第367話 あいつもちゃんと食事をしていたのか

 世界を滅ぼせると言われる3体の伝説級の怪物モンスター

 もしこの世界で何百何千年と過ごすなら是非知っておきたい。

 だけどこいつは気まぐれで、しかも実際に俺を殺したくてウズウズしている。余計な脱線をしている暇は無いな。


「青白くって増える奴だよ。ほら、球体で眷属からでも増えるってやつ」


「あれか。だが異物となったものが、何を食べるかどうかなどは知らぬ」


 あー、それはそうか。迷宮ここで食事をしないやつが、外に出てどんな生態になったのかなんて興味があるわけがないか。

 付き合いがあるようにも見えないしな。完全な失敗か。


「だが――、」


「ん?」


「生き物が死んだ時に放出される力を貯めて攻撃などに応用する習性があった。もしそれがそのまま残っているのであれば、生き物――それも可能な限り大きく活発な生物の死ぬ時に放出する何かを食べているのだろう」


「それは魂とかか?」


「そんなものは知らん。ただ増えた同類はそれを眷族へと移し、眷族は本体へと移す。その過程で少しずつ、同類も成長するわけだ。お前たちと同じだな」


「いやだいぶ違うんだけどな」


 何となく蟻や蜂を考えたがあれとも少し違うか。

 同類ってのは対して強くないがやたら数が多い、寄生された奴。

 眷属はそれが更に成長し、自らも同類を増やす事が出来るまでに成長したやつ。戦った限りでは、かなり強かったな。

 そして本体は言うまでもない。なるほど……本体は動かずとも、周りが収集していたわけか。


 まあこいつは魂とか考えた事はなさそうだ。

 それに魂というか、生命エネルギーみたいなものか。

 無いとは言わない。実際に、俺が人間や怪物モンスターと戦った時に外しているのはそれだ。それを失うと、肉体はいつが切れた人形のように動かなくなる。

 殺すことで、それを食って力にしているって訳なのだろうか。

 もしそうだとすると、奴の地球での増え方にも少し納得する。


 この世界は自然が多い。都市は大きく人口の密集具合で考えれば地球よりも高いだろう。

 だけど惑星全体で考えれば、人口密度はまるで違う。

 それにこの世界は家畜がいないと聞いている。外には同じ様に異物となった怪物モンスターがいるが、やはり家畜の数からすれば遥かに少ない。それに奴が増やした中でまともに戦えるのは、なんだかんだで眷属くらいだ。他は数で賄っているが、何せ遅い。怪物モンスターも抵抗するし、勝てなきゃ逃げてしまうだろう。

 それに何より、人間は動物の中では大型の部類に入る。

 天敵がいない事もそうだが、とにかく餌が豊富だったわけか。


 これで殺すだけ殺して、何も食べない事には仮説が立った。

 そしてそれは、奴を倒す糸口にもなりうる。

 食べなければ死ぬ存在になったのなら、食べさせない事が確実だからな。

 ただ動物によっては、1年くらい食わなくても生きいてるやつがいるからな。あいつはどれだけの絶食に耐えられるんだろう。

 そんな持久戦は嫌だが、都市を襲う理由ははっきりしたな。

 あれはやはり、奴にとっては食事という訳だ。


「ではもういいか?」


「いやまだもうちょい待ってくれ。聞きたい事はまだあるんだ」


「……」


 微妙に納得していない感じだが、とにかくおとなしくなってくれたのでセーフ。

 こいつもある意味猛獣なんだよな。

 というか、ある意味どころじゃなく猛獣だよ。


「奴と戦った時、あいつは時間を戻して逃げたんだ。その事に関して何か知っているか?」


「知らん。それが事実かどうかなど、知りようもない話だ」


 やっぱり同じ迷宮ダンジョンのセーフゾーンを守る存在同士だったとは言っても、所詮個々の存在だったという事か。

 というか全能の迷宮ダンジョン様は教えてくれないのかよ。


「それより、なぜ貴様はそれを知った」


「何か知らないが覚えていたんだよ。ついでに言うと、他は全部過去に戻っていたのに、俺だけは時を戻す前の状態だったんだよね」


「それは少し面白い話だ」


「珍しいな。興味を持ったのか?」


「全く無いな」


 ……このツンデレさんめ。

 だがこれは当人同士にしか分からない話だ。確証も無ければ、それを伝える術も、実体験させる手段もないしな。

 それより、大切な事を聞かないといけないんだった。


「なあ、アンタは人生楽しいか? まあ人生って言うのはおかしいな。その死なないが使命に縛られた生き方がだ」


「楽しいという感覚は分からんな。だが日々満足している。不満を感じたことは無い」


 そうか……確かにそうかもしれないな。こいつはいわば迷宮ダンジョンという存在に守られて生きている。

 死ぬ事もなく、飢える事もなく、ただ母なる迷宮ダンジョンに入ってきた異物を処分するだけの生涯。それに満足しているんだ。

 しかし異物となった時、あいつはどう感じたのだろう。

 戻っていないって事は、楽しんでいるのかねえ。


「こんな質問は意味が無いと思うが、異物となって自由に生きたいと思ったことは無いか?」


「まるでないな」


「そう言うとは思ったよ」


「人間のように、異物が迷宮ダンジョンに戻って来る事は珍しくはない。だがあれを見て羨ましいとは思わぬ。自由といったか。お前の言う自由とは、実に不便なものだ。その生きるという存在を維持するために殆どの時間を費やし、本当にやりたい事をする時間はいったいどれほど残されているのだ? ほんの瞬きするような僅かな一瞬だ」

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