第370話 まだ違ったんだった

 執務室に居たのは全部で6人。

 その内教官組は2人で、全ての秘密を知るのは一人だけ。

 言うまでもなく風見かざみだな。

 ビキニにマントに魔女風のつばの広い三角い帽子。色は全部濃い紫に統一されている。

 まあいつもの格好だ。

 今の俺には刺激が強いが、その辺りは夜にでも。


「いや、挨拶は良い。話は3庁を回って聞いてきたが、この4年で帰還者は4人だけと聞いた。凄いじゃないか」


「そんなに褒めても何も出ないよ」


「まあ謝礼は体でも良いよ。絵里奈えりなに聞いたけど、結構いい男なんだって?」


 そう応えたのは肉食教官こと宮本忍みやもとしのぶ秋月緋和あきづきひわだ。

 まあ心の中で呼んでいるだけだけどね。

 もっとも、本人たちに直接言っても笑って肯定するだろうが。


 ちなみにこの部屋に集まったのは、最初に名前の出た風見絵里奈かざみえりな宮本忍みやもとしのぶ秋月緋和あきづきひわ

 それに彼女たちに預けた一ツ橋健哉ひとつばしけんや

 相変わらず女装しているが、貞操は無事だろうか……そんな訳ないか。


 それに地上で休息中だった高橋月光たかはしげっこう

 彼のスキルによる弊害を回復するには、心穏やかに天体観測をする必要があるそうだ。

 そんな訳で、彼が担当しているメンバーも……と思いきや、彼らは自分たちの中でさっさとリーダーを決めて迷宮ダンジョンに旅立ってしまったそうだ。

 そして新規の召喚も無いため、風見かざみと同じく地上で色々活動していたという訳だ。


 それにもう一人、田中玉子たなかたまこがいた。

 相変わらずおかっぱ頭で童顔。それに服は黒と白を基調にしたゴシック風のドレスに変わっている。

 というか、前の世界でも同じようなのを着ていたぞ。フリルの数が少し違う位か。

 やっぱりこれが趣味なのだろう。

 こうして見ると、結構異色というか珍しいメンバーが集まっているな。


「謝礼に関してはまた今度という事で、とりあえずお互い情報交換をしよう。俺の方は予定通りの相手に会えたよ」


「それでどうだったの?」


 やはりこういう時、代表して話すのは風見かざみだな。

 いつの間にか、公然と俺の彼女と見られている様だし。


「奴を探したり倒したりするヒントを得たとは言い難いな。どうしても気が短いやつでね、聞きたい事を全部一回でとはいかないんだよ」


「たしかセーフゾーンの主に会いに行ったのですよね? 凄いです! 私も別の主の討伐に参加しましたが、見ているだけで精一杯でした」


 一ツ橋ひとつばしは体の前で両手の拳を握り、キラキラした目で覗きこんでくる。

 そのぶりっ子ポーズと可愛らしい声で迫られると、ついつい男だという事を忘れてしまうぞ。

 これでまだ健哉けんやっていう男らしい名前だからよかったが、あきらとかかおるとかだったら男であることを忘れてしまいそうだ。

 というか褒められて悪い気はしないが――、


「今回分かった事は、奴の食事に関してだな。どうも生き物を殺して魂のようなのを喰らっているらしい。話によると、人間は奴にとって格好の獲物らしいな」


「それは迷惑な話ね。でも行動原理が分かりやすいのは良いわ」


「ああ。今は迷宮ダンジョン怪物モンスターと戦いながら少しずつ力を蓄えている様だが、十分に力が付いたらまた人間を襲いに来るだろう。最初の内は地下の街だろうが」


「いずれは地上の都市を狙うって事ね。それ以外は?」


「いくつか聞いたんだが、やはり時間を戻す事に関しては知らないそうだ」


「それはまあ、自覚がなければ分からんでしょう。自分はあの時はまるで違う場所に居ましたが、時間が戻ったような感覚はありませんでしたからね」


 俺以外で唯一の男――じゃねーよ。はともかく、月光げっこうもそうだし宮本みやもとたちも頷いている。

 まあ実際、俺の予想が正しければ彼らの時間に変化はない。ただ俺や奴から見て、彼らは過去の人間というだけだ。本来の彼らは、奴を倒してから今後の事を考えているはずだ。

 俺もそっちが良かったが、多分本来の時間にも俺はいる。貧乏くじだなー。


「でも時を戻す敵をどうやって倒すのでしょうか?」


「フランソワの質問はもっともだ。俺もそれを知りたいところだが、多少のヒントはあったように思う。ただそれを言葉にするのは難しいな」


「フランソワ? わたしですか?」


 しまった! 俺の中にある彼女の思い出は、あの迷宮ダンジョンでの戦闘や噂のみだ。

 ついつい本名ではなく知っている方の名前で呼んでしまった。

 周りもそれぞれ複雑な目でこちらを見ている。何と誤魔化せば良いんだ!?

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