第423話 召喚は続けないとな

 それから15日後、新たに第20期生14人が召喚される事になった。

 教官が2人減ってしまったが、もう最初の頃のメンバーは手が離れている。問題はないだろう。


 召喚するのはミラーユ・ニー・アディン。

 以前代理で頑張ってくれたクナーユ・ニー・アディンの娘だ。

 今まで神官長をしていたマーシア・スー・アディンは34歳で引退した。これ以上は召喚の負担に耐えられないとの理由だ。

 本来ならミーネルの血統がそのまま続くのだが、やはりラーセットが受けた戦火の影響はまだ残っており、すっぽりと開いた期間帯になってしまったという訳だ。

 因みに彼女は現在20歳。どことなくクナーユに似て気が強そうだが、微かに白髪が混ざるアクアブルーの長い髪が神秘的だ。

 そういや、クナーユが代理で神官長を務めた時も二十歳だったな。


 いつも最初はちょっと心配だったが、今回は召喚マニアだったクナーユの娘。しかも親が横で見ているという過保護っぷり。

 というかアレは過保護って言うのか?

 自分にやらせろと言わんばかりに口を出してくる。

 とかやっていたら、ミラーユに追い出された。まあ当たり前か。


「お見苦しい所をお見せしました」


 深々とお辞儀をするが、その勢いで双丘が生き物の様にぶるんと揺れる。

 というかでかい。シェマンもデカかったがそれ以上だ。

 ま、まあ、俺は今更大きさなどに影響はされないけどな。


「クロノス様、後でお話があります」


風見かざみ、そうドスの利いた声で話しかけないでくれ。これでもそんなに心臓は強くないんだ」


「自分で言っていて恥ずかしくない?」


「いいから始めるぞ。というかミラーユ、そろそろ頼む」


「はい。初めてなので至らぬ点もございますでしょうが、どうぞその時は何でもおっしゃってください」


 そう言うと、再び深々とお辞儀をする。

 そして擬音が出そうな程に跳ね回る双丘。うん、童貞なら死んだぞ。というか周りの目が怖いわ。

 俺は何もやってないって。


 こうして、第20期となる14人が召喚された。

 制服からして西宮にしのみや第二商業高校か。俺も奈々ななに出会うまでは、なんとなく将来ここに通おうと思っていたほどに近い高校だった。

 というか、どんな仕事でも良いから少しでも早く働きたいと思っていたよな、懐かしい。

 今考えれば、将来の展望もない奴が甘い気持ちで入って行ける世界では無い訳だが。


 それと残念と言っていいのか分からないが、知っている人間はいなかった。

 やはり早々出会うものでもないか。


「無事に召喚出来た様だな。ご苦労様」


「もう何度も心臓が止まりそうでした。この後、今度は一人づつ面接してスキルの説明をしてアイテムを出すんですよね……はあ……」


 黙っているとキリっとした美女なのに、ものすごく気弱だな。

 というか、あの激しかったクナーユの娘とは思えないわ。


「まあその部分が一番大事だと言って良いからな。期待しているよ」


「え、あの、その……クロノス様もちゃんといてくださるんですよね?」


「ああ、それは当然だ。何かあったら大変だからな」


「助かります」


 龍平りゅうへいの事を考えていたので、すっかり忘れる所だった。

 例の黒い人形ダークネスさんを見せたかったが、まあ、来てからでもいいか。

 多分だけど、何も分からないだろうけどね。





 □     ★     □





 そして2日後、新たな召喚者は目覚め、ミラーユの本格的な初仕事が始まった。

 始める前のおどおどとした感じは鳴りを潜め、しっかりとした神官長としておごそかに儀式が進む。

 いやマジで苦労したからな、あの態度を教え込むのに。


 何せ最初が肝心。いきなり不安がらせたら、即全員帰ってもおかしくない。

 しかし騙して悪いが、彼らを大人しくさせ、やる気にさせるノウハウは以前に学んでいる。あれほど嫌悪していたが、今こうしてやっているのは複雑な気分だ。

 まあ働いてくれた人には相応に報いているし、以前と違ってちゃんと日本に帰している。

 それに随分と余裕も出来た。今なら即日帰るって人間も、ちゃんと帰してあげられるだろう。

 なんて思っていたら、いきなり2人は用事があるからと帰りやがった。

 ミラーユの内面の不安を見透かされたか?

 やっぱり働かずに帰すのは無しにしようかなと考えてしまう所が、我ながら罪深いな。


 それにしても、まだ龍平りゅへいは戻って来ない。随分とのんびりしたものだ。

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