第390話 状況を考えた結果だよ

 児玉里莉こだまさとりが帰還してきて良かった事のもう一つ。

 それは、やはり召喚される人間には何らかの法則がある事を確信できたことだ。


 それ自体は今までの例でも予想は付いていた。かつての教官組が、もう5人も召喚されているからね。

 俺が知らないだけで、前の世界で命を落とした教官組メンバーも召喚されているかもしれない。

 何度も入れ替わっているとは聞いているが、こちらは正確には分からないので何とも言えないが。

 ただ日本の人口と召喚した人数から考えれば、ここまで重なったらもう偶然とは言えない。

 しかも一度返した人間が戻ってきたとなれば、完全パーフェクトに確定だ。

 召喚される人間は決まっている。


 だけどそれは全員じゃない気がする。

 理由はやっぱり、召喚した時の統一具合だ。

 今回は全員が風見かざみ児玉こだまと同じ釜石第2高校からの召喚者だった。

 ずっとこの統一性と、召喚する時に生じる端数が気になっていたんだ。


 召喚される人間が決まっている事は間違いないとして、核となる人間がいるんじゃないだろうか?

 例えば、今回は、児玉こだまだな。彼女はどうやっても召喚されてくる運命なのだろう。

 だけど一緒に来た人間は、そうでは無いかもしれないってっ事だ。

 多分だけど何人か……もしかしたら全員が、彼女に巻き込まれて召喚されたのかもしれないな。


 そう考えると、やはりどうやっても、いつかは高校生の俺も召喚されて来るのだろう。

 でなければ歴史の流れが止まっているしな。

 他が決まっているのか巻き込まれて召喚されたのかは分からない。

 出来れば奈々ななや先輩には、こっちに来て欲しくないものだ。


 ――とは思うが、どうにも召喚のペースが速すぎる。

 正しくは、知っている人間が召喚されてくるペースがだな。

 かつては召喚者同士の殺し合いや反乱で、結構な数が召喚されていたらしい。

 百年ほどを生き抜いているのはクロノスを含めて4人。

 他の召喚組はそれなりに入れ替わりながら俺の時代のメンバーになったという。

 あの当時の教官組は、新人とまではいわないが一番新しいメンバーだ。

 それがもう一人を除いて揃ってしまった。二人は死んでしまったけどな。


 もしかしたら、召喚される法則の中に“俺の知っている人間”ってのが含まれているのかもしれない。

 だけど前クロノスの時、俺たちが召喚されたのは百年位してからだ。

 本当なら、真っ先に召喚されてきてもおかしくはないんだけどな。





 ここまでが良い事だが、人間一つの事例から一つの事だけを想像するわけではい。

 悪い方向に考えたのも、当然いたわけだ。

 実際、ケーシュとロフレの元には何人かの召喚者が詰めかけたそうだ。

 全員が常に潜っているわけじゃないからな。

 彼らが言うには、せっかく戻ったのにまた召喚されたのでは堪らないって事だった。


 そりゃまあそうだ。帰る理由は様々だが、十分にこの世界を満喫したり、次第に高まっていくリスクに耐えきれなかったり、スキルを使い過ぎて精神的に不安定になったりと色々ある。

 だけど共通しているのは、もう地球に帰りたいという意識だ。

 また呼び出されるリスクがあるんじゃ堪らないだろう。

 だけどまあ、こっちの対応は簡単だった。

 召喚庁の事務所の詰め寄って来た召喚者に、


「帰した人間が再び召喚された場合、選んでもらって構わない。またこの世界に興味がわいたのなら滞在すればいし、帰りたいなら無償で帰そう」


 ただ実際の所、彼らの時間は動いていない。帰りたいと思って帰ったのに、目覚めたらまたラーセットにいるとなったら相当に驚くだろう。

 特に今まで帰った連中は事情を知らない訳だし。また来たら、ちゃんと説明が必要だろうな。

 そして帰ると決めた人間が、またここに来て残るとも思い難い……が、その辺りは不思議なものでね。案外、これも運命だと思って残るかもしれない。だから一応、選択肢は残した訳だ。

 決して、生贄を使って呼び出したのだから、もう一度働けとか思っているわけでは無いよ。

 いくら何でもそこまで鬼畜ではないつもりだ。





 こうして児玉里莉こだまさとり出戻り事件は穏便に解決した。

 俺にとっても驚きかつ喜ばしい事だったが、それは他の召喚者にとっても同じ事だった。

 何せ本当に帰る事が出来る事が、これでほぼ証明されたからだ。

 ほぼと言っても、俺にとっては100パーセント。だけど世の中には疑り深い人間はいる。そこは仕方がない。

 でも今までのクロノスは出来なかった。あの無茶苦茶なスパルタ教育も、こうして過ぎてしまえばありがたい。

 脱落していたら地球は滅んでいたんだけどな……。

 マジで過去の……と言って良いのか分からないが、あのクロノスには文句を言ってやりたい。


 そして当の児玉こだまはというと、俺の秘書兼護衛になって貰った。

 なにせ裏切り者だ。当時を知る者は少ないとはいえ、やはり男に走って寝返った事は大きい。

 人の口に戸は立てられない以上、やがて新規の召喚者にも知られる事になる。

 だがら先手を取って、俺が管理するという事にしたわけさ。

 我ながら良い手だと思ったが、風見かざみには睨まれた。

 何せスキルの負荷を解消する手段に関して、俺と彼女は似通っている。

 彼女は両方OKではあるが、基本は児玉こだまとの濃密な接触が一番だ。本人の好み的にも。

 単に彼女が日本に帰ってしまったので、俺が代理をしていたようなものなんだよね。

 それなのに彼女を俺の付き人にして一緒にあちこち行くとなると、やっぱり複雑なんだろう。

 ごめんなさい。でも事情は察してくださいね。

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