第366話 一応は敵なんだけどね

 床も天井も壁も、全てが剥き出しの岩といった感じ。

 広さは相当だな。障害物があるので奥が見難いか、最長百メートル程の楕円形といった所か。

 岩の色は濃いグレーで触れると崩れそうにも見えるが、実際には鋼よりも固い。

 そんな中、まるで賽の河原の様に積み上げた石の塔が大量に立っている。

 何て言うと可愛いものだが、一つ当たりの石の大きさは数メートル級。高さも一番高そうなのは、およそ30メートルはあるな。


 ここはセーフゾーンではあるが、地上と違って地下では大変動の度に大地震が発生する。

 そしてセーフゾーンの外は、まるで生きている粘土の様に蠢き、混ざり合い、そのにいるすべての生き物を飲み込んで新たな命を作り出すわけだ。

 そんな訳で、この石の塔って、大変動の時に崩れないのか?

 まさか目の前のこいつが積んだわけでもないと思うが……。


 そう、こいつは俺が入った時から睨んでいる。

 今更言うまでも無いな。この迷宮ダンジョンのセーフゾーンに住まう主の一体。

 俺とは色々と縁のある黒竜だ。


 相変わらず感情は読めないが、全身から嫌な感情が伝わってくる。

 さすがにそこまで邪険にしないで欲しい。

 何度も殺しているが、あれは俺の意思というよりお前の意思の結果だし。

 だがいきなり襲ってこなかった辺り、こいつも学習したという事なのだろうか?

 だとしたらちょっと嬉しいな。


「久しぶりだな。しかしいくらなんでも遠すぎだろう。一応酒とか食べ物とか、土産になりそうなのも持って来たんだけどな。ここに来るまでに全部消費してしまったよ」


「……我らはお前たち異物と違い、何かを食べたりなどしない」


「ならどうして襲い掛かって来るんだよ。敵意は無いんだし、見逃してくれてもいいだろうに」


「それは単純にお前が異物だからだ」


 まあ予想はしていたが、こいつらは体内に入った細菌を攻撃する免疫のような存在なのか。


「そいつは悲しいね。だが今回は少し攻撃は待ってくれないか? 聞きたい事が山ほどあるんだ。それが終わったら、いくらでも相手をするよ」


「……まあ良いだろう」


 そう言うと、今にも襲い掛かりそうなポーズを止めてごろりと丸くなってしまった。本当にやる気はないらしい。

 まあどうせ最後は戦う事になるんだろうけど。


「一応整理はしてきたつもりだったんだけど、聞きたい事が山ほどあり過ぎてな。取り敢えずアンタはさっき食事をしないと言ったが、異物となった怪物モンスターたちは外で食事をしているぞ。それに確か人間も、そちらの言う異物なんだよな。迷宮ダンジョン存在の時は飲食は不要な様だが、異物になっても不要なやつはいるのか?」


「それはあり得ぬな。我らは生きる糧をこの迷宮ダンジョンを流れる力から得ている」


 それは大変動を起こすエネルギーみたいなものか。

 確かそれがあるせいで、火薬とかが使えないんだよな。


「だが異物となったらそれは得られない。しかも食べなければ、死という虚無が訪れる。だから異物となった者は、常に飢餓に苦しみながら何かを襲い続ける存在になるのだ」


 うーん、まるでゾンビの様だ。言い方はアレだが、確かに何も食べない奴らにとって、俺たちはそんな風に見えるのか。確かに食べないと死んでしまうしな。

 しかしそうなると――、


「以前話してくれた、世界を滅ぼせるような強大な怪物モンスターたちも、何かを食べないと生きてはいけないのか?」


「当然だろう。異物とはそういった物だ」


「例外は無いのか」


「無い」


「何故分かる?」


迷宮ダンジョンが我らに教えてくれる。この世の真理の全てをな」


 少しおかしいな。

 ハスマタンを襲った時も、ラーセットを襲った時も、そして地球を襲った時も、奴らは何かを食べている様子は無かった。

 特に地球には無数の監視カメラの映像がある。それに、連中の死骸をどれほど解剖したか数えきれない。


 あいつらは人や動物の形をしているが、内部は完全に塞がっている。内臓は全部癒着し、胃や腸、肺なんかも全部埋まっていた。

 食事もしなければ呼吸もしない。分かっている限り、退治された以外で活動を停止した個体も無い。

 黒竜の情報が間違っているのか?

 だとしたら、これまでとこれからの方針全てがひっくり返ってしまうぞ。


「俺が知る限り、連中が何かを食べていると言った様子は無かった。もし何を食べているかをしているのなら教えて欲しい」


「どれがだ」


 ああ、そう言えばあの時3体の話を聞いたな。

 空を飛んでいる奴と、超巨大スライムと、例の奴だ。

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