第402話 彼女はどんな反応をするのだろう

「取り敢えず知りたい事は分かったわ」


 もう特別な話は出ないだろうという感じで、風見かざみが纏めに入った。


「彼女はクロノス様が送還する。理由はそうね……さっきの力の源って言うのが小さすぎて、スキルが発動しそうにないから――でいいかしら」


「その辺りが無難な落としどころね」


「妥当な所じゃないっすかね」


「賛成」


「異論はないですよ」


「あたしも賛成だわ」


 風見かざみの提案を全員が賛成してくれた。それは嬉しいが、


「みんなの気持ちは嬉しいが、これはあくまで俺個人の問題だ。奴を倒す力として見れば、おそらく必須級となる力だと言える。それでも良いのか?」


「もちろんです」


 誰よりも最初に応えたのはマーシアだった。


「クロノス様は今までもずっとラーセットのために働いてくださいました。ですが、今まで個人的な要求らしい要求は無く、むしろこちらとしても心苦しかったのです。これが少しでも恩返しになるのであれば、我等ラーセット側に拒む理由はございません」


「似たような理由でこちらも文句はねえ。そりゃ以前には反乱も起こされているし、死んだ時の問題もある。必ずしも全員があんた……つかクロノス様を全面的に信頼しているわけじゃねぇ。だけどそれとこれとは別だ。色々隠していた理由も聞いちまったしな。もうなんの文句もねぇ。それに、あまり俺達を舐めるなよ。アンタの恋人を犠牲にしなきゃいけない程、落ちぶれちゃいないつもりだ」


「まあようちゃんは素直じゃないけど、あたしも似たような理由で賛成よ。死んだらそれまでなんて、何処の世界でも一緒。ならこっちの方がずっと生活も良いし、むしろ呼んでもらえてラッキーなのよ」


「そんな訳ですので、全部任せます」


「みんなすまないな」


「それでどんなふうに帰すの? もう今から帰すでいいの?」


「……いや、ちょっと聞いておきたい事があるんだ」


「今更言うまでもないけど、彼女はクロノス様と一緒にラーセットに来た彼女とは別なんでしょ? 何か意味があるの?」


「正直、何も知らねえ高校生だよな」


 ご意見はごもっともだ。

 ではあるが――、


「ちょっとした軽い質問だよ。それを聞いたらすぐに日本へと帰す」


「まあクロノス様がそうしたいのなら構わないけど、一応立ち会わせてもらうわ」


「あ、それあたしも気になるわ」


 まあ風見かざみ児玉こだまが同席することは予想していたよ。


「その辺りは当事者同士ですからね。よく話し合って決めるべきでしょう」


「でも殺し合いはなしな。そう言ったのは見たくねえですよ」


 持尾介司もちお丹羽静雄にわは、反応次第で愛人同士によるバトルロイヤルでも起こると思たったようだ。

 つーか、


「しねーよ。それに何ていうのかな。彼女は高校生の俺の彼女だ。俺の彼女じゃない」


「クロノス様も、案外乙女ねぇ」


「やかましいわ。それじゃあ、目覚めの兆候があったら教えてくれ。他の6人に関しては、今回は持尾もちお丹羽にわし組と緑川みどりかわ川本かわもと組に任せる。きっちり教育してやってくれ」


「「「「了解」」」」


 当初は川本かわもとに男を任せる事に不安はあったが、案外その点はしっかりしているようで安心した。

 まあ合意の上であれば、何をしても構わないさ。


 そして2日後。運命の目覚めの日を迎えた。





 ◇     ◆     ◇





「う……ううん……」


 久しぶりに――本当に久しぶりに聞く奈々ななの声。

 俺たち召喚者にとって、時間に意味はない。

 だけど俺の場合、地球で過ごした時間がどうしてもあるからな。

 手が震え、声が出ない。

 だけどそれで良い。焦るな、俺。


「お目覚めになられましたか?」


 ここは他の召喚者たちが目編める場所じゃない。塔のある、召喚自体を行う場所だ。

 奈々ななは運び出さなかったからな。

 そのせいで、いつも以上にマーシアの声が響く。

 その後ろに控えるのは風見かざみ児玉こだま

 なんか当然の様に、奈々なながえーっという感じの顔をする。

 まあ全員痴女だしな。


「クロノス様、後で話があります」


 風見かざみが俺にだけ聞こえるようにぼそりと呟いた。

 つかいつも何で分かるんだよ。

 というか、奈々ななも案外図太いな。

 もう少しこう、『キャー』とか悲鳴を上げると思ったのだが。

 いや、それは似合わないか。


「驚きになるのも無理はありません。ここはラーセット。貴方がたとは別の世界でございます」


 ……まあ驚いていたのはそっちの意味じゃないけどな。

 ただ改めて驚いたのは分かる。


「あの、どうしてですか? どうして私がこんなところにいるんですか? おねえちゃ……姉は? 一緒にいるんですか?」


 次第に目が覚めて来たのか、意識も言葉もはっきりしてきた。

 まあ順当な反応だろう。

 神罰の件で警戒していたが、今の彼女は普通の召喚者の卵。送還に問題はない。


「ご安心ください。貴方がここの召喚されてしまったのは、当方の手違いなのです。本当に申し訳ありませんでした」


「て、手違い?」


「正確に言うのであれば、貴方はもっとずっと未来に召喚されるはずだったのです。水城瑞樹みなしろみずき様や成瀬敬一なるせけいいち様らと共にです」


「え? なんで敬一けいいち君や姉が?」


「運命としか言えません。いえ、もしかしたら、そうはならないかもしれません。ただ言える事は、貴方をこれから日本へとお返しいたします。戻ればこちらでの記憶は全て失われ、もし再び召喚されるような事が無ければ、一生思い出す事は無いでしょう」


「は、はあ……」


 奈々ななはよく分からないと言った感じだが、そりゃ当然だろう。

 ちなみにこの辺りの話は全部俺が考えた。そして、これからの事も。


「それでは、これをお渡しいたします」


「これは?」


 それはあの時奈々ななが付けていたのと同じで、過度な装飾は無いが金と銀の螺旋の間に宝石が埋め込まれた美しい指輪だった。

 ちなみに付けると大気中から栄養素が取れるようになる。

 今の彼女には全く役に立たないが、送還するだけの力を持つアイテムだ。

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