第382話 やろうと思えばいつでも出来たはずだ

「ああ、それと言い忘れていたんだが、そこに行くまでの間にダークネスさんに会ったんだ。今までだったら素直に『お前だよ平八へいはち』って言えたんだけどな」


「その点も、雲行きが怪しくなってきたものだ」


「それと、そこで南条ひたちなんじょうひたちって人とも合流したんだ。かなり助けてもらったよ」


「そんな事は知っている。だがノルマさえこなしていれば、何処で何をしていても自由だからな。だから彼女に関しては、一切手を出さないように言われたよ」


「自分で言うのもなんだが、大量殺戮者と行動を共にしていてもか?」


「彼女自身がやったのではない限り、一切不問だ。召喚者の特権だな。それよりもそのダークネスって奴に関して詳しく教えろ」


「正確にはブラッディ・オブ・ザ・ダークネスさんだ」


「心底どうでもいい」


 まあそれが普通の反応だろうけどね。


「お前も知っていると思うけど、表情は全く読めない人だったよ。感情の起伏もあまり感じなかった。だけど凄く親切な感じをしたな。あの世界で、数少ない信用できる人だったと思う。武器とかの手配もしてもらったし、さっき話に出たひたちさんを紹介してくれたのも彼だ」


「読めない人間だってのは同感だな。だが親切で信頼ねえ……まあ良い、話を続けてくれ」


 そういえば会っているんだよな。つか戦っている訳か。だけどまあ順番に聞いて行こう。

 とはいっても、ここから先はもうお互いよく分かった。

 少なくとも、末端には俺への抹殺命令はしっかり出ていた。

 教官組も、木谷きたにの言葉に嘘が無ければ同じくだろう。まさか自分が死ぬ事を前提に手加減するとは思えない。

 それに龍平りゅへいの両腕を斬り落として完全勝利した時に、その俺を手加減無しでぶっ飛ばしたのは甚内じんないって教官だと後で聞いた。


 あの時は咲江さきえちゃんがたまたまいたから戻ってくることが出来た。

 だけどあれは本当に奇跡と言って良い。

 俺のスキル特性。咲江さきえちゃんの機転。それに、俺がまだ無意識で諦めていなかったって事が重なった上での生還だ。

 しかもそれだけじゃない。セポナとひたちさんが準備を整えてくれてたから、俺は完全消滅前に戻って来られたと言える。

 そう考えれば、やはり教官組も俺を抹殺する前提で動いていたと考えられるな。


 だけど何とか生き延びて、時計を奪取して先輩も奪い取った。

 龍平りゅうへいからすれば寝取ったってところか。

 あのキレっぷりも理解できない訳じゃないな。


「それでその後は色々あって、南のハスマタンが襲われるって話になったんだ。そういえば、その間も誰も時計の奪還には来なかったが、本当に俺の位置は把握できていなかったのか?」


「全くダメだな。地下は当然として、それなりの人間が地上も探索した。だが見つける事は出来なかったな」


 そこが少し気になる。

 その時点で残っていた召喚者が、たまたま探索系のスキルを持っていなかったのか?

 だがあの距離で2年も放置……仮にあそこに小屋を建てて、今いるメンバーに探させたらどうなるだろう?

 おそらく、長くても半年ほどで見つけ出すな。

 その位、無警戒だった。


 ダークネスさんか、それともクロノスか……案外檜室ひむろさんや正臣まさおみ君という線もあるが、彼らの何人かが妨害していたのではないだろうか?

 もしかしたら、クロノスだけでなく最古の3人と呼ばれていた連中も関わっていたのかもしれない。

 妨害と言っても、必ずしも物理的とは限らない。交渉、懐柔、スキル……その辺りは何でもアリだ。


 まあ仮定の話だな。それが正しいとなれば、あの時計の研究はクロノス自身が俺にやらせた事になる。

 今考えれば、成功する可能性の無かった研究だ。今まで成功したことは無いだろうし。

 2年間召喚出来無いという状況はかなり大きい。しかも盗まれたことを理由にヨルエナまで死刑している。本当に何の為だったんだろうな……。


 そういえば、クロノスを除く最古の3人ってのは誰だったんだろう。

 気にはなるが、召喚される順番も生きるか死ぬかもまるで計算できない。全員知らない人間である可能性の方が高そうだ。

 今となってはどうでも良い話だけどな。龍平りゅうへいが話している最中だし、そっちに思考を戻そう。


「まあそうやって無駄な時間を過ごす内に、ハスマタンに出たって話だったな。だがその時俺は――」


「ああ、完全に暴走していた。その経緯を最初から説明してくれないか?」


「そうだな……少し気になる事もあるのでお前の意見を聞きたい。最初から説明するとしよう」


 こうして、俺が村で研究している間、龍平りゅうへいが何をしていたかを話し始めた。

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