第351話 もう考えるまでもないか

 中には見覚えのある眷族たちが集まっていた。トカゲ型のもいれば、人型や蜘蛛のケンタウロスのような奴。

 どれもついさっき見たやつらばかり。で、1体も減っていなければ増えてもいない。

 だけど奴がいない。本体が何処にも見えないんだ。


「りゅ……平八へいはち、ここに居るのは眷族だけだ。だが――」


 感じる――幻覚なんかじゃない。俺はもうハッキリと、奴を認識している。


「本体は移動中だ! この先へ高速で移動している!」


 何がどうなっているかなど、考えるのは後だ。

 今はとにかく――、


「どけえ!」


 まるで破壊が人型になった様な、龍平りゅうへいの暴れっぷりが心強い。

 眷族などさほどの足止めにもならず、龍平りゅうへいは突き進む。


「俺は先に追うが、付いて来れるか?」


「誰に向かってモノを言っている」


「なら付いて来いよ」


 ごちゃごちゃ考えるのは全部後だ。奴の位置はスキルの消去法で完全に把握した。そこへ飛ぶ。


 飛んだ位置は、本体から10メートルも離れていなかった。俺の消去法探索術もかなり正確になってきたな。

 というか進行方向だ。当然ながら突進してくるが、もう対処法は分かっている。


 自分の体は爆散するが、覚悟さえできていればどうという事は無い。

 ありったけの力を込めて、奴の表面を外してやった。

 球体の3割ほどが破壊され、バランスを崩して壁に激突する。

 そして俺はもう本物の体になっている。再びの攻撃で右腕は吹き飛んだが――弱い。最初に比べれば、こんな物は蚊に刺されたようなものだ。

 更に円盤に付いていたでっぱりを外す。

 一方こちらは既に無傷。限界があるとはいえ、向こうにとっては不死身の怪物だ。


『クロノス。その名を持つ者は必ず根絶やしとする。何処にあろうと、幾つあろうと、その全てを抹消する』


「そうかよ」


 もうそれはさっき聞いた。だがやはり、それ自体が相当な違和感だ。

 だが考えるのは後。それよりも――、


「くたばれ化け物!」


 もう追いついてきた龍平りゅうへいの一撃が炸裂する。

 既に弱っている上に完全な不意打ちだ。まるで風船が割れるように、奴の体は粉々に吹き飛んだ。


「これでやったのか?」


 もう動くものはない。確かに倒した。これで解決だ。

 そう、さっきもそう思った。

 だから改めて確認する。

 自分が持っていた薬は?

 龍平りゅうへいに渡していたんだ。当然持っていないよな。


 俺の状況は?

 精神面やスキルの負担はかなり軽減されている。これも千鳥ゆうちどりゆうの乳を揉んだからだろう。感触もしっかりと残っている。

 しかしどういう事なんだ?

 こいつは確かに倒した。なのに今こうして、改めて倒している。


「油断はするなよ。どんな些細な動きも見逃すな」


 そうだ。さっきは焼いてみたり集めてみたり、色々やってみた。

 千鳥ちどりから小瓶を貰って、奴の欠片を一部回収したりもしたな。

 よくよく考えてみれば、結構目を離してしまっていたか。

 でも視界は全周囲とはいかないからな。こうしている間にも、見えない範囲はある。

 だが可能な限り視線を動かし、僅かな隙も――、


「……えっ? く、クロノス様ですか!? 本人?」


 は?

 天井に張り付いた何かの卵みたいな塊から、14期生の一人、蔵屋敷里香くらやしきりかが顔を覗かせている。

 ああ、この後の事が分かる。

 一瞬だけ笑顔になった彼女は、すぐにわんわんと泣き出してしまった。


「大丈夫、俺がクロノスだ。水も食料も持ってきている。安心してくれ」


 俺の言葉を受け、ワラワラと4人が出てくる。

 当然、重量無視のスキルを持つ溝内信二みぞうちしんじが3人を抱えて降りてくるわけだ。


 出そうになる溜息をぐっと堪える。だけど、この口惜しさは消しきれない。


「ひっ、あ、あお、すみません! すみませんでした!」


「いえ、悪いのは俺なんです」


「違うよ、どうしようもなかったんだ」


 俺の雰囲気を察したのだろう。


「君たちに対して怒ってなどいない、安心してくれ」


「で、でも……」


「ふがいない自分が、どうしようもなく情けなく感じただけだよ」


 相手の能力を疑う余地はない

 元々この世界では、俺たちの時は止まっている。実際には動いているにも関わらずな。

 それにそもそも、世界を越えてここまで来ているんだ。

 そして奴は、何らかの手段で世界を越えた。そんな奴が相手なんだ。時間を操る術があったって驚きはしないさ。


「クロノス様は不甲斐なくなんてありません!」


「そうです! 俺たちを助けてくれました」


「それは当然の事をしたまでだ。気にするな」


 さて、ここからやる事はまあ以前と同じだ。近くにあるセーフゾーンまで、一直線に壁を破壊する。


「この先にセーフゾーンがある。そこで待っていてくれ。すぐに援軍が来る」


 千鳥ちどりたちがこの周辺を探索中だし、まあ見つけるだろう。

 見つからなかったら、それはそれで俺が教えればいいだけの話だしな。

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