第433話 実際効果はあったのだろうか

「あれ? 今まで謎の多い人だとは思っていましたけど、一度日本に戻っているんですか?」


 椎名しいなの頭に大量のクエスチョンマークが浮かんでいるように見える。

 分かりやすいなー。


「ああ。俺は以前、今ではないラーセットに召喚された。そして色々あって、日本に戻されたわけだ。そして何年も過ごしたよ。再び今のラーセットに召喚されるまでな」


「今ではないラーセット? よく分かりませんが、戻ったって言うのは、やっぱりそこにいた別のクロノス様の力で? というかいたんですか?」


「そうだよ。ただその辺は複雑で長い話になるから、また後でな」


 まあ、時計の針が無ければダメとかは言う必要はないだろう。


「ベッドの中で、ですか? この三人は勘弁してください。やる事は山ほど残っているんです」


磯野おまえは俺をなんだと思っているんだ」


 応えは無かったが、目が十分に語っている。

 気を付けるとしよう。


「それにしても、なんだか複雑な話ですね」


「その点に関しては、話と本気で長くなる。だから話を戻すが、地球に奴が現れた。君たちに探査を依頼しているあいつがだ」


 さすがに暫らく沈黙が場を支配したが、


「それで倒せたんですか?」


「いや、人類は負けた。確かに近代兵器は強かったが、増殖数にまるで追いつかなかったんだ。それにいつ誰が何処で奴の同類になるか分からないという恐怖が、社会を大混乱に陥れた。最後の方は、それはもう酷いものだったよ」


「質問よろしいですか?」


 疑問を呈したのは、谷山たにやまだった。

 ちょっと意外。口調は丁寧だが、本質は脳筋一直線だからな。


「どうぞ」


「良いアイテムを手にして戻ったら、スキルの一端を得られると聞きました。クロノス様は、その力でどうにかならなかったのですか?」


 正直この話は何処までが真実と見て良いのか、俺には分からないんだよな。

 だけど俺も龍平りゅうへいも、送還された時には結構良質の武具で武装していた。向こうに戻った時には消えていたけどね。もしかしたら、俺たちが生き延びた要因として何らかの効果はあったのではないだろうか?

 まあ嘘っぱちかもしれないんだが――、


「俺が生き残ったのは、確かにスキルの一端が残っていたからかもしれない。そうでなければ死んでいたか、奴らのお仲間か餌になっていたかもな。だけどラーセットの記憶は無いし、制御アイテムも無い。スキル自体を意識して使うのは不可能だったよ」


「ほんの少しでもスキルや強化された肉体の効果があるのなら、他の戻った方々と協力して――あ、ダメなんですね」


「そう。記憶が無いから誰が召喚者だったかなんて分からない。それに地球規模から考えれば、百人だの千人だのじゃあ焼け石に水だ。奴を地球に行かせた時点で終わりと考えて良い」


「アレを言う時は地球って言いますね。と言うと、本体は見つからなかったと」


「鋭いな、その通りだ」


 日本に居たのか別の国か、それとも公海か……月とか言われたら本当にお手上げだな。


「それで、そいつは私たちの時代にも来るんですか?」


「百パーセント来るな。そうやって歴史は回っているんだ」


「最後にもう一つ質問なんですが、地球に現れるのが今ここにいるアレだという保証はあるんですか?」


 それに関しては、正直難しいんだよね。


 ”以前この世界にいた奴が、地球に現れた奴と同一個体である”。


 実はこの定義は完成していない。

 時は同じところをぐるぐるとループしているようでありながら、実は進み続けている。

 俺なんかがいい例だな。単純ループなら、俺は再び高校生として召喚されているはずだ。

 そしてこちらの時間と地球の時間は明らかに違う。案外、あいつは100ループくらい前の奴かもしれない。


 ……だけど、それを考えていたらきりがない。

 それに、多分その可能性は無いんじゃないかな。


「重要かつ確実な情報があってな。奴は死なないと過去へは戻れない。そして自害して戻ることは出来ない。そして一度過去に戻ってしまったら、それ以上に過去に戻らなければいけない。だから完全に討伐してしまえば、もうどこにも現れない。生きたまま時間の分岐が出来ない以上、別々の時代に2体存在する可能性はないんだ。だから以前地球に現れた奴は俺が初めて召喚された時間軸のやつで、今この時の存在する奴が、今現在の俺たちの地球に行くと考えて良いと思う」


 そう。だから異物になっていない奴と異物となった奴。同時に存在するだろうという俺の予想は間違いだった。

 奴は戻らなかったのか戻れなかったのか、そんな事は知った事ではないが、もう異物としての奴しか存在しない訳だ。


「ようやく最初の話に戻りましたね。では教えてください。どうしてこうして自分たちが呼び出されて、この話をしているんですか?」


 なるほど、磯野いそのはこれを聞きたくて待っていたのか。


「召喚には地球から持ち込まれた時計が必要だとは知っているな」


「知らないんですけど」


「あたしも」


「知りませんなあ」


「自分の様な教官組くらいしか知りませんよ。言っちゃって良かったんですか?」


 そういえばそうであった。

 召喚した後、それを秘匿する為にわざわざ”召喚の間”なんて所に移しているんだしな。

 でもこの際仕方あるまい。

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