第388話 この可能性を全く考えていなかった
そして召喚の儀式が始まった。
幾つもの光が蛍の様に淡く輝くと、ユラユラと揺らめきながら次第にそれは大きくなる。
いつも思う。あれは魂なのではないだろうかと。
死ねば素直に帰ってくれれば色々楽なんだけど、こうして他者の命を生贄にして召喚されているんだ。
帰るにも、それなりのエネルギーが必要なんだろう。
そしてこの光を見るたびに、俺は自分の罪深さを実感する。
カルネアデスの板――溺れそうな二人の前に浮かんだ板。一人しか支えられないそれを奪うために、他者を殺すことは許されるってやつだ。
昔はやったトロッコ問題なんかもそうだな。放置すれば5人が死ぬ。だが自分が人殺しになるなら、犠牲者は一人で済むってやつ。
どちらも、やっている事は同じだな。
俺は地球とラーセットを含むこの世界を救うため、今こうして犠牲者を自らの意思で召喚している。
正しいとは思ってなどいないが、他に手段が思いつかない。
この世界にも神はいるらしいが、地球の神と同じで意地が悪いな。是非すべてを解決する英知を授けて欲しいものだ。
そんな半ば自暴自棄な考えにふけっている間に、儀式は終了した。
召喚された17人は、何も知らず眠っている。
本来ならここで召喚された日を思い出せない様にして……そしてそれに失敗したら帰る様に刷り込みをするのだが、出来る人間がいないのでそれは無し。
出来たとしても、やるかどうかは別問題だけどな。
そして別室に運んだあとは、目覚めるタイミングで”さもたった今召喚しました”かのような演出が行われるわけだ。
毎度の事だが、ここで出来事を知っているのは現神官長のクナーユ、それに俺と教官組、他は引退した神官長だけだ。
そして今回は
「さて、いつものように運ぶとしよう。今の段階で目が覚めることは無いと思うが、丁重にな」
そう言いながらも、俺は違和感に襲われていた。
いや、そんな生易しい物じゃない。見れば、
そりゃそうだ、気持ちは分かる。
彼らの服装には見覚えがある。忘れもしない第3期生、釜石第2高校の制服。
だけどそれだけじゃない。目の前で、大きく伸びをして早くも目覚めている人間がいる。
「うー……ええと……
あまりにも呑気にそういった女性は
それよりも――、
「馬鹿! バカバカバカ! そんなのすぐに思い出すわよ馬鹿! それよりどうして戻ってきちゃったのよ!」
一方の
だけどまあ、すぐに思い出すだろう。
それよりも、ここいる
彼ら9期生は加担もしなければ召喚者同士の戦いもしなかったが、さて今は何を思っているのやら。
「とにかく、ここは
こうして俺達は残った16人を別の召喚の間まで運んだのだが、その時に世間話のような感じで聞いてみた。彼らがどう思っているのかを。
「ああ、その話」
最初に反応したのは
「前に
「そんなことは無いけどな」
俺としては召喚者同士の殺し合いなど絶対に避けたかったが、何せ軍務丁長官であったユンス・ウェハ・ロケイスが殺された事で始まった反乱だ。もう互いに引っ込みが付かない所から始まってしまった訳だ。
だけどやっぱり召喚者に人間を――それも同じ日本人同士で殺し合えなど言えない。
そこで彼らには待機してもらって、全部一人で対処したんだ。
結局首謀者である
けど
そして当然、その後に事の顛末を全ての召喚者に話した。もちろん、今話している
そして大量帰還という結果となり、召喚計画は大きく後退したわけだ。
だけど、彼女は帰らなかった。それは同じ9期生である
本当に感謝しているよ。
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