第407話 中身は誰だったんだろう

「それで、このダークネスさんはどうするんだ?」


「まだ俺の話が途中だろうが」


「そうだっけ? ここまでの話の流れで、何か重要な事とかあったかな?」


「お前の様に俺が召喚された時の問題だよ。お前は追放すればいいが、俺はどうするんだよ」


「あ、それを忘れていた」


 考えてみれば、俺が召喚されるという事は龍平りゅうへいが一緒にいる可能性が高い。

 まあ奈々ななみたいな件もあるが、例外にばかり期待しても仕方がないか。


 それにそうだな……あのダークネスさんは龍平りゅうへいじゃない。

 それは、今までの龍平りゅうへいは地球に戻る事が無かっただろうから当然だ。帰る方法が無いからな。

 どんな結末を迎えるにしろ、俺が日本に帰した以前の龍平りゅうへいは、必ずこの世界で生涯を全うする。それ以上の事は出来ないんだ。


 だけどそれだと、いくつか引っ掛かるんだよな。

 方法なんて分からないが、あれは本当に龍平りゅうへいだったんじゃないかと心の何処かでは考えているんだよね。

 ただそんな以前の事はともかく、今は現実に龍平りゅうへいがここに居る。

 そっちの方が確かに直近の問題だ。


 当然だが、その場合は新たに召喚された龍平りゅうへいも制御アイテムは無しだ。

 そうなると、龍平りゅうへいもそれが無い状態でも何とかなるようにしないといけないのか。

 ふと、視線は自然とダークネスさんの方に向く。


「こいつは俺が保管するよ。そうだな……もしこの中に入ったら何と名乗るか、今のうちに決めておいてくれ。本当にダークネスさんでも良いが、なんとなく俺が複雑な気分でな」


「それまでにはカッコいい名前でも考えておくさ」


 以前のダークネスさんは、しっかりしていたようで何処かはかなかった。

 記憶も少し怪しい所があったし、覇気――というか生きる意志のようなものも今一つ感じなかった。

 龍平りゅうへいをそうはしたくないが、こいつは制御アイテム無しではそれほど長くはもたない。


 そりゃあの本体との戦いの時は何とか大丈夫だったが、その位なら他の召喚者でも慣れてくれば出来る。

 だけどそれも数か月ってところか。それも、発動しっぱなしのスキルを必死に抑えながら自我を保つという無茶を続けなければならない。とてもじゃないが、1年だの2年だといったスパンに堪えるのは無理だ。当然俺も無理。だけど俺の場合は、その無理を押し通すほどに回復が早い。

 そう言った意味では、俺のスキルは本当に色々と常識セオリーからも外れているものだ。


 ただ以前のダークネスさんは、この姿になってから何十年もこの世界に留まっていたと聞いている。

 なんとか龍平りゅうへいをこの中に移せれば、それなりには延長できる可能性はある。

 もちろん、中身は本当に平八へいはちさんという人で、制御アイテムも持っていた可能性もあるのだが。

 でもその場合はどうしようもないな。お手上げだ。


「まあこの中に入る事が前提のような話になっているが、実際これがどんなものでどう使うのかも分からない。当時誰が入っていたのかも不明だし、これはやっぱり只の人形で、他の誰かが操っていただけかもしれないんだよな」


