第428話 やっぱり知り合いの初陣は緊張するな
そんな事を考えている間に、21期生は揉めに揉めていた。
その辺りはいつもの事だ。
召喚された人間は、全員が素直に従うわけでは無い。
しかし未知の世界への欲求。スキルという超常の力を使ってみたいという好奇心。そして良いアイテムを手にして帰れば、僅かだが力の一部を得られるという希望。
まあ最後のは嘘なのだが、本当に帰せる今、それも何処までが嘘かは分からなくなってきているんだよな。
とにかくそんな訳でやってみたいという気はあるが、『じゃあやろう!』と音頭を取る人間がいないとなかなかまとまらない。
今のところは最終的には従ってくれるが、それは絶対的な指導者が今までいなかったからだ。
だが今回はそれがいる。中学生と、新米とはいえ教師。どう考えても教員の権力は絶対だ。場合によっては全員帰ると言い出しかねない。
これが高校生とかになるとまた変わって来るけどね。
「うーん……先生は帰った方が良いと思うの。危険はあるのでしょう?」
「でもゲームみたいなものだよ」
「死んでも日本に帰るだけだよ。それにこのまま帰っても死んで帰ったのと同じじゃない」
「先生、これはチャンスだと思うんです」
「うーん……先生ね、こういったズルみたいな力で強くなっても意味は無いと思うの」
「それは僕みたいに体が弱い人間でもダメなんですか?」
「家はお金が無くて、塾にも行けないんです。でもスキルの一部でもあれば、きっと将来の役に立つと思うんです」
「こっちで頑張って得たものもズルなんですか?」
中学生なのにもう将来を考えているのか。
なんて人のことは言えないな。俺も中学に入った時点で、将来の高校から大学、果ては職業まで決めていた。ちょっとだけ親近感が沸く。
同時に、騙している事の罪悪感に苛まれるのもいつもの事だ。死んだら本当に死んでしまう。この中学生の子供たちが。
いっそ帰る事を選択してくれればと思う一方、俺は生贄になった人全員の顔と名前、生い立ちや生贄になった理由を覚えている。
どちらにも肩入れできない。それはラーセットを復興させ、地球を救うと決めた時にそうしたんだ。今更悩むな、俺。
こうして歓迎のパーティー中もずっと話し合ていたが、後半は幾つかの小グループに分かれて話し合っていた。
このまま先生に任せてもダメだと判断したんだろう。
そして結論を言ってしまうと、全員が残る事になった。
決定機になったのは
同じ中学生でありながら、圧倒的な実力と実績。彼女の活躍は、ラーセット人なら誰でも知っている。
多分イェルクリオやマージサウルでも知られているだろう。
ここロンダピアザのあちこちに彼女やその仲間の名を関した通りが作られ、彼女たちのチームシンボルは幸運の御守りとして売られている。
そんな彼女たちを知ってしまったら、もう中学生は止まらない。
実は
たとえ死んでも日本へ帰るだけで、記憶も消えるとしても、生徒たちを危険な目に合わせることには抵抗があったようだ。
それにスキルという謎の力を日本に持ち帰る事にも反対していた。
まあその点は、
「先生!
そんな目の前で、若々しい
おろおろと連れていかれる姿を見ながら、どうやったらああなったのかマジで考えてしまうぞ。
因みに二人のスキルは当時からずっと気になっていたが、何となくこういう事は聞くべきものじゃないような気がして聞けなかった。
だって、敵対の意志ありとか思われそうじゃん。
そんな訳でミラーユの儀式を見ていて知ったのだが、
召喚者にはこの手のスキルは効かないとはいえ、見た目の割には恐ろしく物騒なスキルだ。
でも何で操作なんだろう?
まあ神託みたいなもので命名されるそうだから、説明したミラーユ自身もよく分かっていない。
そして
彼もまた珍しいスキルではあるが、セーフゾーンにいる黒竜の退治を依頼してきたことがある。
その時にも戦闘系のスキルではないと思ってはいたが、もうそんな次元ではなかった。
彼のスキルを説明すると、死んでも仮死状態になって生きている。首を切断されても、マグマの中に落ちて蒸発しても、暫くは仮死状態。
何とか一部でも集められればちゃんと復活するそうだ。
もっとも、死なないだけで動けるようになるまで回復するには薬を多用することになる。
それに自分自身にしか効果が無いのが惜しい所だな。
召喚者として成長すれば普通に人とは比較にならない身体能力になるが、戦闘系のスキル持ちは更にそちらも成長する。
そう考えれば実戦能力としては確かに低いが、回復してくれる仲間さえいれば死なないって事をどう生かすかだろう。
ただ彼の件で思い出したが、スキルではないが同じ様な技術が召喚の塔にも使われている。光に包まれて消えるアレだ。
あれも即死級のダメージを受けても、最後の言葉を残すくらいは光に包まれたまま生きている。
まあその後は死体置き場に送られてしまう訳だが。
それはともかく、ふと今とは違う当時の姿が彼の姿と重なって見える。ただの感傷が見せた幻覚だけどね。
あれは何度も何度も死んで、どうしようもなくなって、薬で無理矢理復活させるうちにあんな姿になったのではないだろうか。
だとしたら、相当に波乱な人生を送っていたんだな。
今はとにかく、21期生の無事を願うよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます