第356話 残ってくれるのなら有難い

 話を聞いていた風見かざみは暫く考え込んでいたが――、


「確かに考えられるけど、確実な事なの?」


「まさか、仮説だよ。それをこれから実証していく事になるのさ。奴を探して追いつめる事でね」


「でも無敵ですよ」


「そうでもない。本当で何度でもやり直せるのなら、あいつは失敗などしない。俺が見た限り、かなり慎重な奴だったしな。可能であれば、磯野いそのに見つかるよりずっと前まで戻すだろう。更に確実性を増すのなら、ラーセット襲った時点まで戻って俺を確実に倒すね。失敗しても様々な形で何度も何度も、それこそ成功するまで繰り返せばいい」


「確かにそうね。時間の戻し方やクロノス様が覚えている理由なんかはまだ確定とは言えないけれど、時間を戻すのには限界があるのは確実か……」


「そういう事だ。そんな訳で、次の召喚が終わったら俺はしばらく旅に出る。この迷宮ダンジョンに詳しい知り合いがいるんだが、どうもかなり遠くまで行ってしまったようでな。探して聞きたい事が山ほどあるわけだよ。特に今回の件に関してね」


「いつか話してくれた黒い竜?」


「あたしは聞いたことないですよ」


「自分もです」


「ベッドの中で聞いたから……」


 そういう事を堂々と言わないでください。

 ほら、二人ともドン引きしているし。ちょっと無頓着すぎますよ。


「それで思い出した。磯野いその


「何でしょう」


「日本に帰す前に、悪いがもう一仕事頼む。奴がいた場所の、正確な位置が知りたい。迷宮ダンジョンもそうだが、地上とも合わせた正確な地図が欲しい」


 あの位置がイェルクリオの首都、ハスマタンの周辺だとしたら、ずっとあそこに潜んでいた事になる。

 違ったらまた考えるが、そうだったら次に襲撃される場所が変わる可能性が大だ。

 今まで以上の警戒が必要になる。


「地図の件、了解です。それと申し訳ないのですが、」


「何か要望があるなら聞くぞ」


「それではお言葉に甘えて言います。地球に帰る件は無しにして下さい」


「良いのか? もう友達二人は帰してしまったぞ」


「いや、別に友達だったわけではありません」


 それはそれで寂しい話だ。まあ性格がまるで違うから、なんとなく分かるけど。


「ただ俺は、ラーセットを襲ったっていう怪物モンスターの事を甘く見ていました。きっとクロノス様達が何とかしてくれるだろうとか、そんなふうに考えていたんです」


 それはきっと、風見かざみ千鳥ちどりも含めて全員そうだと思うけどな。


「だけど甘かった。今考えても震えが止まりません。それ以上に、日本には家族や友人がいるんです。そこにあいつらが現れて、しかも向こうじゃ俺は何にも出来ない。でもこっちの世界に居れば、俺が倒せなくても倒す手伝いは出来るんですよね」


「その代わり、命の危険がある事も分かっているんだろう?」


「それでも、何もしないで殺されるなんてまっぴらだ。俺の力が役に立つなら何でもします。もちろん自分だって死にたくはありません。でもそれ以上に、家族に死んでほしくないんです」


 やっぱりこいつは見た目に反して優しくて仲間想いの奴なんだな。


「そこまで言ってくれるなら、分かった。こちらからも頼もう。


 ただ情緒不安の不安は付いて回るだろう。

 だから、元々の予定も進めないといけない。


千鳥ちどり、お前のチームから2人ほど新教官を選出してくれないか?」


「以前に話を聞いた時から決めてはあるですが、クロノス様が自分で決めなくて良いんですか?」


「俺も全員の性格や能力を正確に把握しているわけでは無いし、千鳥ちどりの方の都合だってあるだろう。実はお前が手綱を握っていないとヤバい奴だったり、チームの重要なキーパーソンを引き抜いた結果、そちらが窮地に立ったりするのはまずいんだよ。それに本人のやる気が何より重要だ。そんな訳で、内情を知っているリーダーが、当人と話し合って決めてくれるのが一番って訳さ」


「まあそういう事なら持尾介司もちおかいじくんと丹羽静雄にわしずおくんにはもう話は通してあるですよ」


 両方男か。ある意味チームの姫である千鳥ちどりの元から離れる事を良く承諾してくれたものだ。


「分かっていると思いますが、あたしたちは全員中学生です。二人とも中学生にしては背は高いですが、やっぱり高校生の人や大学生の人と比べちゃうと子供っぽいですよ」


 辛辣だなー。でもそれは俺も分かっているさ。


「そんな訳で、新人が言う事を聞かないで暴走する危険は常にあると考えてください」


「その時はその時だ。責任は俺にある。それに当分は二人一組でやって貰おうと思う。さすがに中学生一人だと舐められるからな」


「それは助かるです。では残りは――」


「当初の予定通り、9期生から選ぼうと思う」

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