第419話 その理由を是非とも聞きたいね

 しかしそうか……俺の想像も悪くなかったじゃないか。

 しかもかなり気が楽になったぞ。とにかく倒して、倒して、倒しまくって――あれ? その最終地点は何処に辿り着くんだ?

 聞いても絶対に分からないだろうな。

 いやそれ以前に――、


「この世界にいる奴を俺が倒したとしよう。だけどそれはこの時代だけだ。俺はこの時代の過去に戻って、ラーセットを襲った奴を追い返した。俺にとって、この世界の歴史とはそこがスタートラインなんだよ。たとえ今の時代にあいつを倒しても、結局は過去に奴は現れ、新しい歴史の分岐が始まる。それで構わないのか?」


「我らは構わないが、これは違う。こやつが求めているのは完全なる消滅だ」


「それは不可能……ではあるが、1つだけ可能だな。俺を過去に送る方法はあるか? それも千年くらい」


「そんな手段はない」


「はい、無理決定。やるとしたら、奴が異物になった瞬間だ。あまり短時間を繰り返しては戻せないんだろう? なら場合によっては一発で片が付く。過去に戻って元の存在に戻ってなってめでたしめでたしだ。だがそれが出来ないのなら、俺に出来るのはこの時代に存在する奴を倒す事だけだよ。結局のところ、このルールは……」


「どうした?」


「一つ聞きたいのだが、前の時代も同じようなやり取りをしたのか?」


「知るわけがなかろう。我らは時間の跳躍などしない」


 ですよねー。

 断念ながら、根本的な解決に至る道では無いな。

 仮に奴を本当にこの世界から消滅させたとしても、いずれは俺が召喚され、現代に戻り、また過去に戻って奴と戦う。

 その時に、またこいつらがメッセンジャーを見つけるかは運次第か。

 だがしかし、一部とはいえセーフゾーンの主クラスの協力が得られるのは幸運か?

 実際にはどこまで役に立ってくれるのかは分からないけどな。


「まあ奴を倒す事に協力してくれるのなら、俺は断らないよ」


「最初から感じていたが、お前は随分と素直だな。こちらから話を持ち掛けて言うのもおかしいが、随分とあっさり信じるものだ。よく騙されるのではないか?」


「その点は常に注意しているよ。もちろん、この話が全部嘘だった時の事も想定しているさ。だけどセーフゾーンの主には知り合いも居てな。それを考えると、問答無用で決裂ともならない訳さ。それに、嘘でも情報だ。そこから何かの糸口が見えるかもしれない」


「中々に豪胆だな。こちらとしては協力するのであれば何も問題は無い」


「だが正式に聞かせろ。なぜ俺を選んだ? 奴と繋がっているからか? 召喚者という特殊な存在のリーダーだからか?」


「違うな。ただ単に、アレをこの世から消滅できる可能性がある唯一の存在だからだ」


 それはまた、意外な答えだな。奴を倒せるのはこの世で俺だけか……。

 まあこの世界には世界を滅ぼす事が出来る伝説級のモンスターが他にも2体いるそうだが、そいつらでも過去に戻る能力を持たない限り奴は絶対に倒せないしな。

 しかしなぜ俺だけなんだろう?


「どうして俺だけなんだ? こう何と言うか、先祖が特別だったとか、神かなんかに選ばれた存在だとか――」


「そんなものは無い。おまえはただの召喚者の一人にすぎない。他の理由をあえて言うのなら、ハズレを引いたからだと言うべきだろう」


「最低なくじだったな。しかも俺の意志で引いたわけじゃねーぞ」


 そもそも、正確には龍平りゅうへいも奴を倒した存在だと言って良いんだけどな。

 つか2回目に倒したのあいつじゃん。


「情報が少し間違っているな」


「お前たちの考える正しさなど、我らからすれば些末さまつな事だ。大切なのは、今のアレが自分を倒した相手を誰だと認識しているかだ」


 そう言った意味では、まあ最初に倒した俺と考えていてもおかしくはないが……。


「だからこそ、アレを倒せるのはお前だけという訳だ」


「その辺りを詳しく、大事な事だ」


「さほど難しい事ではない。お前達の肉体は脆弱だ。そこいらの虫よりも弱い」


 そこいらの虫と言われても、おそらく俺の考える虫とはだいぶ違うのだろうな。


「だがそれがアレを倒した。アレにとっては完全に予想外だっただろう。我らのような存在には決して挑まないが、お前となら戦う。勝てると思えるからな。そこがお前が選ばれた理由だ」


「それは光栄なこって。しかし何度も倒して時間を戻していたら、いずれ奴も戦わなくなるんじゃないか?」


「そんな気もしたがな。アレと繋がったと聞いてその可能性はなくなった。例え何があってもお前と戦い続けるだろう。なにせ、この繋がりはそういうものだからだ。こちらとしてもようやく納得した。なぜ今、異世界から来た召喚者などとコンタクトを取るように求めたのかをな」


 求めたのはこの同じ事しか言わないメッセンジャーとやらだろうが――、


「馬鹿な事をしたものだ」


「それ程に憎かったのだろう」


 何かこういう時だけ少し楽しそうだ。

 案外、仲が悪いんじゃないかこいつら。

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