【 留守中の出来事 】

第369話 やっと戻って来られた

 なんかある程度スキルを使う度にアナウンスが流れる……のだが、次第にその頻度が減ってきた。

 普通なら不安に感じるところだが、あまりそんな予感はしない。

 どちらかといえば、やはりこのアナウンスが付いたのは最近だ。

 そして当然のように、不興だったのだろう。今は修正の真っ最中って所か。





 ※     ★     ※





 こうして、予定通り半年ほどでラーセットに帰還した。

 先ずは3長官への挨拶回りをしたのだが、軍務長官のエデナット・アイ・カイは相変わらずだった……でもないな。

 初めての会合ではいきなり口論となったが――いやあれは説教か。

 とにかく最初の出会いはあまりよくなく、病的な感じもちょっと心証が悪かった。

 だけど今は、どことなく角が取れた感じがする。

 あれからどこの国とも軍事面での衝突は起きておらず、迷宮ダンジョン関連も召喚者のおかげで順風満帆。

 仕事にも慣れてきて、当初の緊張が和らいだって事なのだろうか。


 神殿庁の大神官はクナーユ・ニー・アディンが引き継いでいる。

 彼女ももう24歳。俺が知る限り、この世界ではもう結婚していてもおかしくない頃合いだ。

 だけどまだ独身。付き合っている相手もいないそうだ。

 なんでも、この召喚という作業を学ぶのが面白くってたまらないらしい。

 ただ残念な事に、今のところ彼女の願いは叶えられていないんだよね。

 何せ新規の召喚者がいないんだよ。


 あれから4年経ったが、ここまでに死亡した召喚者はたったの4人。

 いや、たったのという表現は適切ではないか。俺も毒されてきたものだ。

 出発した時点で47人だったので、今の段階では43人も残っている計算になる。

 これは凄い事だ。もしかしたら、俺がいない方が上手く回るんじゃないかとまで思ってしまう。

 ただ帰還を望む者が何人かいるそうなので、そちらの方は急ぎ対処しなくちゃだな。


 こうして軍務庁、聖堂庁は順調だったが、内務庁ではいつとの事件があった。


「ゼルゼナが亡くなった? なぜ?」


 ゼルゼナは、俺が召喚されてきた時に内務庁長官をしていたケール・ライ・ライスの後を継いだ女性だ。

 勤勉にして潔癖。まさに公僕とはかくあるべきという人物だった。

 その一方でプライベートは大切にし、家族とよく公園で遊んでいたものだ。


「入浴時に亡くなっていたそうです。詳しい事は家族でも分からないと聞いております」


 そう答えたのは、ゼルゼナ・アント・ラグの跡を継いで内務庁長官になったコーサ・シーズベン・テトだ。

 彼の顔は良く知っている。

 というより、戦時中ならともかく今は平時だ。後任は常に決まっているのだから当たり前か。


 ごく普通の眼鏡に、ラーセットでは基本となる腹巻の背中から2本の帯が付いたようなシャツ。

 あ、因みにこれは肩から回して前で止めるんだけどね。意外と着やすいので、俺もたまに部屋着で使う。

 更に余談を追加すると、女性が着るとかなりエロイ。いやそんな事はどうでも良いか。

 下は俺たちの世界とほぼ変わらないズボン。

 まあ一言で言えば、この国では何処にでもいる普通の人だ。青い髪とグレーの瞳なんかも含めてね。

 齢は44歳になっている頃か。

 あの戦乱の時は比較的若くして代替わりをしたが、実際はこんな物だろう。


 それにしても、療養が必要な病気とかでなかったのは幸いだ。

 俺は病気なら外せるからな。

 必要だったとはいえ、長期不在の間に知り合い――しかもこの大事な時期に国家の重鎮を病死させたのでは色々と寝覚めが悪い。

 ただそう考えると、大事じゃない時期って無いよね。なんだか常に働きづめのような気がする。

 俺も含めて、召喚者も、ラーセット人も全員ね。

 黒竜に言われたことが、ちょっとチクリと心に刺さるなー。自由って何だろう。


 だけど、人間はやはり迷宮ダンジョンから出たのではないだろうか?

 世の中には、好奇心を刺激する者が限りなくあるのだから。それこそ、一生をかけても追いきれない程にね。





 そして最後に召喚庁へと帰還した。

 本当は最初に来たかったのだが、ここに来たら最後、しばらく出られそうにないからな。


 そんな訳で、事務所でケーシュとロフレに帰還の報告をしてから急いで執務室に向かう。

 既に連絡を受けていたのか風見絵里奈かざみえりなほか何人かの召喚者が待機していた。

 あえて教官組と言わなかったのは、そうじゃない者もいたからだ。

 入ると同時に、それぞれの仕草で挨拶をする。

 とはいえ風見かざみが「おかえり」と手をひらひらさせただけで、他のメンバーは「お帰りなさいませ」とか「お勤めご苦労様です」とか口々に言いながら頭を下げた。

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