「確かに、これに入れと言われても俺には分からんしな」


「そんな訳で、使い道も分からないダークネスさんの件は保留だ。それよりも、一応は最悪の場合も考えておいてくれ。選択肢は3つだ」


「言ってみろ」


「先ずお前を現代日本へ帰す」


「既に滅亡寸前の世界じゃねーか! どうにかする当てもないのに帰れるか!」


「じゃあお前には死んでもらう」


「あっさり言いやがって」


「そう見えるか?」


「いや……まあそうだな。そうなると3つ目の選択肢も分かる。高校生の俺は日本送りか。だが時間稼ぎにしかならんぞ」


「そう毎回来られても困るけどな。実際には何か月とか何年、何十年ってスパンだろう。その位なら、何とか対処できる。ただ言いにくい事が一つ」


「なんだ?」


「多分高校生の俺は、先輩と良い仲になると思う。具体的には言わないが」


 なにせ、先輩の本心はもう知ってしまったし。

 しかもこっちの世界の記憶も残らないとなれば、タガが外れるのも時間の問題だろう。

 奈々ななが本当に先輩の気持ちに気が付いていなかったかと言われると疑問もある。

 こっちの世界でなら、多分奈々ななも認める様な気がするんだよな。


「帰る前に、高校生のお前は絶対に殺してやる。俺の命と引き換えにしてでもな!」


「だからその物騒な考えはやめろ。というか、人類を滅ぼすつもりかお前は。まあまだそれなりに時間はあるだろう。それに、まだ先輩やお前が召喚されると確定した訳じゃないしな」


「お前は確定だが、奈々ななはまだ保留か」


「ああ。他の奴の召喚に巻き込まれた可能性もあるからな。その希望は捨てたくない。とにかく、今は奴を倒す支度を整えよう。もう何度も言ったが、時間遡航はやっぱり反則だ。罠も奇襲も何の意味がない。ちょっと戻せば終わりだからな」


 さすがにその点に関しては龍平りゅうへいも分かっている。

 倒しに飛び出さず、俺の指示に素直に従っているのがその証拠だ。


「しかし、そんな奴に勝てるのか? じゃないな。勝つことなら難しくは無いか。もう2度も倒しているしな。問題はこの世から消滅させることが出来るかだ。地球に送るとかでは無くな」


 あ、こいつ可能性の一つとしてっかり考えていたな。

 まあ俺だって考えていたんだ。

 俺のスキルで奴をこの世界から放逐する。きれいさっぱり跡形もなく、時を戻す余裕すら与えずだ。

 それによって、地球に送られる可能性も実はゼロじゃないところが怖い。

 というか、他の人の様に普通に日本に送られるんじゃないのか?

 しかもちゃっかりと時も戻されて、地球とこっちの世界の2か所に存在してしまう可能性も無きにしも非ずだ。


「まだ何も分からんな。分かっている事は――」


「いつかはやるしかないって事だな。だがそれは今じゃない」


「そういう事だ。そんな訳で、毎回でなくても良いんで磯野いそのたちの護衛を頼む」


「いつも付いていなくていいのか?」


「そうして貰いたいのは山々なんだが、他の召喚者もどんなスキルでどう成長するか分からないのでな」


「切り札は多い方が良いって事か。お前らしい。だが俺がいない間にやられちまったらどうする」


「その間は他の召喚者が付いているし、時々だが俺も秘かに護衛していたりもするんだ」


「やる事はやっているって事か」


「やる以上は勝つ。ただそれだけだよ」


 取り敢えずは、召喚者を成長させなければ話にならない。

 だけど精神面を考えると、時間制限は確実に存在する。

 長く留まれる人間もいるだろうが、そうではない人間は帰還してしまう。


 そしてまた、奴もいずれは動き出す。

 俺が知る限り、ラーセットを襲ってから100年は動かなかったようだが、実際にそうなのかは分からない。

 案外、先代のクロノスたちが秘かに何度も戦って、動きを制限していた可能性だってあるんだ。

 何が正解かなんて何も分からない。やっぱり場当たり的に対処するしかないんだよな。


 黒竜から今以上の情報を引き出せるとも思えないし、どっかに転がってないかな……友好的なセーフゾーンの主が。

 まあ無理なんだけどね。何せ彼らはそこを守護する存在なんだから。

 そして、奪う気は無いから話をしたいと言っても通用しないと。何せ俺たちは異物だからな。

 というか奪いながら拡張しているわけだし。

 はあ……見通しは暗いなー。

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