第380話 ダークネスさんも謎の人だな

 じりじりと迫って来るが、今ここで龍平りゅうへいに殺されてやるわけにはいかないな。

 大体、話しはまだ途中だ。


「まあとにかく落ち着け。実はお前が平八へいはちになった時から、かすかな違和感はあったんだよ。今もそうだ。どうしても引っかかる」


「なんだよ」


「記憶が無かった事もあって、俺が付けたあの傷を元に平八へいはちという名前が付いた。なら先代のクロノスも、お前に同じ傷をつけたのか? そして今の歳のお前が以前この世界に召喚された時も記憶喪失で、全く違う誰かが同じ名前を付けたと。偶然にしては出来過ぎている。それにだ、ここまで知っておきながら、ブラッディ・オブ・ザ・ダークネスなんて名前をお前名乗るのか?」


「……」


 ――あ、こいつマジで考えやがった。名乗る気でいたな!?


「とにかく、あのダークネスとかいうブリキ野郎は、俺ではなかった可能性もあるのか。だんだん頭がこんがらがってきたな。まあいい、考えるのはお前に任せる」


「丸投げかよ。まあいいや。話を元に戻すとしよう。俺なりに調べもしたが、当時の体制や召喚者の扱いなんかは聞いたり読んだりした知識しかないからな」


 そんな簡単に後回しにしていい話でもないとは思うが、考える材料すらないのだから仕方がない。


「その辺りの事は、克明に全てを覚えている。良いだろう、全部教えてやろう」


 相変わらず尊大だなー。

 とにかく、俺はそのまま当時の龍平りゅへいが置かれていた状態を聞いた。

 基本はやはり迷宮ダンジョン探索だが、リーダーと一緒に同じ高校から召喚された仲間が大変動で死んだ時に甚内じんないって教官が色々と便宜を計ってくれたそうだ。

 理由はしばら迷宮ダンジョン探索は厳しそうだという名目だが、あのチームが先輩や女性たちに何をしていたか薄々知っていたのだろう。


「まあ前リーダーと入山いりやまを殺したのは俺だけどな」


「話の流れからしてそうだと思ったよ。理由は聞くまでも無いから言わなくていいや。ただ、どうしてその後にお前がリーダーになったんだ? 他にも先輩がいただろう」


「これを機にチームを分裂させようって話の流れに持って行ったんだ。当然、瑞樹は俺の方にな。ただそれに何人かが反対した。俺としては手を切りたかったが、同じ高校の安藤あんどう須田すだなんかが反対してな。結局俺をリーダーにする事でチームは維持される事になったんだ。俺としては大誤算だったよ」


 その後は地上の警戒任務の傍らで甚内じんないって教官に肉体強化のスキルの使い方を色々教わったそうだ。

 当時の教官は新人の教育以外は基本的に外で待機していたそうなので、全員が暇。

 そんな訳で、教えてもらう時間は十分に取れたという事だった。


「ちょっと待った。じゃあ教官組全員に会った事があるのか?」


「俺は基本的に甚内じんない教官だけだな。それとその人によく絡んでいたんでフランソワ教官とも度々面識がある。他には……地上任務の説明のために木谷きたに教官にも報告とかで何度か話しているか」


「他の教官は?」


「一応全員見ているが、特別話をするような関係じゃなかった。知っていると思うが、残りは荒木あらき教官、三浦みうら教官、一ツ橋ひとつばし教官だ。記録を見たが、もう2人死んでいるんだな」


「我ながら情けない話だけどな。それで、当時の教官と今の教官で変わりは無いか?」


「違い過ぎて説明が難しいな。こちらにいる教官は皆ひよっこだ。木谷きたに教官なんかが良い例だな。あ、まだ教官でもないか。今の様子を見ると、本当にどうなったらアレになるのか想像もつかん」


 確かに、木谷きたにとは迷宮の町で戦った関係だ。それに龍平りゅうへいが暴走した時に、提案を持ってきたのもそうだ。どっちも自信に溢れてキザ。だけど何処か、生きる事に疲れたような空気をにじみだしていた。

 戦っている時は、本当に生き生きとしていたけどな。


 その一方で、今の木谷きたには引き籠りに近い。運動は苦手。趣味はアニメに漫画にラノベとゲーム。

 性格は慎重そのもので、絶対にギャンブルには手を出さないそうだ。

 アレでスキルが同じじゃなかったら別人かと疑うところだ。

 今は緑川陽みどりかわよう川本彰浩かわもとあきひろのチームに無理やり組み込んで働かせているが、さて今後どうなるやら。

 まああの二人が一緒なら、死にはしないだろう。尻は保証しないがな。


「それと、フランソワ教官は熱烈なクロノス信者だ。詳しい事は知らんし、どうしてフランソワと名乗っていたのかも知らん。今はどうなんだ? そんな兆候はあるのか?」


「最近なんだか、微妙にそんな兆候があった様な無かったような……」


「ハッキリしない奴だな。死人はともかく、残るは一ツ橋ひとつばし教官か。あの人もかなり変わったな」


「今は男の娘だが、当時は違ったのか? ムキムキだったとか、本当に女の子だったとか」


「その辺りは判別すら出来んな。何せ、いつも紫の布で全身をミイラの様に覆っていた。体格も今とは違う感じがするな。もっと背が高かった気がする」


 俺たちの時間はここには無く、日本にある。だからここでは時間が経過しないし、当然成長もしない。そういった意味では育ったって線は無い。

 ただ別の線も色々と考えられる。

 粗悪な薬を使った事で肉体に変貌があったとか、樋室紗耶華ひむろさやかさんの様に、本体とは別の物を操っていたとかな。


「まあ彼はフランソワと同じように、色々と迷宮産のアイテムいじりが好きなようだ。案外、それは遠隔操作の人形かもしれんな」


「そうかもな。まあ、それはどうでも良い事か。同じ事になるかは分からないが、実害が無い以上は様子を見守ればいいだけの話だ」


 残る甚内じんない教官って人の名はよく聞くが、そういや会った事は無いな。もしやと思う人はいるが……この予想は外れて欲しいものだ。

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