第420話 一応心強い味方と考えよう

 しかしそうなると、今まではどんな結末を迎えていたんだろう。

 特に奈々ななの神罰ではどうだったのか……。

 倒せたのか? それにそもそも、それだけの用意をするという事は、奴が時間を戻す事は代々ちゃんと知っていたのか。

 詳しく知りたいが、それは無理か。ここにいるこいつらも、あくまでこの時代の連中だ。他の時間軸の事までは知り様がないか。


「だが折角繋いでくれたのだ。有効活用すべきだろう? これで互いに生きているかがはっきりと分かる。確かお前達の言葉でいう死が二人を別つまでという訳だ。永遠の愛と言うやつだな」


「全然違うわ。流暢にしゃべっていたから油断したが、お前の言葉も結構怪しいな」


「その点に関してはこれから調節しよう。幸い進んでそれをする者もいるしな」


 嫌な予感しかしねえ。

 まあしかし――、


「俺の推理がピッタリ当たっていて怖くもあるが、随分と無駄な事をしたものだ」


 思わず苦笑してしまう。

 だってそうだろう? 奴が時間を戻せば、当然そこには俺がいるんだ。未来の俺が生きていているのに、過去の俺が死んでいるとか……いや俺の場合無いとは言えないが、その状態でも何らかの手段で必ず戻って来る。あいつがした事は全く意味が無い。


「無駄とも言い難いな。戻った時はともかく、その後の生き死には奴にとっては死活問題だ。”枕を高くして眠れない”と言う訳だな。だからお前の死を確認するまで、アレはお前を手放しはすまい。必ずしも、その場だけでは無いという訳だ」


「今も俺が生きている事を感じているって事か」


「お前も何となくわかっているだろう?」


 言われてみれば、確かにそんな感覚があるな。

 奴はいる。この世界の何処かに……思い込みとかの類ではない。これは確かな実感だ。

 ……いや、ちょっと待て。

 これは希望の光か? だが同時に最悪の状態か?


 もし奴を倒し続けたらどうなる?

 必ずどこかで地球に行くだろう。しかし、俺は奴を知らない。

 あいつはどうだ? 知っているのか?

 だが奴に俺は倒せない。見つけようと必死にはなっているだろうが、何だかんだで世界は広いし、近代兵器で武装した人間の抵抗は奴にとっても簡単にあしらえるものではない。ましてや『ボスですこんにちは』なんてノコノコ出てきたら、躊躇なく核兵器が撃ち込まれるだろう。だから奴本体もそう簡単には動けない。そうこうしている内に時間切れ。俺は再び過去のラーセット。逆のパターンではあるが、繋がっている以上は奴も付いてくるわけか。

 あ、龍平りゅうへい帰れるじゃん。眷族が残っているから文明を再生できるかは分からないが。

 とにかく、ここからは完全なるループの始まりだ。


 だがそうしている内に、互いに知恵を付ける。最後の勝利者がどちらかは分からないが、今はこちらの方が有利な事は間違いない。

 やるなら今しかないのだが――、


「言っても分からないと思うが、前の世界ではお前たちは地上にいた。それは異物になる覚悟があるって事で良いんだな?」


「まさか。そこまでの義理は無い」


 あれー? どうなっているんだ?


「お前たちは知らないと思うが、前の時代ではお前たちは外の世界にいたんだよ。ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんって人と一緒にな。知り合いにはいないか?」


「そんな名前の存在の知り合いはいない」


 まあ想定通りだ。


「黒くて隙間の無い、のっぺらぼうの全身鎧だ。名前に関してはあまり気にしなくて良いと思う」


「対象が多すぎて判断しかねるな。だが名前があって人と呼ぶ形状か。それに動くとなれば多少は絞られるが、そのものを見ないと分からぬな。だがこちらが外に存在した件はおおよそ想像がつく」


「それは朗報だな。どうするんだ?」


「こうすればよい」


 そう言うと、双子の片割れは目の前で2人に分裂した。


「我の核は別にいて、これは分身にすぎぬ。2体セットで行動しているのは、様々な状況に対処するためだ。迷宮ダンジョンのあちこちにいるが、数体外に出た所で問題は無い。外で見たというのはこれの事だろう」


「なるほど。そう言えば分身の話は最初にしていたな。確かにお前自身が異物になる気はないが、分身体それなら外に出しても構わないという事か」


 というか双子どころじゃないな。百子? 千子? まあ考えるだけ無駄か。


「しかしかなり強そうだが、いざとなったらどのくらいまで増えることが出来る?」


 場合によっては、この子らだけで戦力としては十分かもしれない。


「精々4か5だな」


「何故だよ」


「分身誰しも、消えるのは嫌だからな。少数なら役割分担も考えるし、すべき事の為なら諦めもつく。しかし増やし過ぎると収拾がつかなくなる」


 そんな理由かよ……。


「じゃあとりあえずは今後も色々と情報交換をしよう。そうだな……なんか慣れているんで、龍平りゅうへいに二人付いていてくれ。いずれは皆にも会わせなくちゃいけないかもしれないが、さてその時は、この口調もどうにかしないとな」


「ならアレの言う通りの口調にするか? ミリーは構わないよ、ご主人様ぁ」


 いつの間にか名前が付いて、呼び名もお兄ちゃんからご主人様になりやがった。

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