第405話 こんな形で出会うとはね
召喚庁の執務室。今はクロノスだけで、他の召喚者は出払っている。
まあ出払っていると言っても、
下らない事で呼び出せば、確実に
その執務室の扉からノックの音が響き、一人の女性が入ってきた。
「失礼いたします」
レ・テルナス・バナー。ケーシュとロフレが引退したのち、筆頭秘書を任してある人物だ。
「テレナスか。何かあったのか?」
本来は“レ”の一文字が名前で、ラーセット人は普通に彼女をレ、もしくはレ秘書長と呼ぶ。
だがどうにもその呼び方び慣れなかった為、テレナスと呼んでいる。
ちなみに今更だが、ミドルネームのように真ん中についている名前は、代々その家系に伝わる魔除けの言葉だ。
あまり特別な意味はないが、生きている間に変えることは無い。ただ子供に新しい言葉を付けるのは自由なようで、最近の出生児には”クロノス”と付けようとする人が増えているようだと知らせがあった。
まあ全部却下したけどな。この名前は、今は大事な意味を持つ。そう、あの本体が全ての世界から消し去ると宣言した名前だ。
魔除けどころか、魔の方が寄って来るぞ。
それはさておき、彼女は現在22歳。処女。
余計な情報だが、要は俺は手を出していないって事だ。
どうもそういった目で見られる事が多いのでな。
朱色のツーサイドアップで少し童顔。というか身長が150と小柄なので、ますますそれが引き立っているな。
だがこの世界特有の薄く露出の高い服から見えるつんと上を向いたロケットの様な胸部と、安産型のお尻が大人である事を主張している。
まあ今は置いておこう。
「はい。先ほどイェルクリオから使者の方が来まして。大きな荷物も一緒に持ってきています。」
「それは珍しいな」
というか、内務庁や軍務庁への使者なら稀に来る。だが本当に稀だ。
今は双方に大使館があるし、発掘したアイテムを使っての長期通信網も整備した。
もっとも通信に引き寄せられるのか、しょっちゅう
ただそれ以外にも街道は整備され、それぞれの国から派遣された兵士達も配備されている。
そのおかげで、交易は盛んに行われているわけだ。
だがそれでも、職員が危険を冒して……ましてや召喚庁に来るのは珍しいんだ。
「それで用件自体は何と?」
「なんでも、内務庁渉外2部支部長をしていたウェーハス・エイノ・ソスという方が亡くなったそうです」
「……そうか」
今まで死亡報告を何度聞いたか分からない。
俺の場合、基本的に召喚者だな。他国の……それも閑職にある人間の死亡報告が来るなど珍しい事だ。
一応は今までに2度会っているが、それだけで連絡をよこすとは律儀な人だ。
「それで荷物というのは――あ、いいや。ここから先は直接会って聞こう」
◆ ※ ◆
荷物を運んできたのは武装商人。さすがに彼らは特別に編成された軍隊という訳ではなかった。
それに使者と言っても彼女と同じ内務庁渉外2部ではなく、こうして他国に手紙を運んだり口上を述べる為の言わゆる武装郵便局員というか、ただ伝えるだけで決定権などは持たない外交連絡員と言った感じの人間だった。
まあ閑職だしな。これでちゃんとした地位の人間が来たりなんかしたら逆に驚くわ。
「初めまして、クロノス様。わたくしは都市外連絡員のパタス・エクス・オンターニオンと申します。この度は拝謁を許されて、まことに光栄の至り」
「いや、そんなに畏まらなくて良い。しかしわざわざ危険を冒してまで伝えてくださったこと、感謝いたします。彼女と会ったのは2度だけでしたが、そこで決められた内容は非常に大きかったと思っています。正直何処まで実行されるか不安はありましたが、現実にはここまで良い関係となりました。ご尽力、心から感謝しております。今回の事は真に残念な知らせでしたが、知れて良かったとも思います。どうか暫くはゆっくりと逗留なさってください」
「有難きお言葉です。それと、ウェーハス殿よりクロノス様へ形見分けがございます」
形見分け?
いやいや、今まで軍務庁や内務庁の長官が亡くなった時も、そんなもの貰った事が無いぞ。
別に欲しかったって話ではなく、なんでわざわざ俺に?
向こうの国では、そういった風習があるのだろうか?
「形見分けとは、少し珍しいな」
「わが国では度々ある事でございます。先ほどウェーハス殿を褒めて頂きましたが、彼女もまたクロノス様と友好関係を築けた事をとても喜んでおいででした。最期に、この出会いと別れを記念してアイテムを送りたいとのご遺言でした」
さすがにそこまで言われて受け取らないわけにはいかないな。
「了解いたした。では、早速見せてもらってよろしいか? 出来れば自宅に置いておこうと思うのだが、少し大きいと聞いておりましたので」
まあ盗聴器の類などは無いだろうし、あっても一発で分かる。
分からなくても、余計なものが付いていたらスキルで外せば良いだけだ。
警戒し過ぎとも思うが、こういう時こそ感情だけで考えてはダメだ。
「はい、こちらでございます――おい、開封しろ」
木箱が明けられ中の緩衝材が取り出された時に出てきた物は、俺の想像を這うかに凌駕する物だった。
これがプラスなのかマイナスなのかは変わらない。だけど少なくとも、この世界は俺に退屈やゆっくりと物事を考える余裕は与えてはくれないらしい。
全体が真っ黒い人型。鎧を着たような造形だが、関節部などは無い。動かないし、間違いなく鎧として着る事も出来ないだろう。
顔は穴一つないのっぺらぼう。
もう何度見ただろう……いや、会っただろう。そして口数は少なかったとはいえ、どれほどの事を教えてもらっただろう。
「これに名前はあるのか?」
「いえ、普通に
「そうか。ご苦労だった。もう後はこちらでやろう。急ぎこちらも返礼品を用意させよう。帰る時に、持って行ってくれ」
「有難きお言葉。それでは」
使者と話しながら、俺は心の中で
――お久しぶりです。ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさん……と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます