【 再会への長い旅 】

第363話 懐かしいけどやっぱり何もないんだな

 この後でミーネルとシェマンに彼女クナーユの事を託した後、ケーシュとロフレと久々に1週間ほど落ち着いた時を過ごしてから、いよいよ黒竜探しに出発した。

 なんかのんびりしているように思われそうだが、人は竜を探す為だけにあらず。人として、こういった時間も大切なんだよ。





 ※     ▼     ※





 特に当てもない旅だ。最初はずっと気になっていた研究者の村へと行ってみた。

 当然誰もいるわけもないが、もしかしたら先住民とかいるかもしれないからな。


 ――なんて考えていたけれど、やっぱり誰もいなかったよ。

 ただ草木の生えるうっそうとした森だ。そんな中、切り立った崖に迷宮ダンジョンへの入り口が見える。

 入らなくても分かる。今は奥までは繋がっていない。せいぜい10メートル程の短い迷宮ダンジョンだ。

 確かにこれでは使い物にはならないな。


 迷宮ダンジョンへの出入り口が分かれば、後は体が覚えている。

 皆で住んだ家、ダークネスさんの家、そして樋室紗耶華ひむろさやかさんのゴミ屋敷。

 記憶はついさっきのように鮮明だ。

 だけど今は、ただ木や草が生えた自然が広がっているだけでしかない。なんか寂しさだけを感じるよ。


 ここには沢山の思い出があった。こっちの世界に来てから、あれほどまでに安らげた時間は他にはない。

 研究は煮詰まってしまったが、それでも苦しくはなかった。ただ奈々ななの言葉だけが、毎晩のように俺を責めていたな。

 あれだけはきつかった。その辺りは、実は今も変わらないけどな。まだ鮮明に覚えているよ。忘れる事が出来ないって事は、実に不便なものだな。

 でも色々と現実で経過した時間の思い出が増えた分、その辺りは少し和らいだ気がする。

 代償として、高校1年生だった俺は、もう30手前まで来てしまったわけだけど。


 ――来なければよかったかな。


 そうも思うが来てしまった以上は仕方がない。

 それに、入る場所は一応決めてあったんだ。


 そこまでの距離を外すのは簡単だった。

 あの時はみんながいたから歩いて行ったが、一人だとこうも早いんだなと改めて思う。

 だけど嬉しくもなんともない。あの楽しかった日々を取りもどす事は……まあ無理だよ。

 今のメンバーも好きだし、一緒にいて楽しい。でもやっぱり壁を感じるんだ。おそらくどれほど肌を合わせても、どれほど長い時間を一緒に旅しても崩せない壁。

 クロノスという絶対的な力を、他の人間は本能で感じ取ってしまうのだから。


 それにしても改めて来て分かるが、こんな所一瞬だ。

 しかも高校生の俺だの時計だの、探そうと思えば簡単だよな。

 少なくとも、奴を探すよりも遥かに容易い事だ。

 本当に見つけられなかったのか? まさかな。

 しかもダークネスさんもいたんだ。あの時点ではたもとを分かっていた様子だったが、俺なら見失うような真似はしないね。

 そう考えると、おそらく全てが前クロノスの掌の上だったって事だな。


 そして思う。本当にあれは俺だったのかと。

 まあ間違いないんだけどね。今この時代に俺がクロノスをしている事、あのクロノスから感じた力、空気――それらが本人であると告げている。

 だからこそ、やはり分からない。なぜあの状態の奈々ななを放置した?

 先輩の境遇だって知っていたはずだ。龍平りゅうへいの事だって……。


 そしてどうして、ヨルエナ・スー・アディンを処刑できた。

 今の俺なら絶対に出来ない。だがいつかの――数十年後の俺なら、そんな事が出来るようになってしまうのだろうか。





 ▽     △     ▽





 目的の場所は、あの時と全く変わらない。

 でも鮮明な記憶と照らし合わせると、まだ微妙に新しい感じもするな。本当に些細な差だが。


 ここはかつてユーノスと呼ばれた国。

 ラーセットと同じような小国で、他の国とも離れている。他国に攻められることも吸収される事も無いが、だからと言って悠々自適な自治を保っていた訳でもない。

 資料を確認したが、小国ながらも頑張って迷宮ダンジョンを攻略し、不足する物資は命がけで他国と交易していたらしい。

 そんな国を、あの青白い怪物どもが襲った。そしてこの国を滅ぼしたんだ。

 こことラーセットとの大きな違い。それは召喚者がいたかどうか。

 滅んだか発展したかの違いは、ただその一点だけだ。


 到着してから先ず、俺は廃墟となった都市を散策した。

 予想はしていたが、人っ子一人いない。迷宮ダンジョンのセーフルームよりも生活環境は良さそうなんだけどね。

 でもあそこに住む人は、別に楽園に期待してあんな所に住んでいるわけでは無い。一獲千金を求めているんだ。


 こんなバックアップもない迷宮ダンジョンに潜り、手に入れたお宝を危険な外を旅して他国へと運ぶ。まあ無理な話だ。

 しかもここは壁も壊れ、建物も奥が倒壊している。外から怪物モンスターは入り放題。普通の人間が住むのは無理だろう。


 あの時は坪ヶ崎雅臣つぼがさきまさおみ君の用事があったし、皆もいた。だからじっくり見て回る事は無かったが、改めて見るとかなり破壊されているな。

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