第343話 逃げるという選択肢は無しか
来た時と同じように、何度も移動を繰り返す。
だけど来た時と違い、明確に目標がある。
この方向に居るか――反応なし
この方向に居るか――反応なし
この方向に居るか――反応なし
この繰り返しだが、対象は
だが出来れば一人でも多くの召喚者に生きていて欲しい。
この方向に居るか――声で有りながら声ではないノイズが反応する。
昔の通りなら、《対象を確認、ハズレます》だな。
まあ外しなどしないが。
その場に飛ぶと、鍾乳洞にぎっしと詰まった奴等がいた。
移動などはしていない。待機中って所か。
だとしたら朗報だ。常に移動などされていたら、それこそどうしようもなかった。
だけどこうして留まる性質があるのなら、探索も容易になる。
奴等が反応する前に、周辺の敵を一掃する。
だがちょっと残念な事に、本当に出来てしまった。この中に本体がいる事など考えられないだろう。
だけどそれ以外に、反応があった。またスキルが弾かれる感覚。召喚者だ。
一気にその位置まで飛ぼう。
飛んだ所には、一人の男が立っていた。
かなり激しい戦いだったのだろう。上半身はボロボロで裸。下半身も、ズボンはボロボロだ。
なのに身体には傷一つ付いていない――ではないな。消えない古傷が、両肩から脇へと走っている。
あの傷を見るたびに、付けた時の戦いが鮮明に頭に浮かんでくる。
「りゅ……」
いや、何と呼べばいいんだ?
記憶は戻っているのか?
違うだろ、そうじゃない。今は無事に生きている事を喜ぶべきだろう。
「無事か?」
「クロノス様か。これをやったのは貴方か。さすがに頂点と言われるだけの事はありますね」
なんか微妙に意味が変な方に伝わってないか?
ただ単に責任者ってだけだが、まあその話はいいや。
「他の連中は?
「一通り倒した後も探していますが、まだ合流できません」
簡単に言うが――、
「スキルの方は大丈夫なのか? 制御アイテムは?」
「制御アイテムは壊れました。でも言われたような変調などは実感できません。ただ――」
「ただ?」
「奴等を倒せと俺の中の俺が言うんです。こいつらを一掃しろと。必ず世界から根絶やしにしろと。それがどんどん大きくなって来て、少し不快ですね」
それが変調というのです。
というかヤバいな。こいつをまず地上に戻さないと、壊れてしまう可能性がある。
それにしても――、
「もうどのくらい制御アイテムが無いんだ?」
「戦闘を始めてすぐに壊れてしまいましたよ。ちょっと脆すぎますね」
まあ待て。制御アイテムを失ってから、そんなに長くもつものなのか!?
こいつの精神を安定させる手段は何なのだろう?
それ以前に――そうだ、あの時の
俺達が最初に召喚されて来た時、俺だけが制御アイテムを与えられなかった。
当然だな、
じゃあ
ダークネスさんは、制御アイテム無しでずっと過ごしていたのか?
色々とまだ謎が深いな。
とはいってもやっぱりここで
色々と天秤にかけなくちゃいけない。
スキルを限界まで使って、とにかくここから離れる。ついでに置いてきた4人は回収できるが、
生きている可能性は極端に少ないとはいえ、それでも
そしてそれ以上に、ここで奴の本体を逃してしまうであろうことだ。
分身とも言える眷族が倒され、近くに俺が来た事も分かっているだろう。
知恵のある奴が、このままここに留まるとは思わない。
折角の機会を失ってしまう訳だ。
だが、
というか今は
うん、考えるまでも無いな。今更の事だ。
「
「撤退? 馬鹿な事を言うな。まだ
敬語も怪しくなってきて地が出始めているな。
そこまでの余裕がないのか……それとも。
「4人は助けて避難させた。
「ならダメだ。生きている可能性がある限り逃げるわけにはいかない」
「お前のためだ。制御アイテムが無いんだろう? 今は平常心を保っているつもりでも、実際にはそうじゃない。いつ暴走するか分からない状態だ」
「たとえそうなったとしても、俺は逃げない。何より、奴らの本体を倒さなければいけないんだ」
本体? いや、誰かが話しただろうし知っていてもおかしくはない。さっき助けた連中も、
だけど記憶が戻ったようには思えない。
「なぜ奴らの本体にそこまでこだわる。何か思い出した記憶でもあるのか?」
「それは分からない。だけど心が訴えているんだ。必ず倒せと。昔を思い出した訳じゃない。だけど、俺の今の感情を言うのなら……そうだな、後悔だ。やるべき事をしなかったという未練。そんな感情が俺の中に眠っている」
それは
これは仕方が無いな。
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