第345話 全てが終わったら土産を持って挨拶に行こう

 こうして倒しながら先へと行く。

 奴らの群れを探して奥に行けば行くほど敵は増える。もう鍾乳洞の中はギチギチだ。

 地面だけではなく、天井にも3メートル級のヤモリが張り付いている。

 もう殆ど皮膚なないけどな。


 だが所詮は雑魚。スキルで命を外してやれば、面白いように落ちてくる。

 だけどやはりたまに効かない奴が混ざる。


「先生、お願いします」


「誰が先生だ」


 同じようなヤモリ型だが、大きさは8メートルクラス。

 しかも全ての皮膚は失われ、もう青白いゲル状の質感になっている。

 当然、目はただの膨らみだし、手足の指も張り付いている。口はかろうじて開くようだが、喉から先が埋まっている。もう完全に生物ではないな。


 その見た目も不気味だが、力も相当なものだ。

 おそらく戦闘系の、それも熟練の召喚者でなければ相手にはなるまい。

 だが龍平りゅうへいは気にもしない。

 襲ってきた奴の顎を蹴り上げると、その巨体が重力を失ったかのように直立する。

 その無防備となった腹に、高々と跳躍した龍平りゅうへいの右ストレートが炸裂する。

 ただそれだけで、その巨体は内側から破裂する様に四散した。


「相変わらずとんでもないな」


「だがこいつも本体じゃないんだろう? 先を急ぐぞ」


「そうだな」


 かすかにだが、龍平りゅうへいに焦りの色を感じる。俺も何度も経験がある。スキルの負担がチリチリと脳を焼く。あの不快感だ。

 どうするか――確かに頼もしい。それにこれは最高の好機。だが失敗したら?

 機会は必ずや再び訪れる。しかしその時に、龍平りゅうへいがいるといないとでは大違いだ。

 最悪の場合は、やはり諦めて引き返す。今から説得する方法を考えないとな。


 自分としては、その考えは決して状況を甘く見て出した答えではない。

 むしろ今出来る最大限を考え抜いた結果だ。

 だが、そんな俺の全身を、死という恐怖が暴風のように吹き抜ける。

 思わず足が止まってしまった。龍平りゅうへいも同じだ。

 どうやら、大事な眷族を次々と倒されてご立腹の様だな。


「この先にいるようだな」


「そうだな。今の感覚はそうなんだろう。もしあれが眷族とかいう奴の強い個体というだけなのだとしたら、本体はどれ程だって思うぞ」


「引き返すか?」


「そんな選択は俺には無い!」


 そう言うと同時に龍平りゅうへいは駆け出していた。実に頼もしい。

 俺もすぐに追わないとな。そんな訳で、動けよ俺の足。恐怖は外す。だがまだすくむ。それ程かよ。

 だけど、俺には龍平りゅうへいを見殺しにするなんて言う選択肢はない。


「うおおおおおおお!」


 叫び、気合を入れる。カラ元気でも今は足が動けばいいさ。

 俺もまた、全速で龍平りゅうへいを追った。





 しかし肉体強化された龍平りゅうへいは早い。少しはこっちの事も考えて欲しい。

 ある程度の直線なら距離を外す事で追いつけるが、こう入り組んでいるとな。

 だがまあ、通った道は分かる。大量の死体が散らばっているんでね。

 俺もぼんやりとはしていられない。この先にいる事は間違いないんだ。

 スキルを使い、先にいる怪物モンスターたちを一掃する。


 ……のだが、何体か――なんてレベルじゃない数が残った事を実感する。

 そりゃそうか。知恵があり、こうやって隠れるほど用心深い。そして俺の予想が正しければ、こいつはいずれ召喚の技を身に着け、更には新天地を求めて地球に進出する。

 多分相当に頭が良いんだろうな。

 人間が他の動物に無い優位性は知恵だというが、果たしてそれを上回る相手に勝てるのだろうか……。


 そんな俺の横を、ものすごい勢いで龍平りゅうへいが飛んでいった。

 いやちょい待ち!

 驚いて振り返るより早く、土壁に激突する音が響く。


「随分と早いお帰りだな」


「うるせえ」


 幸い距離はあまり無い。それに相当深くめり込んでいるが、自力で出られそうだ」


「確認するが、本体ってのは球体か?」


 その言葉で、限界と思われていた緊張感がさらに高まった事を実感する。


「ああ、俺が聞いた話が確かなら、そいつこそが本体で間違いない」


「その情報はどこまで当てになるんだ?」


「俺の知る限り、この迷宮ダンジョンに最も詳しい奴からの情報だ。間違いないだろう」


「嘘の可能性は?」


「無いな。何といっても――」


 あいつに嘘をつく理由が何も無いからな。そう言おうとしたが、


「あいつは親友だからな」


 なぜか俺の口から出た言葉は、そんなセリフだった。

 同時に、迷惑だろうなとも思ってしまったけどな。

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