第472話 やはり原因は俺の死か

 結局こいつらの計画は、俺を極限まで追いつめて鍛える事だ。

 その結果死んだら死んだで構わないと思って良そうなところが怖いが、なんだか微妙に温度差を感じるな。

 宮神明みやしんめい風見絵里奈かざみえりなは主犯だろう。まあその呼び名が正しいかはともかく、この二人は本気で殺そうとしていたんじゃないのか?

 ぽろりと言った抹殺計画の話だが、緑川陽みどりかわようの話と完全に食い違う。

 こいつの言葉通りなら、俺は普通に鍛えられるはずだ。抹殺命令など必要ない。

 だけど今はまあ――、


「遅かれ早かれ発令されて殺し合いにはなったさ。その予定だったんだろ?」


「い、いや、予定ではいきなり召喚者と戦わせるような無茶はしない予定だった」


新庄しんじょうさんや現地人と迷宮ダンジョン怪物モンスターを退治して……そうね、1年くらいしたらそれは成瀬敬一なるせけいいちの姿を真似たはぐれセーフゾーンの主だったという事になる計画だったのよ。もちろん、成長の具合は見て慎重に事を進める予定だったわね」


 どっちにしろ酷い話だ。

 どうせその間は、先輩や龍平りゅうへいには俺の生存は伝えない予定だったんだろう。


「偽物も何も、スキルはどうするんだよ」


「セーフゾーンの主には特殊な能力を使う者も多いわ。別に問題ないわね」


 しれっといいやがるな風見こいつは。

 こんな所は全く変わっちゃいない。


「だが実際には、俺は新庄琢磨しんじょうたくま須恵町碧すえまちみどりと戦う羽目になった」


「よく勝てたものですなぁ……あの二人、相当な猛者でありましたが」


「確かに強かったが何とかな。だけど猛者とは言うには程遠い。俺の知る召喚者からすれば、新人に毛の生えたレベルだ」


「口を挟んですみませんでしたなあ。続きを話してくださいな」


 その言葉と共に吐き出された煙を合図に、俺は続きを話し始めた。

 二人を倒した後、セポナという女性にこの世界の事を教わった事。

 その後すぐダークネスさん――正しくは俺に出会った事。

 そして地上を目指す途中で襲われた事も。


「もうそこでご自身と会われてたんですなあ」


「まさかそうとは夢にも思わなかったけどな。それに、あまり俺って感じはしなかったよ」


「で、ありましょうな……ですがその時点で襲ったのは、おそらくもうそこまで強くなっていると判断したからでありましょうな」


「確かに、新庄しんじょうたちを倒せるなら、多少の無茶も大丈夫か」


 大丈夫じゃねーよ。人をなんだと思っているんだ。


「そもそも、地上に来られては困る。お前は時が来るまで地下で極限まで鍛える予定だったんだ。絶対に外へは出すなと言われていたんだ!」


「それは誰にだ? みや


「俺はお前クロノスだ」


「お願いだから落ち着いて……計画を立てたのは何度も言ったけど、先代のクロノスよ。理由は聞いていないわ。本当よ。ただ地上に出してはいけない。他の召喚者との接触は出来るだけ避ける。十分に強くなったら事情を話して、これからの事を決める予定だったのよ」


