第473話 ループ計画

「まあいい。こっちでの話はあまり重要ではないからな。というより、これから起きた未来の話だ。俺がこうして追放される前に目覚めた事で、事態は大きく変わった。だから簡潔に話そう。俺の最後はみや……まあクロノスだな――と戦い、時計の針を刺されて日本へと帰還した」


 実際に俺を日本に帰したのは、本当の俺だろうがな。

 あの時ダークネスさんはいなかったが、龍平りゅうへいから聞いた話で事情は分かる。

 かりそめの肉体は失ったが、俺の元へ来てくれていたんだな。

 というかそれを知っていたからみやもああ動いたのだろう。

 あそこまで言って、時計の針を刺して、何も起きませんでしたとかだったら俺なら赤面して地に伏せるわ。


「その辺りは予定調和だ。そして帰った先には、当然いたのだろう?」


「当然の様にいたよ。そして地球人類は負けた。その点は?」


「今更よね。全部聞いているわよ。クロノスは再びラーセットに呼び出される事を利用して、それに対抗する手段を模索して行く事を決めたのよ」


「まあギブアンドテイクですなあ。この世界の人間からしたら、アレが消滅することは悲願の一つ。こちらとしても、いつかは地球を救えるかもしれない訳です。ウチらにとってはもうどうでも良い世界と言っても、一応は家族や友人もいますしなあ。それに……」


「それに?」


「やっぱり故郷を滅ぼされたと聞いて、良い気分にはなりませんわ」


 フム……いや、まあいいか。


「再びラーセットに呼び出された時、考えた事は俺も同じだな。だから悩んだが、結局は召喚して奴に対抗する準備をしたよ」


「そりゃ全部クロノスから聞いたからだろ?」


「それがな――」


 ちらりとみやの方を見ながら、


「その事に関してだが、時間が無いとか言って俺には何も教えてくれなかったぞこいつは」


「どういう事です?」


「起きてもいない事など知らんよ」


 そりゃそうだろうけどな。実に面倒くさい。


「とにかく、知識ゼロからのスタートだった。ラーセットの状態も、それを取り巻く世界も、これからの指針も何もかも無しだ」


「それは酷くない? クロノスらしくもない」


 さすがにそれには引っかかるものがあった様だ。初めて風見かざみが意見するが、


「だからやってもいない事など知らぬ」


 ですよね。

 確かにそうとしか言えないよな。


「まあその点は端折っても良いだろう。俺は追放され、命を狙われ、それでもお……ダークネスさんやその仲間に助けられ、生かされながら、最後は地球へと戻った。そこで待っていたのは召喚された人間全員の死。そして十数年後に現れた奴らの群れだ」


「当然そうなっているわよね。でも結局、また召喚されたのでしょう? ずっと続いているループね。飽きるほど聞いているわ」


「そうだ。だが事前の指示など無かったからな。本当に好きにやらせてもらったよ。北のイェルクリオとは戦争寸前までいったが、南のマージサウルとは友好関係を築けたよ。それに召喚者は出来る限り死なないように努めた。そのおかげで迷宮探索は飛躍的に進んだし、召喚者も本当に日本へ帰せるようになった。それにお前たちが奈々ななを使って倒そうとしている奴も倒したよ。まあこの点は話すと長くなってしまうんだが、要は俺が今こうしているのはその結果だ」


「ちょっと待ってくれよ。本当に日本へ帰せるってのはどういう事だ?」


「言葉の通りだよ、緑川みどりかわ。なんなら今すぐにでも帰してやれるぞ」


「信じられないわね」


「信じない根拠もありませんがなあ。その辺りはこんな単純な話ではなく、じっくり話すべきでありましょう」


「そんな余裕はないと言っただろう」


「こちらもその計画は凍結だと言ったはずだが」


「お前にそんな権利はない!」


 これは参ったな。みやもこの点は譲る気がなさそうだ。だけど今回は追放されてやるわけにはいかん。

 そもそもそんな必要も無いしな。それに――、


「きっぱり言ってしまうが、もし今までも奈々ななを使って消滅していたのだとしたら、地球に奴が現れるのは間違いなくそれが原因だぞ」


「理由は?」


「それ以外に考えられないからだよ。ちょっとした事情があって奴の生態には詳しくなっていてな。確かにあいつが自力で地球に行く事は可能だとは思う。だが毎回となれば原因は別にある。奴に意識させずに消滅させるという奈々ななの神罰。必ずそれを使って消し去って成功しているのなら、地球に行く原因は百パーセントそれだ。消し去っているんじゃなく、俺の様に送り飛ばしているだけなんだよ。そもそも、どうして代々の俺はそこに思い至らなかった?」


「それしかなかったからだ。それに、いつか必ず別の俺が打開する。その日までは、確実な事を繰り返すしかない。失敗したらそれまでなのだからな」


 みやも随分落ち着いてきたな。

 今の感じは出会った時に、俺だと勘違いした雰囲気に似ている。

 って――見れば後ろで風見かざみと手を繋いでいる。なんか殴りてえ。

 しかし今の話からすると、俺がいちいち言わなくても分かっていたとしか思えない。

 それでも他に手段が無い以上は、それを繰り返すしかなかったわけか。

 そしてそうしつつも、新たな可能性の模索も続けた。俺らしい。


「だが対処があるというのなら聞かないでもない。これは予想外の事態だからな」


 ……と言う様に風見かざみが言えと言った気がした。

 こいつもコピーなんじゃないかと疑いたくなるが、それは無いか。

 というかね、対処も何も無いんだよ。この時代に来た時点で、今までの計画は見事に瓦解した。

 だけど光明でもあった。何せ俺と協力すれば、奴を倒すなど容易だろうし。

 ところが俺は死んでいて、代わりを引き継いだのは宮神明みやしんめいときている。


 確かに俺がクロノスの時に反乱を起こされたとはいえ、それはこいつの真面目な性格と、頼まれたら断れない単純な性格のせいだ。

 実直で冷静。仲間想いで正義感に厚い。それは利点でもあるが、こいつの欠点でもある。

 あの時も、リカーンにそそのかされた連中に詰め寄られてリーダーを引き受けた経緯が目に浮かぶようだ。

 そういった意味では、こいつがクロノスをやっている事にはさほど違和感はない。ただかなり壊れかけている感じがする。それに性格上、アドリブが効かないんだな。

 計画を正確に遂行する能力には優れているが、逆に臨機応変とはいかない。


「彼女をコピーしないのなら、初代の苦しみを味わう事になるわよ」


風見おまえ話を聞いていたか? 奈々ななの神罰で倒すのは無しだ。たとえさっきの話が事実でなかったとしても、ここまで状況証拠が揃っているのに同じ事をしてどうするよ」


「確かにそうではありますな。どうでしょう、今回は確かに聞いていた話と状況が違い過ぎます。先代の言っていた、転機が来たのではないのですか?」


「確かにそうだな。先代は自分が消えてしまった時のために、数多くの予定を残していた。当然、成瀬敬一なるせけいいちが召喚されてきたときの事もだ。だが予想外の行動をとって、俺たちでも決められない状況になったら、その時はけいいち自身に決めさせることになっていたはずだ。必ずそこに、新しい道があるとな」


 良い事言ってくれるなあ、俺よ。

 形あるうちに会いたかったよ。

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