第381話 お前が言うな

「まあそうやって地上勤務をしている最中にお前に会って、悔しいがあとほんの少しの所で負けたわけだ.。本当に僅かの差だったのだがな」


 口惜しさがにじみ出ているが、素直に負けを認めたのは偉い。

 まあそれより――、


「その辺りの事を聞いておきたかったんだ。第一に改めて聞くが、本当に俺を殺すことは命令だったんだな?」


「抹殺命令が出ているとは聞いていたのだろ? あの時そう言っていたじゃないか」


「そりゃそうなんだけどさ。本当に死んだらどうするつもりだったのかと思ってな。実際に、何度死線を潜ったか分からない。今こうして生きている事自体が奇跡だぞ」


「俺たちでは何があっても殺せないという自信があったか、それとも絶対に最後の一戦は越えないように手を打っていたか……どちらにせよ、随分と馬鹿にされたものだ」


「うーん、分かっていることは、みんな本当に俺の抹殺の為に動いていたって事か」


「それでも死ななかったのだから、その点だけは誇って良いだろう」


「ちょっと複雑な気分だけどな」


 そうだな。本当に戦うたびに死がすぐそばにあった。まあ俺の場合、死ではなく消滅と言って良いか。

 以前にも考えたが、手加減無しだった事は確定と考えていいか。

 だけど、やはりあのクロノスは俺だ。何らかの手は打っていたと思うが、龍平りゅうへいには知らされていなかったか。


「それで、お前の方はどうなんだ? 追放されてから何がどうなってあんな事になったんだ」


「それは是非、当時聞いて欲しかったよ」


 こうして俺は、追放されてからの事を話した。

 帰るためのゲートとか言う黒い穴に入って初めてスキルが発動した事。

 一緒に入った人は全員死んで芋虫に喰われた事。

 そして、それらは全て召喚された時に刷り込まれていた事もな。


「酷い話だな。俺たちも召喚された日を少しでも覚えていたら、強制的に帰りたいと思うようになっていたのか」


「そうだな。そして当時の帰るってのは、そのまま死だ」


「……話を続けてくれ」


 その後、勇者と黒竜に出会った事。

 地上へと戻る事に決めたが、長い道のりだった事。

 そして、その果てに待っていたのは二人の召喚者との戦いと、予期せぬ出会いだった。


「その辺りの話は予想でしかなかったが、やはり新庄琢磨しんじょうたくま須恵町碧すえまちみどりを殺したのはお前か」


「目撃者などいなかったと思うが、何故そう思われていた?」


新庄琢磨しんじょうたくまの奴隷を連れていたからだ」


 もう分かり易すぎだわ。犯行の証拠と一緒に旅していたんだから、そりゃそうなるか。


「まあ今更お前の性格は分かっている。避けられない戦いだったんだろ」


「……ああ。話なんて聞いちゃもらえなかったよ。でも敵意はあったけど、悪い人たちじゃない事も伝わって来た。今でもトラウマの一つだ」


「ここはそんな世界だ。仕方あるまい。それでも、今のお前はよくやっていると思う。当時の殺伐さに比べたら雲泥の差だ」


 先輩の事を考えるだけでも、相当に酷かったことは分かる。

 それだけ自由だったとも言えるが、行き過ぎた自由は無法と同じだ。当時の俺は分からなかったのかね。


「それでそのまま地上に向かったのか? レポートを読んだ限りでは、途中で女を一人増やしたようだが」


「やっぱりそんな事まで知られていたか。確かに地上に行こうとは思ったんだけどな。あの状況で地上に行って、果たして受け入れられるかが、かなり疑問だったんだ」


「スキルなしで帰還した奴が戻ってくるのはちょっとまずいか。だけど色々と言い訳は出来るんじゃないのか?」


「その自信は新庄しんじょうさんたちと戦って吹っ飛んだよ。もう何がきっかけで戦闘になるか分からない。それに、さっきも言ったように一緒に帰ったはずのみんなは死んでいた。その一点だけでも、素直に戻るのは危険だと気が付いたんだよ。そこで、俺は最初の場所に戻ったんだ」


「また迷宮ダンジョンの奥へか? 正気とは思えないな」


「もう素直に帰って『戻りましたー。仲間に加えてください』ってのは完全に諦めたからな。それよりも、この出来事で確認したいことが出来たんだ」


「確認? 何をだ?」


「俺が殺してしまった二人は、光に包まれて消えた。何処に行った? 彼らの説明通り日本に帰ったのか? なら俺と一緒に帰った人たちはどうなる」


「……」


「そこで最初の場所に戻ったんだよ。結果として、予想は正しかった。二人の遺体はそこにあったよ。それで確信――というにはまだ足りなかったが、信頼からは程遠いと思ったわけだ」


「なるほどねぇ」


「そんな訳で、この時点で俺の中では既に彼らとは完全に決別していた。だからこの情報を元に皆を説得して、とにかく奈々ななと先輩をあの場から逃がそうと思ったんだ」


「改めて確認しよう。その時に俺を連れ出すという選択は無かったのか?」


「無かったわけではないが、出会った途端に戦闘になったのはどこの誰だったかな?」


「事情が分からなかったのだから仕方があるまい。大体だな、そんな状況だったのなら、先ずきちんと俺に説明すべきだろう」


「お前には『お前が言うな大賞』を与えよう」

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