第471話 あの時は酷かった

「さて、どうせ最初の方からいたんでしょう。ちゃんと制限時間や予定の話は聞いておりましたか?」


 途中から来たんで最初の辺りは聞いていないが、4人の様子から簡単に予想はつくからいいや。

 多分間違ってはいないだろう。


「ああ、大体はな。だからはっきりと宣言しておこう。奈々ななのコピーは作らない。ただコピーに関して一応は聞いておこう。もし俺の計画や予想を上回る物だったら気が変わるかもしれないぞ」


「コピー計画は先代のクロノスが決めた事よ。貴方の言う“本体”を倒す為にはそれしかないって。だから私たちはやるの。たとえ本人であっても、今更何も知らない人間から止められて『はいそうですか』とはならないわ!」


 まだ意識を失ったみやを抱きしめながら風見かざみが応えるが、これはなんか会話というより心の叫びをぶつけているって感じだな。

 あとみやをこうした怒りからか。


「だがそれはことごとく失敗している。何せたとえこの世界から消滅させてとしても、地球は奴によって滅ぼされるわけだからな」


「俺たちにとっては、もうこっちが故郷ですよ」


「そういった意味では、すみませんが地球の事など今更な話ですわ」


 あれ? じゃあ結局、ここにいる全員こっちの世界で死ぬまで過ごすつもりだったのか。

 いやまあ、確かに帰る手段は毎回持ち込まれる時計の針だけだから当然か。

 彼らからすれば、地球が亡びようがもうどうでも良いんだな。


「要するにこっちの世界に居なければいいから、後の事などどうでも良いんで神罰で消し去ろうとしたのか」


「どうでも良いという訳ではありません。どうにかしないと、別のウチがこちらに召喚される事なく死んでしまう事も有り得ますしなあ。これは解決しないといけません。ただ他に手が浮かばなかったからと聞いておりますわ。やがていつか、この状況を打破する自分か別の誰かが現れる。それまでは確実に成功する事を粛々と実行するだけだそうですわ」


 あー、俺なら確かに言いそうだ。


「その状況を打破する自分ってのが、アンタだと俺は思うんだよ。これでも初期に召喚された生き残りでね。最初のクロノスは知っているし、色々な召喚者は見て来た。だけどアンタは違うな。上手くは言えないが勘違いとかそういうレベルじゃないね」


「では、そろそろ時間も無い事ですし教えて頂きましょうか。貴方が普通でない理由の全てをですな。先代のクロノスさんはウチも良く知っております。その経緯と今回の不明な点が気になるのでそちらの肩入れしておりますが……」


「話の内容によってはみやに付くと」


「正しくは、先代クロノスさんの遺志にですわ」


 そう言うと、黒瀬川くろせがわは寂しそうに天井へ向けて煙を吐いた。

 それはまるで、天へと昇った俺の魂に語り掛けるようでもあった。

 まあ死んでないけどね。つか今でも居る事はお前も知っているだろう。


「そうだな何処から話すべきか、整理するのが大変だ。ちょっと長い話になるぞ」


「簡潔にして欲しいものね。時間はある様でないのよ」


 相変わらず風見かざみは憎悪に満ち満ちているな。

 昔も結構きつい所があったが、それは馴れ合いはしないという意思表示でもあった。

 でも今はそうじゃない。

 ふう……俺も煙を吐きたい気分だ。溜息を誤魔化す為にね。


「ではまずは簡単に流れを話すとしよう」


 こうして俺は、今までの事を話し始めた。

 最初から――初めて召喚された時からの話を。


「そんな訳で、いきなりスキル無しとして追放されたわけだ」


「それを決めたのは先代のクロノスよ。こちらを恨まれても困るわね」


「もう怨んじゃいないさ」


 というか、クロノスの名が出てもみやが過剰な反応をしなくなったな。

 おそらく俺がいない間に風見かざみが色々とやって抑えたんだろう。

 この状況でご苦労なこったとも思うが、今は有難いと考えておくか。


「それが本心なら少し安心したぜ。一応、俺が付いていたと思うんだが気が付いたか?」


「いや全然。誰かあの場所を知っている人間がいたのだろうと予想はしていたが、緑川お前とはね。どうやってついて来るんだよ」


「自分を液体に変えて一緒に落ちる。あとはばれないように様子を見ながら調節だな。死なれても困るが、あまりぬるすぎてもダメだ」


 物理的に繋がっているわけはないが、確かにあの鍾乳洞のセーフゾーンの天井はかなり高かったな。

 しかし繊細な調節が必要な気がするが、人選を誤っている様にしか感じない。

 いや、緑川みどりかわも成長しているはずだ。その辺りは大丈夫なのだろうが、基本的には放任か。

 だがあの頃の俺じゃあ、ちょっと目を話したらあっさりと死ぬぞ。

 以前にも感じたが、こいつら俺が死んだら死んだで構わないと思っている感じがあるな。


「それで死んだらどうするつもりだったんだよ」


「その点は俺もよく分からん。この計画に関しては詳しく聞いていないからな。だけど死なれては困るんじゃないか? だからあそこには現地人の軍がいただろ? 軍務庁のお偉いさんに掛け合って、大規模な遠征を組織したんだ。それに信頼できる数少ない召喚者もつけた。暫くすれば合流して、怪物モンスターを倒しならが鍛えられるだろうって予定だったはずだ。実際にそうなったんじゃないのか?」


「そういや勇者って奴がいたな。セーフゾーンの主と相打ちになっていたが、あれは無関係だったのか」


「勇者サン・テス・ホルメスですな。貴方の安全の為に派遣した勇者の一人ですわ。それにしても確かに強い人間でしたが、セーフゾーンの主を倒すとは大したものです。この世界では、歴史に名を残す偉業ですわ」


「死んじまったら意味はないがな」


「というか、新庄琢磨しんじょうたくま須恵町碧すえまちみどりが付いて行っただろう。あいつらが倒したんじゃないのか?」


 勇者サンって奴の死は無視か。確かに召喚者との仲は悪そうだったが。

 ただあの二人が密かに手を貸していた可能性はなくはないが――、


「いや、それはなさそうだったな。竜にあいつらのスキルによる傷はなかったし、勇者は召喚者を嫌っているようだったよ。というか、勇者って何だ? それに――まあこちらは聞かなくても分かるが、現地人とはあまりいい関係を築けていないようだな」


「そうでもありませんよ。勇者って名前はこちらが持ち込んで、向こうが気にいった呼び名です。それまでは将軍と呼んでおりましたわ。それに外に出れば、召喚者向けの店舗が幾つもありますんで……いや、本当に未来から来たのならもう知っておりますわな」


「それより二人のスキルを知っているって事は、新庄しんじょう須恵町すえまちを知っているのか。ならちゃんと保護されたんだろ? 予定通りじゃないか」


「出会ってすぐに殺したよ」


 一瞬にして場が凍り付くが、隠したって仕方あるまい。それに――、


「保護も何も、俺の抹殺命令は出していたんだろ。今更だ」


「計画はあったけど、まだ出していないわ」


「そりゃそうだ。来たばかりだったしな。だけど”まだ”って事は、計画はあった。なら遅かれ早かれ発令されて殺し合いにはなったさ」


 まあ確かに、あの時点では俺の抹殺命令は出ていなかった様子だけどな。

 あそこで戦闘になったのは、俺の不注意と、心がもう壊れかけていたからだ。

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