「それは本当にクロノスの計画か?」


「刺激しないで!」


 風見かざみはすごい剣幕で叫んだが、今の俺ではそよ風の様なものだ。何も響かない。


「俺が制御アイテム無しでスキルを使うリスクと、その解消方法を聞いていないわけがない。お前たちの言うその計画では、その点はどうやって解消するはずだったんだ?」


「勇者サンは不定期だけど地下の町を転々と立ち寄るわ」


「それまでには協力者を作って、そこで何とかしてもらおうって計画だ。中にはそういった店もあるしな」


「それは今までのクロノスとは違うやり方だな」


「ご明察……と言いたいところですが、続きも話してくださいませな」


 なぜそう思ったのか知りたいといった所か。

 もしくは誰かから聞いた可能性もってところだな。

 まあ良いだろう。


「俺のスキル問題は、ダークネスさんが解決手段を用意してくれていたよ」


 まさか彼氏がいるとは思わなかったけど、考えてみればおかしくはないよな。

 しかしそう考えて見ると、俺って結構色々な女性を寝取ってるな。

 将来は地獄落ちだと覚悟しているが、なんだか更に重石が増えた気がするわ。

 でもそうなる前の今を考えると、寝取られた感じで胃がキリキリと痛む。複雑だ。


「その後はどうしたんだ?」


「地上に戻って、召喚の塔をぶっ壊して時計も奪ってビルを倒壊させた。死傷者は数万とも言われていたな」


「お前……本当に人間か?」


「頭を抱えるしかありませんわ」


「誰に言われなくとも、抹殺命令を出すわよ、それは」


 だよねー。それは自分でも分かる。だがこれに関しては卵が先か鶏が先かって話だぞ。

 自分を正当化するにはやった事が大きすぎるが、計画自体がずさんすぎる。

 その計画を立てたのがクロノスとしても、実行するこいつらの理解がまるで足りていない。

 しかも俺を見失って自由に行動させるなど言語道断だ。


「とにかくそこからは俺とお前達との戦いの日々だったよ。最後の最後、俺が日本に帰る前には少しだけ協力したがな。それまでは双方ガチの殺し合いだ。相当にやりあったよ。ついでにそれに関して聞きたいんだが、なぜ召喚者をきちんと鍛えない。どうしてああも殺し合わせた。あれは本当に俺が決めた事なのか?」


「実に耳が痛いですなあ。もう腫れあがって何も聞こえなくなりそうですわ」


黒瀬川くろせがわ!」


「隠しても仕方ありませんでしょう。それに、これは成瀬敬一なるせけいいちさん本人にも大きく関わる事ですしな」


「詳しく聞こうか」


「4年前に反乱があったと聞いたら驚くか?」


「もう知っている」


「聞くまでもない事でありましたな。当然、何度も起きている事もご存知でしょうな」


「ああ。だから召喚者が育たない。この世界にいる召喚者は、一部を除けば数年しかこちらにいないひよっこばかりだ。俺から言えば、完全に戦力外のお荷物でしかない。いつからそうなった」


「言うまでもないですな。先代が現役を離れ、樋室紗耶華ひむろさやかさんのスキルとかつてのセーフゾーンの主の抜け殻でかろうじて現世に留まった。そこからですわ」


 これでこの4人と樋室ひむろさんが繋がっていた事は確定か。

 樋室ひむろさんのスキルは”魂操作”。

 その存在を根源から消してしまうスキルと聞いていたが、成長すればそこまで出来るわけだ。

 だけど召喚者一人の魂をこの世界に残すには……いや、俺の場合は放っておいても残るんだけど、それを会話できるようにするには代償が必要なほど大変なんだな。


「単純に言えば、俺たちの力不足だ」


「そこは緑川みどりかわさんが庇う所ではないでしょう。本人がはっきり言うべきではないのですかねえ?」


「別に申し開きなどする必要はない。今までの体制はぬるかった。その反面、行動には様々な制限が付いた。元より、それを正す機会を願っていたのは皆同じだろう。あれはある意味で良い機会だった。だから改革したのだ」


「召喚者を使い捨てにするようにか? 先代はそんな事は絶対にしなかったろうがな」


 まあそれでも、こいつに反乱を起こされた俺が言うのもどうかと思うがね。


「必要なのは自由と規律。そして万が一の時は、罰を与えることを恐れない事だ!」


 その結果できたのが無法と暴発、そして粛清では自慢にもならんわ。

 だけど龍平りゅうへいが言うには、それぞれ一触即発のような状態でもなかったらしい。

 それなりに上手くいっていたと思うが、俺の感想ではこのシステムは野党の群れという言葉が相応しい。

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