第389話 やはり時間は動いていないか

 みやたちが起こした反乱の結果、多くの召喚者を失い、また残ったメンバーも大勢が帰還する事になった。

 当然その時に、なぜこうなったのかや、どうしてそうしたかを説明した。

 その上で、彼らは残ってくれたんだ。


「何をしても自由だけど節度は守る様にって言ったじゃない」


「ああ、召喚した時に必ず説明する事だな」


「だから彼らのやった人殺しはやっちゃいけない事なんよ。だからクロノス様は正しい」


「そうそう。私もあの件に関してはクロノス様支持派。私たちに人殺しをさせたくないから一人でやったんでしょ?」


 まあ一人で対処したとしか話していなかったが、そこまで考えてくれていたのか。

 だけど同時に心に言葉がグサグサと突き刺さる。俺を責めている自覚は無さそうなんだが、召喚して迷宮ダンジョン探索をさせる事は、間接的にとはいえ人殺しをしている事なんだよね。


「自分もあの一件は仕方なかったと思います。みやの考えだって分からないでもなかったですが、賛同は出来ませんでした。今更ですが、あれはクロノス様とみやの権力争いだったと思っていますよ」


「こちらにはそんなつもりはないんだけどな。大体、気苦労と仕事ばかりで碌なもんじゃない。だけど誰かに放り投げるほど無責任でもないつもりだからやっているだけだ。他に心から任せられる奴がいたら、俺はサポートに回るね」


「大変なのはわかるけど、なんかいつも思いつめた感じだよねー」


「素材はそれなりに悪くないのに台無しかな。悩みとかあんの?」


 ……こいつらは。


「まあ色々とある事は認めるよ。立場が上がるっていうのはそういう事さ。いつか必要になったら明かすかもだけど、今は自分と、周りの連中の身を守る事を最優先にな」


「だけど磯野いそのさんらは何かやっていますよね。自分の所にもちょくちょく来ますよ。“最重要任務”ってのがね」


「それは確かにとても重要な奴でな。だけどさっき言った事は変わらない。自分の身が第一だ。無理をする必要はない」


「する気も無いけどね」


「右に同じ」


 まあこいつらはあの9期生だ。問題は無かろう。

 いつかは地球の事も相談したいものだな。


 てな作業をしている間も、児玉こだま風見かざみからの質問攻めを受けていた。

 ただ風見かざみがいつものポーカーフェイスを投げ捨てて泣きじゃくっているので、今一つ要領を得ない。


「こっちは終わったけど、そらはまだ取り込み中の様だな」


「あークロノス様か。絵里奈えりなと話して結構思い出してきたよ。でもまだちょっと曖昧かな」


「数日もすれば完全に思い出すよ。それまでは風見かざみとよろしくやってくれ」


「クロノス様は来ないの?」


「百合の間に挟まる気はないんだ」


「でもあたしがいない間、絵里奈えりなに手を出したよね?」


「何でそんな事を知っているんだよ!」


「いや、そんな事だろうなーって思っただけなんだけどさ。やっぱりそうか……こらえ性が無いねぇ」


 なんか目を閉じてうんうんと頷いている。頼むから自己完結しないでくれ。


「こっちも色々とあったんだよ。じゃあ、後はよろしく。落ち着いたらまたな」





 こうして俺たちは召喚の間を後にしたが――、


「なあ、すまないが今回の16人はそっちの2チームで対処してくれないか? 磯野いそのは別件で動いているし、千鳥ゆうちどりゆうのチームも緑川みどりかわアンド川本かわもとのチームも戻って来ていないんでね」


「年単位で空いちゃったし、予定の日程とも随分ずれたしねー。まあ了解しておくけど、どうせ浅い層の体験探索と地上での教習がメインだしー。その間に戻ってきたら考えればいいよー」


「クロノス様はいつも細かく予定を決め過ぎ」


 まあその自覚はある。反省とまではいかないが、少しは考慮しよう。

 というか、その3日後には想定外の大騒ぎになっていた。

 理由は単純明快。児玉里莉こだまさとりが戻ってきた事だ。


 これには良い意味と悪い意味がある。

 先ずは、地球に戻すという行為はやはり成功していたという事だ。

 なにせ確認する手段なんて無いからな。俺自身も不安だったんだよ。


 それと同時に、2つの事が確定した。まあ一つは本人にも確認しないといけないけど、多分間違いないだろう。

 1つは、やっぱり地球の時間は全く動いていないって事だ。

 俺や龍平りゅうへいと違って、彼女は送還した時の年齢そのままだった。

 彼女から感じる召喚者としての力具合も同じだ。

 そうなると、何で龍平りゅうへいは? となりそうだが、まあ順番に行こう。

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