第342話 龍平は大丈夫なんだろうか

 小動物の様な蔵屋敷里香くらやしきりかの話は続いていた。


「だけど加部佐かべささんや田路とうじさんは何の事か分からないって感じでそこに留まっていたんです。そこに青白い変な怪物モンスターの集団が現れて。それが強くって、どうしようもなくって、でも教官や平八へいはちさんが道を切り開いてくれて、とにかく逃げたんです」


「現れたっていうより、濁流みたいでした。あまりにも多くて、もうパニックになっちゃって」


「それで逃げたのか?」


「ええ。とにかく教官が『こっちだ』って言って、みんなついて行きました」


 妙だな。そこから逃げるならむしろ近くに……いや、それは違うか。

 近くに行けば行くほど、地下の町は増え普通の人間と出会う率も高くなる。

 そこで被害を考えてそう判断したのだろう。ラーセットから遠ざけるという事に。

 確かに俺にとってはたいした相手ではないが、普通の召喚者からすれば案外強いからな。

 迷宮産の武器を豊富に持っていたイェルクリオでもまるで歯が立たないくらいには。

 どうせ戻らなければ俺が確認する事は確実だ。後は任せたって事か? 無責任すぎるぞ。


「それでどうしたんだ?」


「途中でどうしようもなくて、もうダメだと思ったんです。だけど狭い道で平八へいはちさんが残って」


 あの野郎……恰好付けやがって。


「何か言っていたか?」


「『俺は奴等を倒さなくちゃいけない。何故かは分からないけど、そんな気がするんだ』って。だけど数日したらやっぱり追ってきて、仕方ないから教官と、戦闘には自信があるって言って半田はんだ君と新山にいやまさんが残りました。

 私たちは逃げたんですが、もうどんどん周りが減って行って、最期は仕方なく……」


 ああやって天井に張り付いて耐えていたわけか。

 結果論だが、村越栄一むらこしえいいち志垣陽水しがきようすい磯野いそのと一緒に残ってやっていればな。

 後悔しても仕方がないが、悔やまれる。

 それにしてもだ――、


「途中でセーフゾーンには逃げ込めなかったのか?」


「この辺りは対策できるような仕掛けもなくって、それにセーフゾーンと言っても怪物モンスターは平気で入ってきますから」


 まあそりゃそうだ。見えないバリヤーが張ってあるわけじゃない。

 俺が初めて人間が利用しているセーフゾーンに入った時も、町とかではないにも関わらずちゃんと怪物モンスター対策がしてあった。

 まあ俺から見ればザルだったし、あの程度じゃ連中は防げないだろうが。


「あの、私たちは帰れるんでしょうか?」


 実はそれが一番の問題なんだよね。

 俺のスキルは場所と場所との距離を外せるが、実際に移動できるのは俺だけだ。

 テレポートや入れ替え系と違って、誰れかを連れていく事は出来ない。

 現地人のセポナですらダメだったのだから、召喚者など絶対に無理だ。


「すぐに返してやりたいが、残った連中を置いてはいけない」


「でも、どう考えたってもう――」


「例えそうであってもだ。君たちだって、あのまま誰も来なかったらどうするつもりだったんだ? 正直に言えば、俺はもう絶望だと思った。君たちが生きていてくれて本当に嬉しいと思う。同時に、それ程に召喚者ってのはしぶといものなんだよ。だから今は近場のセーフゾーンで待機していてくれ。水と食料は全部渡すから、待っていてくれればいい」


「でもこの近くのセーフゾーンの位置なんて」


 そりゃそうか。磯野いそのがいなければ地形は分からん。俺も知らんしな。

 だけど方角は分かる。ここからなら、直進なら1時間程度の距離にあるな。迂回したらどのくらいかかるか予測もつかないが。

 そんな訳で、そこまで一直線に壁を外す。

 突然できたトンネルに呆然とする4人だが、説明しても仕方があるまい。


「この先にセーフゾーンがある。全部終わったら戻ってくるから、そこで待っていてくれ」


「で、でも……いえ……はい…………」


「安心しろ。俺の力は見ての通りだ。あの怪物モンスター程度など造作もない。それに俺一人なら移動も楽でな。そうはかからないから、安心して待っていてくれ」


 そうは言うものの、ここから龍平りゅうへい達を探すのは大変だ。

 それに申し訳ないが、もし奴等の本体がいるのならそちらを優先する。

 これは千載一遇のチャンス。まさに砂漠の中に落ちた針に出会えた様なものだ。

 この機会を逃すわけにはいかない。


 全周囲に気配を飛ばす。

 だけどダメだな。近場には何もない。

 やはり、この子らの話から考えるとかなり離れている。

 少なくとも、3ヵ月は戦いながら移動したんだろうからな。

 仕方がない、移動しよう。

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