アイテムをくれないか。こっちに来てからずっと無しでスキルを使っているんでね」


「あ、はい! それはもちろんです」


 今まで蚊帳の外だったヨルエナがパタパタと走り寄って来るが――、


「よせ! そいつに制御アイテムを渡すことは禁止したはずだ! 俺の指示を聞け!」


「ちょっと待てよお前。まだそんな事を言っているのか?」


 さすがにここまで来ると、怒りを通り越して呆れてくるぞ。

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