第469話 おそらく予定通りなら全てが終わったんだ

「話を戻してもらっていい?」


「そうでしたね。そこで色々と考えたんですよ。これはチャンスじゃないかとね。アイツは俺がいる場所までしか戻れなくなったわけです。この繋がりとはそういうものだそうなんですよ。時を戻すチート持ちが、わざわざそれに制限を付けてくれたわけですね。そこまでして俺を倒したかったと考えると、少し笑えましたよ。世界を滅ぼせる奴が、俺個人の為にそこまでするのかとね」


「今まであれを倒した人間なんていなかったわ。クロノスさんに聞いた話では、水城奈々みなしろななさんのスキルだけがそれを可能にするんだって。でもそれだと、あれは死を認識する前に消滅させるから、誰とも繋がらないし過去にも戻らない訳ね」


「まあそんな訳す。でまあさっき言ったように、これで奴を本当に根絶する事が出来るようになったわけです」


「何をしても時を戻られては意味が無いであろう」


「ああ、肝心な事を言い忘れていました。あいつは時を戻すたびに、更に遠くの時間にしか戻れないんですよ。5分や10分前に戻って、勝てるまで何度も繰り返しとかは出来ないって訳です」


「なる程とは思うけど、それでどうして今の状況になったの?」


 それは俺も予定外だったんだよね。本気で。


「俺が日本に戻ってから過去のラーセットに召喚されるって話は知っているんですよね?」


「ええ……さっきも少し話したけど、その辺も全部知っているわよ。初めて聞いた時は言葉も無かったわ。でもその後で聞いたの。故郷が滅んで、恋人も友人もみんな死んでしまって、どうして戦うのって」


「なんて答えたんです、ダークネスさん? つーか俺」


 これは是非とも聞きたかった。環境がどう俺を変えたのか知りたかったからだ。

 ではあったんだけどね――、


「知らんな。もはやおぼろげな記憶だ。顔も名前も覚えている。だがそこに何の感情も無い。ただあるのは復讐心と使命感だけだ。必ずや奴を倒す。そしてお前を生きて日本に帰すというな。それが果たされたら我は消えるだろう。檜室ひむろも再び歩けるようになる」


 さっきスキルの代償と言っていたか。ダークネスさんが今ここにあるためには、彼女が何かを負担していると考えて良いのだろう。

 でもそんなに仲が良かったかな?

 と考えてやめた。だって俺だもの。こっちの世界では、手を出したのかもしれないしな。

 というか、考えるまでもなく存在が消えた俺をこの世界に呼び戻したのは樋室ひむろさんだ。多分、咲江さきえちゃんと同じような感じかな。でも人として戻ってくることはもうできなかったわけか。

 状況には少し興味があるが、これ以上は知ってもしょうがない。

 男女の機微。しかも別の自分の女性遍歴とか知りたくも無いわ。


「まあそれを知っているのなら話早い。戻せる時間に限界がある以上、考えられるパターンは2つだったんですよ。1つは俺がラーセットに召喚された時。あ、もちろん過去のラーセットです。これが一番可能性は高かった。何せ一番古い過去ですからね」


「確かにそうね」


「もう一つが地球ですね。あっちまで時が戻る可能性です。何せ俺たちの時間はやっぱりあっちにある。奴の時間遡行の限界が俺の時間な以上、俺に付いて地球に来る可能性も否定できなかった。なにせ、地球は俺にとっての過去ですからね」


「その場合は?」


「どうにもならないでしょ。俺にラーセットの記憶は無いし、奴も広い地球で俺を見つけ出すことは出来ない。近代兵器はやっぱり強いですからね。奴の強みは、天敵がいない事を利用して地球上の生物を次々と同類にする事。自分じゃあ動けない。そうこうしている内に、ラーセットに戻る。それは同じでしょう?」


「確かにそう聞いているわね」


「そしてもうそこがリミットになるわけです。そこから先の過去に俺はいない。そしてこちらに戻れば、奴は時間を地球に置いて来てしまう。どっちにしても、奴が俺と繋がった時点でチートも終了。後は奴を倒して全てが終わる」


「……一つ確認しよう。お前は高校生の俺を召喚したか?」


「さすがに察しが良い。召喚しなかったよ」


「馬鹿か、貴様は!」


 ダークネスさん渾身の右ストレートが飛んで来る。

 だが――軽々と片手で止める。いや止まってしまう。これほどまでに、力を失ってしまっていたのか。

 確かにもう召喚者の強靭な肉体は無い。分かってはいるが、悲しいな。


「言いたい事は分かりますよ。俺を呼びだして育て、説明しておかないと継承が途切れてしまうって話ですよね。だけど俺を召喚しなくても、結局地球にいる俺は召喚されてしまうんですよ。分かっているんでしょ? 卵か鶏かって話だ」


「……」


「他の人が召喚される場合もあるって聞いているわよ」


「それは時計の針という媒体を使った場合ですね。俺を召喚せず、時計の針も戻さなければ、百パーセント俺が召喚される。ラーセットを襲う時の奴にも、平和に生きている俺にも、どちらにも干渉できないんだから変えようが無い。なぜそうなるのかは分からないんですけど、でも初代がそうだった。だから何も手を出さなければ、初めてこの状況になった歴史がもう一度始まる」


「そうね……最初の一人に関しては聞いた事は無かったわ」


「だけど俺の時代で倒してしまえば、とりあえず地球に行く事は防ぐことが出来る。大体、今まで奈々ななを使って消滅させましたとか言いながら、実際には地球に逃がしてしまっている訳でしょう。ハッキリ言って、これまでの事は全部失敗しているんですよ」


「それは常に考えていた気もするな。それで……何かがあった事だけは覚えている」


「それで、成瀬敬一なるせけいいち君としてはどうやって解決することにしたの?」


「いや、単純にあの世界から根絶させる。それが最優先でしたよ。さっきも言ったように、戻れる過去には限界がある。そうなったらもう逃げられない。そして、その時代はどうやってもラーセットが襲われた時です。まあ味方もいないし、敵は飽和して出て来たから戦力は十分。かなり危険な戦いになるでしょうが、そこで倒せば完全に根絶だ。もう地球に行く事は防ぐことが出来る。それが俺の見いだした唯一の解決策ですよ」


「それでは不十分だな」


「まあ言われるとは思いましたよ。だけどそこで本当に全てを終わらせられる可能性があった。というか、多分俺の考えに間違いがなければ確実に出来たと思う。試せなかったのは残念ですが」


「それは?」


「話していきたいし、まだダークネスさんの件も聞いていないけど、ちょっと時間オーバーです。そろそろ向こうがヤバい事になっていると思うので、一度戻ります。また来ますよ」


 そう言って、再びラーセットへと跳んだ。

 マジで忙しい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る