第357話 古強者は大概癖が強い

 第9期生は、ちょうど召喚数が限界に足した時点でこの世界に呼び出されたメンバーだ。

 全員が高校生。それも3年生だけと、ちょっと珍しい。

 その時の人数は11人。その後は帰還したり死亡したりで5人に減ってしまっているが、誰一人として反乱には加わらなかった。

 そして残った5人でチームを組むわけでもなく、各チームや現地人のヘルプに入っては地道な活動をしている。


 その辺り、新庄琢磨しんじょうたくま須恵町碧すえまちみどりの二人を思い出してしまう。

 俺が初めて戦った召喚者。そして初めて殺してしまった人でもある。

 彼らも二人だけで活動していたわけではなく、現地人や他チームのヘルプをしていたと聞いた。

 こういった活動のできる人間は、少数でもどうにかできる腕と、何処に入ってもトラブルを起こさない性格が求められる。

 教官をしてもらうには最適ではあるが、逆を言えば何かに縛られるのが嫌な人間でもあるわけで……。


 そんな訳で何度か説得したが何度も断られた。

 だけど今の教官組にはそれまでと違い、かなり自由を与えた。

 ただ結果として帰還者――という名の犠牲者が多発。

 更に言ってしまうと、今回の一件で更に緊張感が増してしまった。

 彼らとしても、同行者は強く、また選択肢は多い方が有難いわけで……。

 そんな訳で、一時的な措置として承認して貰える運びとなった。但し――、


「俺はこいつと別れる気はないんで、その点はよろしく」


「まあ、クロノス様なら分かってると思うけど―」


 一人目は緑川陽みどりかわよう。口調はヤンキーっぽいが、普通の奴だ。

 長髪を後ろに束ね、前髪も長い。

 身長は182センチと恵まれているが、少し猫背で筋肉も無い。

 特にスポーツをやっていた訳でもないそうで、召喚者でなければ喧嘩はからっきしダメな方だろう。

 見た目は陰キャラだが、実は結構陽気で社交的だ。

 スキルは“形状変化”。物体を固体や液体に変化させるスキルで、今だと鉄を液体にする事も出来る。

 地面も液体にして底無し沼とかも作れちゃう辺り、戦闘にも向いている。相手が飛んでいなければ、俺もよくやるしな。


 そしてもう一人は川本彰浩かわもとあきひろ

 こちらも身長179センチと恵まれた体格に加え、緑川みどりかわと比べると筋肉も凄い。

 それを誇示するかの様に、千鳥ゆうちどりゆうと似た感じの、革紐で編んだ様な隙間だらけの服を着ている。いや服と呼ぶのかは分からんが。

 髪がほぼ金髪に近い程色素の薄い栗色なのは珍しいが、地毛だそうだ。

 ついでに言うと、彫りの深い西洋系の顔立ち。更に付け加えればなかなかの美男子だ。

 ちなみに緑川陽みどりかわようの彼氏でもある。


 あ、緑川みどりかわも男な、一応。

 俺はその辺りは全く気にしないたちなので、彼らも普通に接してくる。

 スキルは“遠距離通話”。よく出土するタイプの通信機よりも遠くまで通話できるが、緊急用の信号機よりは近い。

 但しスキルは成長するからな。今後は更に遠くまで届くようになるのか、それとも別の形に変化するのか……少し楽しみでもある。


「こちらはまあ当面一人で大丈夫です。でもその分、担当する人数は減らしてくださいよ」


 そういった3人目は高橋月光たかはしげっこう。何処かの夜間戦闘機のような名前だが、本名だ。

 まあ俺は名前にはこだわらないので、由来は知らん。

 こいつも身長180センチと良い体格だ。最近の高校生はみんなこんなに体格がいいのかねと言いたくなるが、高校生の俺と同じ時代の人間なのだからそんな訳がないだろう。

 高校では水泳部だったそうで、実力も相当なものだと聞いた。

 肝心のスキルは“穴掘り”。第4期生でリーダをしていた長谷関ながやせきの“採掘”とは違うのかと聞いたが、彼のスキルは一瞬で地面に潜る能力だ。

 要はカモフラージュだな。何となく陸海空を制覇したような気もするが、戦闘では役には立たない。自分だけが生き残る事に特化した能力だ。

 ただ時間さえあれば他人の穴も掘れるからな。確かに彼は少人数での行動に強い。

 実際に、彼と迷宮ダンジョンに潜って命を落とした召喚者はゼロだ。これは立派な実績だと思う。


「ああ、そのつもりだ。というより、チーム分けは君たちで話し合って決めて欲しい」


「はーい」


「まああたしらは良い男担当ね」


 残りの二人は両方とも女性。彼女らも川本かわもとらと同じ様に、当面は二人一組で担当してもらう。

 単独なのは高橋月光たかはしげっこうだけだな。


 ちなみに名前は宮本忍みやもとしのぶ秋月緋和あきづきひわ

 実はこの二人は教官組にするかどうかを最後まで悩んだ。

 いや、決して女性だからではないぞ。最初の頃は性別による能力差はあるが、召喚者として成長したらそんな事はまるで意味を持たないからな。

 まあ新人はそんな事は知らないが、実力を見ればすぐに黙るだろう。

 能力の面では全く申し分ないのだ。


「当然、食っちゃって良いのよね?」


「出来れば年下が良いわね。ふふ、かわいい子の初めてを貰うのはゾクゾクするわ」


 この超肉食系な性格が問題なんだけどね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る