第375話 そっちかよ
認識阻害を外せ――か。
「分かった。要望には応えよう」
まあ俺の顔なんて
あの幽霊みたいな恰好で夜の生活は無理だし。
普段この格好をしているのは、高校生の俺が召喚された時に問題になる可能性があるからだ。
だけど、ここにいるのはかなりの秘密を知ったメンバーだしな。そっちの点も何とかなるだろう。
「これでどうかな?」
「うん、合格」
「それじゃあ早速ご褒美貰おうかな。何人も相手しているから、すごく上手なんでしょ?」
「いやー、あのクロノス様を抱ける日が来るとはねー」
「今夜は寝かさないからね」
交互に言いながらにじり寄って来る肉食獣二人。
冷めた目で見ている
「いや待て、どういうことだ?」
「元々そういう約束だったから。秘密を知られたクロノス様が、この4年で口封じに動くような人間になっていたら、私も今後は協力しない。もしそうじゃなく協力を求めるのであれば、彼女らの要求を聞く。彼女らの方は、クロノス様が不細工だったら関係はここまで。ここまでの話もチャラ。秘密は守るけど、日本に帰る。だけどまあまあ及第点以上なら、今後もちょくちょく楽しませてもらう――って話。そんなわけで、頑張ってね」
「俺はそんな約束していないんだけど」
「私がしたから。それより、私も私で4年間蓄積されたストレスが溜まってどうしようもないの。その二人が終わったら、次は私だからね」
……もつのか、俺の体。
※ □ ※
一週間後――もった、もったぞ俺の体!
案外、人間とは頑丈なものだ。なんてね。これは召喚者としての成長と、俺がその方面で鍛えられているからだ。
まあ3人は精も根も尽き果てて寝ているので、勝利と言って良いだろう。
ああ、今更だが
ただずっと見学されているのはきつかったが、これは
しかしいい趣味をしているものだ。
変な趣味に目覚めないと良いが。
こうして執務室を出ると、ケーシュが外の事務室で待っていた。
いつまでも休んではいられない。執務室で何をしていたのかは秘密だが――いやケーシュは知っているだろうが――普通の召喚者は知らないからな。ちゃんと仕事をしていたという事にしておこう。
それに、待っていた理由は分かっていたしな。
「こちらが帰還を望む召喚者様のリストであります」
「12期が3人で、15期が5人か。多いようにも感じるけど、4年以上も放置すればそりゃ貯まるか」
だけどこっちで何年過ごしても、帰る時間は同じって事はちゃんと伝えてある。
それもあって、たまに少し表層の探索をする以外は、外をあちこち観光していたそうだ。
自然しかないが、確かにあの大自然はそれだけの価値がある。
「それとクロノス様がお戻りになったという事で、
「それでなんと?」
「宿舎で待つので来て欲しいとの事です。あと、どうせ時間はあるのだからそちらの用件が全て終わってからでよいとの事です」
……あいつ、俺が一応ここの最高司令官だと分かって呼び出しているのか?
まあ、その最高司令官様は4年以上も不在にした挙句、さっきまで色々と人には言えない事をしていたんですけどね。
「分かった。じゃあその帰還希望者から先に済ませよう。今はどこに?」
「あ、今は暇だからと言ってまだ旅行中であります。帰還予定は3週間後になっています」
本当に自由気ままだなー。
でも、そのくらい心に余裕がある方が良い。
前の世界の様に、公然と召喚者同士が殺し合いギスギスしているよりはマシだ。
召喚者の回転は速かったんだろうが、弊害も多かっただろうしね。
□ ※ □
そんな訳で、俺は最初に
かつて先輩たちと暮らしていた時は、日本家屋風に改良した一軒家だったそうだ。
結局、実際には行ったことはないけどな。
万が一の時にはそうする予定だったが、あの時の俺の役割は囮。そして救出はひたちさんとセポナ、それに
ちなみにそうしていた理由は、召喚者同士の横のつながりが絶たれていたせいだ。
周りが信用できないから、それぞれに考えて居を構えていたのだろう。
だけど今の
80階層ほどの中層ビルの数階に、召喚者たちがそれぞれ個室だったり広間だったりを選んで住んでいる。
ロビーやリクリエーション施設、ジムなんかも用意、更には24時間営業の食堂も用意して、召喚者同士が互いに交流出来るようにしたわけだ。
当然、以前の様に秘かに反乱を企てる事もあるだろう。
宿舎を分散し、尚且つ信頼出来る見張りがいれば、そういった事も事前に察知できるかもしれない。
実際それが有効だった事が嘆かわしい。
だけどそれでも、俺は今の形式に決めた。こうするべきだと思ったからだ。
たとえそれが大きな失敗を招くとしても、今はこれで良い。
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