第386話 特に何もなかったな
「いきなり蹴る事は無いだろう」
「うるせえ、こっちも足がズタズタだ。クソが! お前がお悪い!」
見れば、蹴った
まあ薬で治るから良いだろう。実際もう治して立ち上がっているし。
「まあそれは置いておこう。それよりも最初に気になっていたんだが、その壺は結局どうしたんだ?」
「何か興味でもあるのか?」
「壺が2つってところが気になってな。ダークネスさんは双子の幼女を連れていたから、もしかしたらと思ったんだよ。中に何か入っていたか?」
「ご期待には沿えないな。何と言っても開けていないからな」
「重要な手掛かりじゃないか。せめて持って帰れば良かったのに」
「壺はセーフゾーンに完全に固定されていた。それにあの手の類は、大抵がろくでもないトラップだ。一応は報告しておいたから、軍務庁の連中か別の召喚者が調査に向かうだろう」
「どのくらいかかるんだ?」
「俺なら4か月あれば往復できるが、普通なら10か月くらいじゃないか? 現地の人間も連れて行くなら、2年はかかるか」
「あー、今度俺が行くわ……」
その方が早い。それに見ておきたいしな。
何と言っても、ダークネスさんはいつその文字を壁に掘った?
出発の時か? それとももっと前に掘っていたのか?
どちらにせよ、
それに片道なら2か月か……
一方で、クロノスたちは
かつての俺が
だけど結果は様々だろう。そして結果が変われば、行動も変わる。あの時の
本当に謎の人だ。だけど疑問を呈しておいてなんだが、やっぱりどこか
いずれ分かる日が来るのだろうか?
「何か情報源にでもなればいいんだけどな」
「無いのならそれもまた情報の一つではあるんだが、幼女が出て来たらどうしようかと少し悩んでいるよ。あれはダークネスさんのオトモだったからな。俺でもなく、
「冗談じゃねえ。大体さっきから幼女とか言っているが、お前が連れていた奴隷と大差ないだろうが。しかも手を出したと聞いているが?」
「彼女はあれで成人しているから良いんだよ」
「あの双子も人間には見えなかったがな。どっちもどっちか」
「どちらにせよ、帰還希望者が戻るまで3ヵ月ある。俺ならそれまでに往復可能だ。取り敢えず見てくるよ。壺は今の段階で開けるつもりはないけどな」
「幼女が出て来たら、お前の
「それはダークネスさんに失礼な気がしてな……寝取るみたいで」
実際のところ、ダークネスさんと彼女たちはそういった関係ではなかっただろう。
それに寝取ると言えば、
間違いなく思い出しているだろうが、何も言わない所を見ると、あれが先輩の本心からの願いだったと気が付いているのだろう。
ふう……
今となっては、決して有り得ない問題だけどな。
▼ ▲ ▲
こうしてダークネスさんの問題を棚上げしたまま、俺は
まだ大変動は無いし、たとえあったとしてもセーフゾーンの位置は変わらない。
なら俺にとっては、位置さえ特定出来れば距離などたいした意味はない。ほんの5日ほどで、目的の場所へと到着していた。
場所も状況も、確かに説明された通りだ。
小さな玄室といった感じで、壺が2つ並んで設置されている。
どちらも陶器で上には紙の蓋が縄でくくってある。実際にはその内側には木の蓋でもされているのだろうが、触った感じは金属その物。
紙の蓋など、端は剃刀の様だ。
壁にはどこにも文字は無い。そりゃそうか。
いつ掘ったのだろう?
どうやってここまで来て、そして戻ってきたのだろう?
謎の人ではあるが、
味方だった……それは間違いないだろう。あれだけ世話になったんだ。
だけど当時の
是非理由を聞いてみたいが、仮に今の
少なくとも、もうここに彼が文字を刻む事は無いだろう。
そんな事を考えながら、俺は玄室のような静かなセーフゾーンを後にした。
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