第437話 ちゃんと来ているかな

 磯野いそのたちと別れた後、現在龍平りゅうへいたちが待機しているセーフゾーンへと飛んでいた。


「さてそんな訳で」


「いやどんな訳だよ」


「どんな訳なんですか? ご主人様」


「ミリーも知りたいですぅ」


「良いから聞け!」


 場所は龍平りゅうへいがかつて文字を見つけたというあの場所だ。

 小部屋程度の広さしかないうえにちょっと不便な所にあるので、あまり利用はされていない。

 ちなみに壺は両方空だった。ただの飾りかよ。何か重要な意味があるのかと期待したんだけどな。

 とにかくその小さなセーフゾーンで龍平りゅうへいと待ち合わせをしていたわけだ。もちろん双子付きで。


 普段は探究者の村を拠点にしてもらっていたが、実際やってみたらかなり不便だった。

 セーフゾーン同士が遠すぎるんだよ。

 龍平りゅうへいたちの身体能力を考えれば大変動に巻き込まれることは無いとは思うが、万が一でも失敗は許されない。

 考えてみれば、不便だったからこそダークネスさんたちの拠点になっていたんだよな。自分のスキルだと関係なさ過ぎて失念していたよ。たまに他のセーフゾーンに繋がらない事もあるわけだしな。

 これからは、ここを本格的に拠点にしてもらおう。

 だけどメインの用件はそっちじゃなくて――、


「いよいよ決戦の準備に入ろうと思ってな。召喚者たちにもそれとなく伝えてある」


「怖くて逃げだす奴が出るんじゃないか?」


「その分は、たとえ新人を投入することになっても不足分は召喚する」


「その覚悟が出来ているなら良い。それで、何でこんな場所に呼び出されたんだ?」


「いや、実はお前は今回要らないんだけどな」


「ぶっ殺されえてえのかてめえは!」


 立ち上がって両手のナックルを打ち鳴らすが、これはブラフだ。本命は蹴りだな――って、そこまで本気になってどうする。


「実は双子に頼みたい」


「だから正しくは双子ではないのだがな」


「言葉遣い!」


「ミリーもリリーも、双子じゃないのですよ、ご主人様」


 龍平りゅうへいは満足そうに頷くが、そのやり取りはいらん。

 だがこいつらの事を任せた以上、ここで掌をくるくる回して口を出しても仕方あるまい。

 諦めよう。


「とにかく話を聞け。奴の最終目的地が絞り込めた」


「それは驚いたな。どうやって――は磯野いそのなんだろうが、何を根拠にそう考えた」


「ハスマタンが襲われた話はしただろ」


「話も何も、俺は知っているよ」


「そうだったな……」


 ついつい他の召喚者と同じように話してしまった。

 今更だが、あの時互いにそれを知りながらも殺し合ったんだ。

 ではあるが――、


「実際のハスマタンの様子は見ていないだろ。あの時、雲霞うんかの如く奴の同類が現れてあの都市を襲ったんだ。その時から考えていたんだよ。あの戦力は何処から来たのだろうかとね」


「外じゃないのか?」


「そりゃある程度の数が揃えば外にも行くだろうが、知っているだろ、奴は強大な割に慎重だ。そして奴が外に出れば、飛行生物が感染する」


「それで?」


「完全に同類化した奴は飛ぶことが出来ないのは地球でも確認しているが、あいつらは危険を感じたら飛んで逃げるからな。地球でも、一部同化した鳥が多く見つかっている」


「それがどうかしたのか?」


「こちらの世界でも同じことが起きると考えれば分かるだろう。その飛行生物の行動範囲や同化の様子から、大体の距離にいるかは現地人でも特定する。幾らあいつでも、準備が出来ていない状態で万の軍勢と戦ったら負けるだろう」


「その場合は過去に戻るだけだろうがな」


「それでもそうなる事が分かってやる馬鹿ではないだろうさ。それに肝心なのは、こっちの飛行生物は地球よりも大きくて凶暴だ。本体や眷属はともかく、感染された同類程度ならさっさと捕まえて食っちまうよ」


「寄生された塊だろ。食ったら即奴らの同類になるんじゃないのか?」


「それに関して問題ないのはラットで実験済みだ。それに同類を増やせるのは本体か眷属限定となれば、ただの同類はこっちでも無害だと想定できる」


「まあ食う気はないがね。そういえば研究者だったな」


「お前の金でなれたんだよ。これに関しては忘れずに誇っていいぞ」


「どうでもいい。それより今の問題だ」


 確かにそうだ。


「そんな訳でミリーとリリーには、指定するセーフゾーンの主と交渉してもらいたい。奴は外ではなく、そこを拠点にすることはもう予想済みだ」


「それは構わないですけど、はぐれセーフゾーンの主たちが動き出すかもしれませんよぉ?」


「どういたしますか? ご主人様」


 確かにあまり強敵が集まるのは……いや。


「この際構わない。フリーで動き回っている連中だろ。奴を倒せないまでも、眷属を倒したり行動を阻害してもらえれば十分だ」


「それなら構いませんね、ご主人様」


「それで場所は何処なんですかぁ?」


 そういや肝心な事を言っていなかったな。

 そんな反省をしながら、磯野いそのから受け取った地図をがさがさと広げて見せる。


「ええと……ここだな。かなり強力なやつがいるらしいが」


「ああ、そりゃ無理だ」


「諦めた方が良かろう。時間の無駄だ」


 真顔になっていつもの口調に戻る。そういった奴か。

 そしてパンパンと手を叩く音と主に――、


「はい、言葉! しっかり覚えるんだ」


 いかにも面倒くさいという顔をしながらこちらを見るが、すまないがそんな事に時間を取られている余裕はないんだ。申し訳ないが付き合ってやってくれ。

 それよりも本題だ。


「なぜ無理なんだ? 気難しくて人の話を聞かないのか、それとも知能が無いのか?」


 即答で断言したって事は、そいつの事は知っているのだろう。

 というか、黒竜もそうだったがこいつら迷宮ダンジョンの事は全部と言えるほど詳しく知っているんだったな。

 だが俺たちが倒すべき相手は知らない事が多い様だ。

 異物になって千年以上か……意外と迷宮ダンジョンも変わっているのかもな。

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