第480話 改めて話し合いだ

 翌日、改めて俺たちは召喚の間に集まった。

 メンバーは俺の他は宮神明みやしんめい――いや、少し抵抗はあるがここはクロノスと呼ぼう。他の連中もそう呼んでいるし、どうもそうしないと不安定なようだし。

 他は当然、最古の4人と呼ばれる他3名。風見絵里奈かざみえりな緑川陽みどりかわよう黒瀬川真理くろせがわまり

 そしてもう一人、神官長のヨルエナ・スー・アディンが加わっている。


 ここに他の召喚者はいない。ここは本当の召喚の間だ。

 残念だが、フランソワはここに入る権限はない。緊急時は別だが。

 そんな訳で、この6人での話し合いになったわけだ。

 そんな中、先ずは立場的に俺から話を切り出す事になった。


「昨日も話したが、改めて話そう。召喚者を日本へ帰す事は可能となった」


 この言葉だけで、改めて空気が引き締まる。


「それに加え、塔を改良したことで死者も帰すことが出来るようになった。死者とはいっても、その死因は俺が取り外す。詳細に関しては後で質問を受け付けるが、要はどんな形であれ日本に帰れるようになったわけだよ」


「ウチは昨日たっぷり聞かせてもらいましたので、是非続きを聞いてくださいな」


 全員がやれやれという顔をしながら納得したのはなぜだろう。

 ……考えるまでもないんだけどね。


「具体的にはどうするのよ」


「俺がスキルで日本へ返す。単純に言ってしまえばそれだけだな。ただやはり召喚者として成長するほどに、帰すのは難しくなる。まあ死んでしまえばそんな事は関係ないんだけどな」


「そこがよく分からないな。最初の点は分かる。俺たちは成長するほどにスキルが効かなくなってくるわけだし。だけど死んだらってのはどういう事だ?」


「昨日は本人にはまだ話さなかったが、フランソワの功績だよ。もう既に、死ぬと遅延効果があるだろう」


「ああ、クロノス……先代がそう作ったと聞いている。死ぬと光に包まれて……言われてみればそうだな」


 やはり今の塔は不可侵に近い存在だったんだな。

 教官組どころかこいつらも詳細は知らないで使っていたのか。


「そして遅延効果が終わったら、死体置き場へポイ捨てする事になっているわけだ」


「まあそうですね」


 緑川みどりかわは苦笑するが、目は笑っていない。

 他はそもそも苦笑すらしない。痛いところを突かれたという感じだな。

 もう話を聞いている黒瀬川くろせがわは余裕だが。


 それを、俺のところへ経由するようにしたんだ。

 俺は既に無意識でスキルを使えるからな。そして実質死んでいる人間には抵抗力は無い。

 帰す事は簡単だったよ。


「それを証明する手段はあるのかしら?」


 風見かざみの言葉に他も頷いている。

 しかしこれは難しいんだよな。


「俺は一度、児玉里莉こだまさとりを日本へと帰した。だけどまた召喚されてきたんだよ。本人にとってはこれで帰るんだと思ったのに、目が覚めたら召喚の間にいたから驚いたと言っていたよ」


里莉さとりが……嘘でしょ」


 ふらついた風見かざみをクロノスが後ろから支える。

 そしてごく自然に結ばれる手と手――ああ殴りてえ。

 お前は昨夜何をしたというツッコミは無しだぞ。


「事実だ。この件で召喚者を日本に帰す事が出来る事と、向こうの時間が本当に動いていない事が確認できたわけだよ」


「他に日本に戻って召喚された人間はいるのか? 特に死んだ人間が生きて戻って来るかが気になるんだが」


 二人を無視して緑川みどりかわが詰め寄るが――、


「残念ながら、出戻りは一人だけだ。確率的に同じ人間が召喚されて来る事なんて早々無いからな。特に死者を帰せるようになったのは奴との決戦が近い頃だった。殆ど死んで帰る人間は無かったせいで、新たに召喚したのも3人だけなんだ。残念ながら、全員新人だったよ」


「それだけ? 何年くらいいてどの位召喚したのよ」


「俺がクロ……向こうにいたのは52年だな。その間に召喚したのは250人だ。児玉こだまが重複しているから、正確には249人だな」


「異常なほどに少ないな」


「多少は聞いていたし、昨日は黒瀬川くろせがわから正確な数を聞いた。だけど驚いたよ。121年の間に1992人だって? それも今のお前クロノスになってからは1275人だそうじゃないか。俺からすれば、そちらの方が異常だ」


迷宮ダンジョンへ行けば、当然数は減る。だが俺がそれを悲しんでいないとでも思うのか」


 俺の声と口調で言われるとすげーむかつく。

 大体、”数は減る”って表現自体が俺じゃないわ。

 それとも、先代の俺はもうそんな精神状態だったのか?


「少し補足をさせてもらうと、当初の死者の殆どは本体戦での結果だ。何度も挑んだというか、挑まなきゃいけなかったんだ」


「その戦いに新人を連れて行ったのか?」


「常に勝つつもりでいたからな。総力戦になるのは仕方あるまい」


 だがそれで勝てたとしても、奴は時間を戻すだけ――とはいえ、本当のクロノスはそれを知っていた。

 他の連中も知っていた様だったが、あくまで確証を持っての事ではない。

 詳しくは聞いていなかったのだろうな。


 その理由は分かる。情報源はセーフゾーンの主だろうし。

 この迷宮ダンジョンにいる主たちは、基本的に敵対者しかいない。しかも強い。

 迂闊に話し合いでもしようものなら、理解する前に問答無用で殺されてしまう。

 絶対的な敵対者。それがこの世界でのルールと言って良い。

 だから彼らから情報を得ている事や協力関係にある事はあまり知られたくはない。危険なやつであればなおさらだ。

 いつかのクロノスがどんな奴から聞いたかは知らないが、そうとうにヤバい奴だったんだろう。


 となれば、多大な犠牲を出しながら本体戦をした理由は2つ。

 一つは奴の眷属を倒し力を削ぐことだけが目的だった。

 もう一つは、もし倒したら実際にどうなるのかを知りたかったからか。

 その気持ちは分かる。知らなければ対処のしようがない。

 そう考えれば、自分の意志で犠牲を容認したのだろう。

 例え分岐しない歴史の方は相当な犠牲を出すとしても、分岐して戻った方はもっと良いやり方を考えることが出来る。そこで死んだはずの人間も元通りだ。

 ただそれは、精神的には相当な負担が来るな。

 話に聞いたハーレム生活も、その辺りが原因か。

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