第355話 まだ予測でしかないが
本人は気にしているようだが、誰も彼を責める奴はいない。
それぞれ、大体は俺と同じ結論に達したのだろう。
そうでなくても、この世界の危険さも不条理さも知っている二人だ。今更仲間の死を、一人の行動の結果などに押し付ける考えがあるはずもないか。
「だけど本体を見つけられなかった事は残念ね。もちろん
「クロノス様の引き際が見事すぎて、逆にちょっと気になったです。なぜもっと念入りに探さなかったです? もしかしたら見つけられたかもしれないですよ。あたしが来た時も、驚いている様子が無かったです。実際には何処まで見通していたのですか?」
「ああ、その事なんだがな――というより、これが一番大切な話だ。俺は
「は? 意味が分からないです。そんな覚えはありませんですよ?」
「どう言う事?」
「意味が分からないのですが……」
「そのまんまだよ。ところが残骸をどうしようか相談していた時、俺は奴の本体が潜んでいたセーフゾーンの近くにいた。まだ入る前の状態でな」
「……」
「そして入ってみると、本体は逃走している最中だったよ。だけどもうヤツを完全に認識していたからな、追いかけるのは容易だった。距離もそんなに離れていなかったし。そこで、
「でも倒してはいない?」
「そうだ。今度こそ倒したと思った時、俺は13期生の生存者と出会った状態になっていた。奴の本体を倒す数時間前の状態だな」
「それはまさかと思うですが」
「時間を戻したって事ですかい?」
「召喚やスキルってものがあるのだから不可能とは言えないだろうけど……」
やはり簡単に”はいそうですか凄いですね”とはならない。
たけど、頭ごなしに否定する事もないか。
「それが事実だとして、どうしてクロノス様だけが知っているですか?」
「私もそんな自覚は無いわね」
「自分もです」
「それはスキルの関係かなとも思うが、それ以上に奴がどうやって時間を戻したかが問題だな」
「それは流石に分かりようが無いわね。それよりその話の内容だと、そいつ絶対に倒せないんじゃないの?」
「この世界からすれば、地球に行ってくれたことがラッキーなのかもしれませんね」
俺もその可能性は考えたが、以前には別の可能性も考えている。
「忘れたのか、
「つまりはお手上げって訳です? そうすると、これから例の本体探しはどうするです?」
「今まで以上に慎重さは必要になるが、当然続けるさ。奴を倒さなければ地球が亡びる事に何ら変わりはない。それに、奴の能力については多少見当がついていてね」
「時間の戻し方が分かるです?」
「言葉が悪かったな。それは分からん。だけど奴が時間を戻す有効範囲などに関しては、それなりに推論はあるよ」
「有効範囲……世界全体を戻すって訳ではないという訳ね」
「そりゃそうだろう。この宇宙の中心から端まで、たかだか惑星一つの小さな生き物が戻せたらそれこそ驚きだ」
「どの位の範囲と考えているです?」
「実際に戻っているのは奴だけだよ」
「意味が解りません」
「まだ仮説にすぎないが、奴が戻したのは――というより戻せるのは、奴自身の時間のみだ。つまりは、奴を倒した未来は存在し、その世界の俺たちは今とは別の事をやっているわけだ。奴抜きでね。だけどあいつは死にたくはない。だから死ぬか、死ぬと分かった時点で何らかの形で過去の自分に戻るってわけだよ。まあセーブ地点まで戻るって所か」
「そう思った理由は何なの?」
「俺が覚えているからだな」
「はい、もう少し詳しく。言葉を端折るのは悪い癖よ」
はい、気を付けよう。
「おそらくあいつも意識してはいないだろうが、奴はクロノスという存在をこの世界から抹消すると宣言した。自分の安全を脅かす危険な敵として認識されたわけだ。だから、過去に戻っても奴は俺を忘れるわけにはいかない。というか、幾ら時間を戻しても自身の記憶が過去のままなら意味がない。だから戻ったのは時間全体というより、奴の中身が過去の奴に上書きされたって所だな。一方で、俺は奴を確実に認識して逃さないために、奴以外の不必要な情報は全て外していた。図らずも、俺と奴とは繋がり合う関係になってしまっていた訳だ。そして俺たちの時間は曖昧だ。この世界に来てから何年も経っているようでいて、その実まるで進んでいない。地球の時間が俺たちの本当の時間だ。そんな訳で、まあ俺の時間は軽い。無いに等しいと言っても良いな。それらが噛み合った結果、奴はクロノスを忘れないためにあの場にいた俺まで巻き込んで過去に戻ったって訳さ。だから実際に過去に戻ったのは俺と奴だけで、皆は普通に時間通りに過ごしているわけだよ」
「その根拠はなんなの?」
「時間が戻ったはずなのに、俺の状態が奴と戦った状態だったって事だよ」
さすがに
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