第429話 あってもおかしくはないんだよな

 そこから5年後、第18期生の宮崎俊一みやざきしゅんいち迷宮ダンジョンでの戦闘で死亡。一緒に第21期生の一人も巻き添えとなって死亡。

 それを機に、彼が率いていたチームは解散する事になった。

 解散といっても他に吸収される形じゃない。6人チームで行動していたのだが、残った4人は全員帰還を選択した。


 戦力的には不安だが、今更他のチームに吸収されたり、気心の知れない新人を入れるのも不安という事だった。

 大抵帰る人間の理由はそんなものなので、特に驚きはしない。

 それに彼らはもう十分に働いてくれた。帰す事に何も問題はない。

 特に引き留める事も無く、希望したその日のうちに4人は日本へと帰って行った。

 折角この過酷な世界で生き延びたんだ。もう帰って来るんじゃないぞ。


 そんな訳で、これで欠員は6人。いつもこの位の数が一番悩む。

 ここで召喚してしまって良いものだろうか?

 それとも欠員が10人位になるまで待つべきだろうか?

 だけどそれまで何年かかるんだ?

 もうフランソワと一ツ橋健哉ひとつばしけんやによって、バックアップのシステムはかなりしっかりと構築されている。

 更にはたまに精神的に不安定になるとはいえ、未だ健在な磯野輝澄いそのてるずみのマッピングによって、危険もかなり減った。

 今回は想定外の強敵に遭遇してしまったことが原因だが、そんな事はそんなにあるものじゃない。

 あったら5年も安定した状況は続かないよな。

 ……困った。悩む。


 結局悩んだ末、今回は6人という少人数での召喚となった。

 後押ししたのは時の流れだ。

 前回代理で召喚してもらったミラーユ・ニー・アディンは33歳。もう召喚の負担に耐えるにはきつい年齢になって来た。

 そこでミーネルが産んだ双子の妹であるエネーマの長女、 アイミス・スー・アディンが23歳になった事もあって、神官長を本家筋に戻そうという動きが活発化したからだ。

 この世界の人間は権力にはまるで無頓着。むしろ地位が上がると煩わしいと考えているが、伝統は別。こちらにはかなりのこだわりがある。

 俺が伝説通りにラーセットに現れた事で、それは更に強くなった。

 まあどっちにしろ、そういった現地の問題には関わらないと決めている。

 ただ彼らが決め、内容にも説得力があり、俺自身が決めかねている事もあったのであっさりと召喚が決まった。


 そして3日後、無事6人が召喚され、いつものように講習を受け、1か月後には旅立って行った。

 ……と簡単に言える程、今回は全く知り合いがいなかったんだよ。

 ある意味気は楽だが、同じ命だ。そんな事を考えてはいけないのだけどね。


 そして龍平りゅうへい迷宮ダンジョンから戻ってきたのは、丁度同じ日だった。


「なんだか素人っぽいのが宮本みやもと秋月あきづきに連れられて行ったが、あれは新人か?」


「ああ。6人欠員が出てな。丁度手が空いていた2人に任せたんだ」


「少数での召喚は不安だとか言っていなかったか?」


 その辺りも毎度悩む理由だが――、


「その点は仕方のない事情でな。ぶっちゃけ言ってしまうと聖堂庁の関係だ。もしすぐ帰ってしまうようならその時はその時でまた考えるが、とにかく今回は本家筋が召喚したという事実が大切だったという事だよ」


「なんだかよくわからんな」


「前の世界でも、聖堂庁はそんなもんだったんじゃないのか?」


「俺は下っ端だったからな。それにそもそも、他の省庁の内部事情になど興味は無かった」


 まあ龍平りゅうへいらしい。


「それよりも4人はまあ良いとして、2人は女だったぞ。大丈夫なのか? 戻って来たとたん、泣きながら帰りますとか言われても知らんぞ」


 宮本みやもと秋月あきづきは肉食獣コンビ。

 一緒に迷宮に入った男の童貞は地上に出た頃には無くなっている。

 まあ二人とも美人だし、今まで文句が出たことは無い。

 正確に言えば、文句が出ない様に教官ごとに新人を割り当てていたんだけどな。

 ただ今回は6人。それを分けるのも不安だったのと、今地上にいる教官があの二人だけだったのだから仕方がない。


「まあ一応は全員高校生だ。案外色々と学んで帰ってくるかもしれんぞ」


「お前も図太くなったな」


「もうすっかり長いからな。それで、戻ってきてこっちに来るのは珍しいな。いつもは戦利品と報告書だけ置いてまた出発するのに」


「それなんだがな、ヤバいものを見つけちまった」


 なんだろうか?

 様子から見てそれほど深刻さは感じられないが、逆にそれが不気味でもある。


「勿体付けずに早く教えろ。何があったんだ?」


「こんな物が迷宮ダンジョンに落ちていた。中身は無かったがな」


 頭が痛くなってきた。

 落ちていたものは、俺と龍平が良く知る物だった。

 ハッキリ言ってしまえば、例の時計の外箱という代物シロモノ

 あの日、龍平りゅうへいと並んで買ったゲームの特典だな。

 一つは俺の手元に。そしてもう一つは、先輩のお墓に一緒に安置されている。

 だけどこの世に2つしかない訳じゃない。

 既にマイナージャンルとはいえ、それなりにファンも多い。

 おそらく千個くらいは販売されたのではないだろうか。

 だが問題はそこじゃない。どうしてここにあった?


「……それで、お前から見て中身はあったと思うか?」


 胃が重い。考えが纏まらない。だけど予想――というよりも、可能性の中には確かにあった。


「それは分からん。そもそも何でこっちの世界にあるのかが不明だな。ただなんとなくは分かるが、地下にある理由が分からん」

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