第365話 随分と長い旅になってしまった

 俺がここのヌシを倒したのは、単にここをまた見たかったのと、休憩したいというだけの理由だ。

 そんな事で倒されたこいつには申し訳ないが、まあ迷宮ダンジョンの生き物――というか、こいつ本当に生き物なのか?

 いやそんな疑問は置いておいて、こいつらは大変動が起これば復活する。記憶なども全て持ってな。なかなか便利な連中だが、逆に考えると、一体いつからこの世界にいるのやら。


 ただ、それはあくまでこの迷宮ダンジョンで生きている限りの話。

 通常の怪物モンスターは、外への出口が出来てしまうとホイホイ出てしまう。

 そしてこういったセーフゾーンの主もまた、大変動の事故で外に放り出される事があるそうだ。

 こうして一度外に出た迷宮ダンジョンの生き物……なのかは知らんが、そいつらはその時点で異物となる。

 もう母なる迷宮ダンジョンの庇護は受けられず、不死身の存在ではなくなり、迷宮ダンジョン怪物モンスターだろうが外の怪物モンスターだろうが、とにかく襲われる存在になってしまう訳だ。


 ただ、セーフゾーンの位置は迷宮ダンジョンに固定されている。

 そしてあの巨壁や高層ビルがあるように、この世界には――というか惑星には地震というものがないそうだ。

 そう考えると、そんな事故は滅多に無いレアケースなのだろう。

 まあ、以前召喚された迷惑な召喚者の様に、セーフゾーンの主を捕まえて外に解き放った鬼畜な奴もいたらしいけどな。

 ただあいつはそうじゃない。黒竜の話を信じる限り、事故によるものだ。


 ふと考えると、あいつはどんな気持ちだったのだろう?

 自らや眷族を介して同類を増やす。そして地球にまで来た俺の宿敵だ。今では向こうもこちらをそう認識したようだけどな。

 黒竜の様に言葉を話す知恵があり、自らを脅かすものを排除しようとする明確な意思もあった。

 そしてまた、奴自身は単体の存在だ。外で繁殖した怪物モンスターと違い、長い間……それこそ伝説になる程、この世界に単体で留まっている。

 まあ同類を増やしてはいるが、眷族は本体にはなれない。なれたらさすがに、この世界は地球の様に滅んでいそうだ。


 少し考えが横道に逸れてしまったが、あいつには他にない特殊な能力がある。

 そう、過去の自分に今の自分自身を上書きする能力だ。

 奴はなぜ、異物になった時に戻らなかったのだろう?

 異物である事を楽しんでいるのだろうか?

 そんな感じはなかったが、あいつの考えなど分かりはしない。

 考えられるのは、その理由もまた奴を知るヒントになり得るという事だ。


 今戦っても勝てはしない。例え負けなくとも、何処までも逃げられて終わりだ。

 奴を倒す為にも、今は黒竜を探そう。

 あいつが全部知っているわけじゃないだろうが、やっぱり一番詳しい相手だしな。





 ◎     □     ◎





 そんな訳で本格的に探索を始めたのだが、途中で何度も大変動があった。ラーセットに残してきたみんなは大丈夫だろうか。

 不安はあるが、信じて旅に出たんだ。きっと大丈夫だ。


 そう信じておよそ4年の歳月が経過した。

 正直きつかった。何度も強敵と戦ったし、心休まる暇もあまり無かった。

 一人で何とかなったのは、このスキルを制御するアイテムがあるからだ。

 だけど何というか、無茶苦茶寂しい。これだけで大丈夫だからと、食事の代わりに大量のサプリメントを渡された感覚だ。


 寝ても覚めても思い出されるのはひたちさん、セポナ、咲江さきえちゃん、先輩、ミーネルやシェマン、その他の神殿の子ら。

 そしてケーシュにロフレ、児玉こだま風見かざみたちとの日々。

 目を閉じると、今でも全てのシーンが走馬灯のように頭をよぎる。

 うん、忘れないって便利。

 この思い出も、ここまでソロで旅ができた大きな要因だな。

 みんなに感謝だ。

 だけど思い出だけでは限界がある。そろそろどうにかなってくれと願ってはいるのだけどね。


 しかしここはどこなんだろう?

 磯野いそのの様にマッピングのスキルは無いし、余計なトラブルを避けるために人間は避けて来た。

 とは言っても、ここはもう深さ的に前人未到の地だろう。

 怪物モンスターの生態などは変わらないが、人間は遥か上方に反応がある程度か。


 深さだけでなく、距離も相当に移動した。

 もう惑星の反対位に来てしまったかもしれん。

 どんな国があってどんな文化なのか、興味はあるがやっぱり他国の人間との接触は絶対にダメ。

 ここは我慢しながら黙々と進もう。


 しかしマジで物凄く迷惑なセーフゾーンに住み着いてしまったんだな。

 まさか本気で俺を避けた結果なのだろうか?

 だとしたら寂しいものだ。

 出会ったら殺し合う仲ではあるんだけどな。


 そんな馬鹿な事を考えていたら、ようやく見知った気配を感じる。

 ああ、やっとだ……長かった。

 地上は今頃どうなっているんだろう。

 ラーセットは滅びたりしていないだろうか?

 この長い時間が無駄にならないように、今度は出来る限り慎重に、可能な限り多くの情報を聞き出そう。

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