第468話 予想通り奴を倒せたのは俺だけか

 やっぱり29歳の俺だけじゃなく、高校生の俺がこの世界で死ぬパターンもあったわけか。

 それはまあ、不思議でも何でもない。こんな世界だしな。

 ただそうなったら終わりだと思っていた。俺を見つけるとすれば困難だし、そもそも実体を持たない人間を帰してどうなるのやら。

 ただそれでも、龍平りゅうへいや先輩が引き継いでいた事があるってのは驚きだ。

 二人とも素直にそんな事をやるタイプではない。

 でもきっと、説得されたんだろうな。二人とも責任感は強いし。

 しかし……奈々ななもか。

 どっちにしろ戻ってまた話す事になるが、色々とありそうだな。


「それでさっきの質問だけど」


「それなんですが、俺倒したんですよ、奴を」


 樋室ひむろさんの目が点になる。


「倒したってアレを? 本当にセバト・ラウ――」


「はいストーップ! 本体で良いから。分かるから。俺たちはそうやって来たから」


「でも正式名称で呼ばないと、実は意思の疎通が出来ていたようで出来ていないって可能性もあるじゃない?」


 その点についてはごもっともです。が――、


「実際に倒したんだよ。ただこっちの世界とは形が違うな。だけど、昔は名前も違ったんじゃないかな?」


「確かに、昔はセバト・ラウ――」


「だからストップだって。多少の話は聞いたけど、何度も仕掛ける内に変化していったんだって?」


「ええ……これでも古参なのよ。その辺りの事は知っているわ」


「だけど俺の時は、一発で倒しちゃったんですよ。だから変化の余地は与えなかったんですよね」


「……ねえ、騙してない?」


「そんな事をする理由も必要もありませんよ、先生」


「あー、なんだかもう全然分からないわ。その呼び名、なんだか複雑だわ。そうね――みんなそう呼んでくれていたのよね。でも今その名で呼ぶ人は誰も……いいわ、なんだか少し安心した。それじゃあ、聞かせてもらえる?」


「では我も聞こう」


 いつの間にか、ダークネスさんが部屋に入って来ていた。

 今は俺だという事が分かっているけど、俺自身と未来の俺であるダークネスさんと俺を名乗っていたみや……うん、面倒だからこれからはダークネスさんでいいや。その方が慣れているしな。

 しかし気配が一切無いからマジで驚いたよ。

 今の俺でも分からない程の技量……じゃないな。もうそこまで希薄なんだ。


「ご存知の通り俺はこっちに呼び出されたんだけど、みや扮するクロノスによって地球に帰されたんですよね。だけど今考えてみれば、あれをしたのは正しくは俺――いや、ダークネスさんですね」


「相手が知っている前提で話されても困るな。まだお前はここに来たばかりではないか」


 まあそうなんだけどね。


「では話を少し戻しますけど、代々の俺は、やっぱり話を聞かされて日本に帰されていたんですか?」


「残念だが、覚えてはいないな。だがその時が来れば自然と体は動く。それだけは、決めてあるのだ」


 せめてこうなる前に会いたかったが、こうなったから今の状態があるとも言えるか。


「ある程度は聞いているわよ。その話が必要なら先に話すけど、確かにその通りよ。この世界の事や今後の事を説明して、迷宮ダンジョンで鍛えて、そして最後は全てを託して日本へ帰すの。向こうでは全部忘れているそうだけど、こちらに来ればまた思い出すそうよ」


「まさにそんな感じでしたが、制御アイテムはどうしているんです?」


「んー、交互に使ったと聞いているわね。でも互いの負担が大きいから、必要な教育が済んだらすぐに帰していたと聞いたわ」


 あ、なるほど。

 だけどこの世界では、俺には与えられなかった。

 当時はクロノスが俺なのだから、仕方ないと思っていた。制御アイテムは一人につき一つだからね。

 だけど気にはなっていた事がある。ダークネスさんが言った『貴様にアイテムを渡したくない理由もまた道理よ』という言葉だ。

 これは勘違いか、はたまた口裏合わせか……そんな風に考えていた。

 だけど違う。ダークネスさんは制御アイテムを持っていない。それは感じ取れる。

 それに、もう精神が壊れるとかそういった次元でもない様だ。これは後で檜室ひむろさんに聞こう。

 それはともかく、そうなると俺の制御アイテムは存在する。だが本当に渡されなかったわけだ。

 当然だがヨルエナの独断ではないな。みやの野郎、何を考えていたのやら。


「では今は簡単に話しますが、俺は確かに日本に戻って、またラーセットに戻るという時間のループに入りました。だけどそこでクロノスとして色々やって――まあ失敗も多かったですが、奴を倒す事に成功したわけですよ」


「奴というのは本当に本体で良いのだな?」


 あ、やっぱりその話をしていた時点でもういたのね。

 案外、一緒に入って来ていたんだったりして……。


「そうです。どうやらそれが奴にとっては初めての屈辱だったようで、一方的に繋がれちゃったんですよ」


「繋がれたとは?」


「文字通り。向こうが俺という存在を決して見失わないように、互いの魂が離れないようにしたんですよ。地球と月みたいなもんなのかな」


「でも、それと今の状況がどう繋がるの? それに倒して繋がった?」


「まあまあ。あいつもさすがに世界を滅ぼすと言われているだけあって、単純な強さ以外にも色々と酷いチート持ちだったわけですよ。さっきの一方的に俺と繋がったのもその一環ですが、最大の酷さは時間を戻す事ですね。あいつ、死ぬ事が分かると時間を戻すんですよ」


「それが分かったのが、繋がったからって事?」


「そんな感じで正解です。知り合ったセーフゾーンの主に聞いたんですが、奴は俺を絶対に殺したいそうです。かなり慎重というか臆病と言うか分からないですが、俺が存在する世界では安心して暮らせない様なんですよね。そこで、俺が生きているのかが分かるようにしたらしいです」


 セーフゾーンの主に知り合いがいるという情報は可能な限り秘匿してきたが、ダークネスさんがいるからここでは良いだろう。

 大体双子がくっついている時点で知らないとかないわ。


「ふむ……だが時が戻ったという事実を知っているという事は――」


「そうなんですよ。俺たち召喚者はこの世界に存在するけどいないような物。時は止まっていて、本当の時間や体は向こうに置いてきたままです。そのせいか、俺は奴が過去に戻ると引っ張られて一緒に時間を戻るわけです。そして、俺はそれを覚えていると」


「ククク……随分と面白い状態になったものだ。正に想定外だ」


「というか俺がそんな厨二笑いをする事が面白いよ。何が有ったんだ?」


「さてな、もう忘れた過去である。だがそうだな……龍平りゅうへい……あいつが何か関わっていたような気もするか」


 影響されてしまったのか。一瞬頭を抱えそうになったぞ。

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