第368話 余韻が全部吹き飛んだ
黒竜は、退屈そうに俺の無意味な質問に丁寧に応えてくれた。
「人間のように、異物が
まあそうなんだよね。殆どの時間、生き物は生きるためにその時間を使っている。
人間はそれでも科学の力でその負担を軽くしたが、実際に自由に行動している時間ってどのくらいだろう。
野生動物なんかは、生きている時間イコール生きるための時間だ。そういったしがらみから完全に開放されたこいつらから見れば、俺たちの言う自由なんて物凄く不自由に見えているんだろう。
なら、奴はどうなんだ? 考えても分かりなどしないが、それでも考えてしまう。
戻りたかったが戻れなかったのか、それとも戻りたくなかったのか。
知恵も思考もある事は間違いない。たとえどっちを選んで今の状態になっていたとしても、奴の本質は生き延びる事だ。それこそ過去に戻ってまでもね。
そうまでして生き延びたい奴が、異物となって何がしたいのか……少し興味はあるな。
いや、もしかしたら戻ったのかもしれない。
だけど奴の戻り方は、過去への上書きだ。実際に起きた事はそのまま残る。
とすると、今やっているのは奴にとっては捨てた可能性の一つか? それを相手にここまで悪戦苦闘させられているのか?
考えれば考えるほど腹が立つ。今更だが、こうなったら何があっても絶対に倒す。例え命乞いをしても、絶対に赦さん。
「もうそろそろ良かろう。お前を倒したいという欲求を押さえられなくなってきた」
「お前も随分と不自由じゃないか。自由って言うのは、こんな時も自分の意志でどうするかを選べるって事だぞ」
「言ってくれるものだ」
その言葉は、何処か楽しそうだった。
そして吹き付けられる灼熱の炎。だが俺にはそんなものは効かない。
炎を外し、俺柄の目の前で拡散させる。
見た目は派手だし当たったら死ぬが、所詮はただの炎を吹き付けられているだけに過ぎないのだから。
《スキルを使用しましたが、影響は軽微です。ただ使用頻度が想定を超えています。暫く使用を控える事をお勧めいたします》
……いや待て。今の何?
えっとね、聞いた事はあるんだ。内容じゃなくて声がね。
そうだよ、初めて聞いたのは《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》ってメッセージだ。
それにあの時も抑揚が無くて何処か機械音的な感じがしたが、これってよくよく聞いてみれば
一体いつからこうなっていたんだ?
たった今か?
それとも、これまで使ってきたスキルはアナウンスには値しない程度だったのか?
というか、悩むのは後。今はこっちが先だ。気を散らすのは失礼というものだからな。
炎が有効ではない事などこいつは知っている。それを目くらましにした尾の一撃。
だが目標は俺ではない。地面を抉っての
だけど、これも外す。悪いがこういった攻撃は俺には効かないんだ。
そして改めて至近距離から拭きつけられる炎。そしてそれを目隠しにして、左右から迫って来る二本の手から生えた鋭い爪。
様々なフェイントを仕掛けた上での本命の一撃。普通なら厳しいな。多くの召喚者は、これで命を落としてしまうだろう。
だけどやっぱり、こいつも不自由だ。
「そんなもの利かんよ」
左右から迫りくる爪に触れる寸前、その両腕を根元から外す。
まるで弾かれたように千切れた腕が吹き飛んでいくが、怯まずその強力な
あれでも止まらない、間髪入れない連続攻撃。だけど俺には意味がない。こいつに僅かでも苦戦するようでは、あいつの足元にも及ばないのだから。
太く鋭い牙が触れる前に、黒竜の体をバラバラに外した。
戦うようなそぶりをしたのは、戦いたかったこいつへの礼儀だ。
「また会おう。今度はもう少し近い所に現れてくれよ」
とはいえ、こいつが選んでいるわけじゃないんだろうけどな。
《スキルを連続して使用できる時間は、残りおよそ157時間です》
その余韻をぶち壊すこのアナウンス。とにかく帰って聞くとしよう。
ここまでは探しながらだったので4年もかかってしまったが、ここからただラーセットに帰るだけなら半年もあれば十分だ。
それでも遠いが、十分に許容範囲だろう。
女性が一緒なら2ヵ月程度で戻れそうなんだけどな……。
《
当時はもっと単純で、最低限のアナウンスしか無かったはずだぞ。
というか、俺が地上を離れている間に何があったんだ?
少なくとも、こんな事をしているのなら平和ではあるのだろうが、とにかくこれはうるさすぎる。
ちょっと派手にスキルを使う事になるが、さっさとやめさせよう。
《女性との思い出を糧にしてスキルを無理に使用する事はお勧めできません》
本当にうるせえ!
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