第374話 こんな姿で信用しろもないか

 ”慧眼”か……そこまで強化されているとは思わなかったな。

 それにしても――、


「それは召喚者の力に左右されないのか?」


「やっぱりされるよぉ。だけど風見かさみさんは微かだけど分かるかな」


 彼女の瞳は、この部屋で話している最中一度も光っていない。つまりはスキルは使っていないって事か。

 確かにそんなスキルを使われたら色々と緊張してしまうな。

 そして風見かざみに詰め寄った時、彼女はスキルを使っていた訳か。そりゃ下手に誤魔化して失敗したらと考えたらリスクが大きすぎるな。

 というか、彼女は普通に呼ぶのね。目上だからかな?


「とまあそんな事情で、9期以上は元々全員知っていると考えていいわ。塔に手が入った以上、いずれはもっとはっきりした証拠が出る可能性もある。だからいっその事話しちゃったわけ。それに、死ぬと光に包まれて遺体が別の場所に飛ぶシステムに関しては話してくれたでしょ? おそらく塔じゃないかなと思って、その協力も頼んだの」


「別のアイテムとかかとも思いましたが、普通に塔で良かったです」


「なるほどねえ……」


 死ぬと遺体が残る問題は、早々に何とかしたい懸案事項ではあった。

 ここまで手を出せなかったのは、時間の問題というよりやりようがなかったからだ。

 これに関しては、確かにありがたい。


 死ぬと本当に死んでしまう事……8期生以上は全員知っていると考えていいのか。

 確かにそう言われると、俺もそんな気はするんだよね。

 でも何も言われなかった……帰ろうと思えば俺に言えばいつでも帰れるって事が効いていたのだろうか?

 それともっと単純で、信用されていないけど戦っても以前の二の舞だから大人しくしているだけなんだろうか?


 しかし考えて見れば、3期の風見かざみ、6期の磯野いそのはもうそれぞれ最後の一人。そしてもう話してある。

 2期、3期、4期は全滅しているし、7期の千鳥ちどりチームはなんか全員知っていてもおかしくはないんだよな。

 なにより、あの結束の強さがそれを物語っている気がする。そうでない人間は普通に帰っているし。


 そして8期は事前に帰っていたメンバーを除き、残りは反乱で全滅。

 9期は9期で、全員が少人数で警戒しながらの活動か……言われてみれば納得してしまう。


 残りを考えれば、10期は木谷きたに一人だけ。11期も龍平りゅうへい一人。

 後は12期以降だが、数人がどことなく察していそうだが、全員って事はあるまい。

 以前のクロノスの様に、何度も反乱を起こされていないのは運がいいのか教官のみんなの手腕か、それとも残っている召喚者が命のやり取りも含めてこの世界を楽しんでいるか……。


 まあ色々とあるのだろうが、遺体を光に包んで移動させるシステムは大発明。そして大手柄だ。

 今後の召喚者達には、遺体が残らないってだけで安心感が生まれるからね。

 スキルのアナウンスによる全体の強化も含めて、この二人には頭が上がらないよ。


「しかしあのスキルのアナウンスってどっから出ているのかね」


「意志のようなものは感じられません。なんか機械的というか……その辺りの事は召喚のシステム自体を解析しないと難しそうです」


「出来そうなのか?」


「皆目無理です」


「ならいいや。それでは二人は引き続き塔の研究をしてくれ。だけどそれにかかりっきりになる必要はない。今欲しいものは大体出来ているしな」


 というか、当時にあったシステムはもう全部ある。しかしそれ以外は無い。

 つまりは、これ以上の研究や改良は、全部無駄になる公算が高い。


「それよりも、それぞれ興味のある物や、何か要望のある物を開発してくれ。もちろん、自分の趣味が迷宮ダンジョン探索ならそちらを優先してくれてもいいけどな」


「その点は大丈夫です」


「迷宮のアイテムって、色々いじり甲斐があって楽しいんです」


「なら良かった。ではこれで大体の話は終わりかな。あとは今まで通りだ。基本的に新人は迷宮ダンジョンでの収集活動に専念してもらって、ベテランには奴の痕跡を集めて欲しい。今は何処かに移動しているが、必ずどこかに入るはずだからな」


迷宮ダンジョンの広さと人手を考えると、雲を掴むような話だけどね」


「その点に関しては磯野いそのにちょっと頼んである。まだ迷宮ダンジョンにいるから結果は聞けていないけどね。それと改めて、死んだら本当に死んでしまうって話は他言無用だ。気が付いてしまう人間が今後も出るとは思うが、その時はその時で対処する」


「それは口封じも含むって事でいいのですか?」


 今まで沈黙していた月光げっこうがやっと話した――が、そんな暢気なものではないな。相当にすごんでいる。

 だがこちらも、この点は譲るつもりはない。


「当然だな。死ぬ事に関して聞いたという事は、それでも召喚を続けている理由なんかも聞いたと思う。そして、以前あった召喚者同士の殺し合いもな。だからたとえ死ぬと分かっていても召喚を止めるつもりは無いし、反乱を扇動する様子があれば処分を下す。本当はそうならないのが一番なんだけどな」


「まあ、反乱とかが起きてもあたしらはクロノス様を支持するよ」


「この世界、楽しいもんね」


「そう言ってもらえると助かるよ。俺も最大限、それに応えるとしよう」


「なら、その認識阻害? って奴を外してもらえるかな?」


「あ、あたしも興味あります」


 ふむ……確かに、顔の見えない相手を信用するには限界があるって事か。

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