第418話 とにかく話を聞いてみない事にはな

「しかしただのメッセンジャーって事は、こいつには外の奴のような知恵はないのか?」


『そのとおりだ しょうかんしゃよ』


「ああ、もう分かったわ。じゃあ先に用件から済ませよう。俺に何をさせたい? その代償は?」


「随分と話の早い召喚者だな。あちらはまず口調がどうの、仕草がどうのとうるさかったが」


「それは気にするな」


 まだあちらでは龍平りゅうへいがこんこんと説明していたが、まあ聞き流してくれればいいだろう。


「それで本題だが」


「簡潔に言おう。外に出て異物となったアレを始末して欲しい」


 アレってどう考えてもこれの本体だよな。


「相手は世界を滅ぼせると言われている3体の一つだぞ。しかも実際に、俺はその力をよく知っていてな。出来ると思っているのか?」


「当然、アレの強さはこちらも把握している。秘めた力も迷惑さもな。だが元々やる気なのだろう?」


「秘めた力ってのは、俺が知る時を戻す力だと思って良いのか?」


「……そうだ。正確には過去からやり直す――だな。それと同族を迷宮内で増やし続けているのも迷惑だ。異物となる前は侵入者に対してのみ使うだけだったのだがな。アレは我々にとっては、お前たちの言う癌細胞の様なものと言って良いだろう」


「増えるのも厄介だが、こちらとしては時間関係がチート過ぎてうんざりしているよ。何度退治に成功したとしても、同時に奴が生きている歴史が新たに分岐する訳だろ。倒した側は任務完了だが、戻された方はやり直しだ。際限がない。始末なんて実際に可能なのか?」


「意外と良い線をついているな。だがお前はどうして過去に戻った事を理解している」


「時間が戻った点は体感だ。どうも気に入られてしまった様でね。奴が戻る時、俺もまた記憶を引き継いで戻されたんだよ」


「それはまた奇妙な事をしたものだな。よほど怒らせたか?」


「まあ2度も倒したからな。それに俺を抹殺するとか言っていたよ」


「なるほど、合点がいった。お前が生きているか死んでいるかを常に確認するために、互いを繋いだわけか」


 無表情だった双子が、少し楽しそうに笑ったような気がした。

 ほんのちょっとだけ、口の端が上がっただけだけではあるが。


「喜んで良いのか悲しんで良いのか分からないが、そういうわけだ。ただ気になっている点が2つあってな」


「聞こうか」


「あいつと繋がっているって事は、俺の位置や行動、思考なんかは把握されているのか? たとえば今この瞬間も」


「それは無いだろう。有れば、今頃はお前の計画に対処しているはずだ」


 お見通しって訳か。

 見た目はお子様だが、案外こいつも世界を滅ぼせるクラスの化け物なのかもしれない。

 今のところ、人類に敵対していない事が救いだ。


「それでもう一つは?」


「奴が過去に戻った時、歴史は分岐しているのは間違いないのだろ? 倒した方の世界には奴の死体があるとして、俺はそこに居るのか? それとも過去に引き戻されてその時間からは消えているのか?」


「残念ながら分からぬな。だがおそらく、そちらには奴を倒したお前がいるだろう。しかしなぜ分岐だと思った? 時が戻った時に、それ以降の未来は消滅しているとは考えなかったのか?」


「未来を完全に無かった事にして消し去る事は不可能だ。宇宙全体で増大し続けるエントロピーを反転させるにはビッグバンに相当するエネルギーが必要だしな。それに今はもういないが、未来を予見する召喚者がいた。更に言えば、こちらで時は動いているのに俺たちの時間は止まったままだ。だから奴くらいになれば、意識だけを過去に送る事なら出来そうな気がしたんだよ。というか、実際に過去に戻っているのだからそれ以外は考えられないだろう。ではこちらの質問だが、さっき言った“良い線をついている”とは?」


「あれが過去に戻るトリガーは、自身が破壊されたと認識した時点だ。つまり死ぬ事を理解した時だな。理解する前に完全に破壊されたら過去に戻ることは出来ない。それと、あまり近い時間には戻れない。しかも連続して倒されれば倒されるほど、より以前の過去へと戻らなければならない。1時間戻った後、次は5分戻るとかは出来ないわけだ。もうひとつ言えばアレもそうだが我々にも自ら死ぬという概念は存在しない。要するに、人間の様に自殺したり生贄になったりはしないという訳だ。”倒したら過去に戻る”というお前の見解は正しい」


「それは有益な情報だな。しかし俺も倒した後の方へ行きたい。楽になりたいわ」


「アレを倒した時点で歴史は分岐しているが、それと気が付くものはお前くらいなものだ。結局はどちらかのお前が片方に残って、そう考えるのだ。自分も向こうが良かったとな。だが結局は同じお前だ。愚痴を言った所で意味などあるまい」


「理不尽だ。大体なんで俺なんだ? お前達なら倒せそうな気がするんだけどな」


「我々が幾ら倒しても、お前のように繋いだりはしない。そもそも異物が我らと繋がるなど有り得ない。そうなれば、奴は何処までも逃げる。そこまで手間をかけるだけの義理は無い」


 思ったよりも酷い理由だった。


「それで俺にやらせようと考えたわけか」


『そのとおりだ しょうかんしゃよ』


 同じ事しか言っていないのに、微妙に話が通じている点が腹立つ。

 というか、こいつ俺が奴と繋がっている事なんかも全部知っていたんじゃないのか?

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