第341話 生きてさえいれば何とかなるよ
ここに来るまでに相当にスキルを使ってしまった。
普通なら何か月もかかる距離だ。しかもセーフゾーンからセーフゾーンへと飛んだわけなので、それだけ負担も大きい。
だけどそんな状況だからと容赦してくれるわけがない。
それ以前に、黒竜が言うには知恵があるのだったな。弱っていると知られたら、かえって付け込まれるか。
ならば――、
今は鍾乳洞のような形状の
その分、中途半端はダメだ。一点集中、1キロメートルは一掃だ。
音もなく、他は何も破壊せず、ただ奴らの命だけが外れて消える。
実際には幾つもの枝分かれした道全部の合計だから、直線で1キロメートルって事は無いけどね。
ただスキルに別の反応があった。違和感ともいえるこの反応。奴等ではない。そして油が水を弾く様に、スキルが弾かれた感覚――召喚者だ!
急いで向かう。この状況で、まだ生き残りがいるのか? いてくれるのか?
それは鍾乳洞の天井に張り付いていた。
見た目はまるで、繭――というよりもカマキリの卵というか、モリアオガエルの卵というか、まあそんな感じで張り付いていた。大きさは太めの寝袋程度。人間が数人包める位か。
あれがスキルを防いだって事は、あれ自体がスキルの塊か。ならば。
「大丈夫か? 俺だ! クロノスだ! 生きているなら返事をしろ!」
「……えっ? く、クロノス様ですか!? 本人?」
膜を破る様に顔だけ出してきたのは、第14期生の一人、
詳しく見せてもらったことは無いが、こんな感じのスキルだったのか。
というか相変わらず中途半端な認識疎外で幽霊のような姿だが、この姿ですら会ったことは無かったな。
だけど話くらいは聞いていたのだろう。こちらを見ると一瞬だけ笑顔になり、すぐさまわんわんと泣き出してしまった。
気持ちはわからないでもないが、今は状況が聞きたい。
冷たい奴だと言われそうだが、今は人命が掛かっているんだ。
「他に生き残りは――」
そう言いそうになる前に、他にも膜を破ってワラワラと出てきた。
本当に卵の様だ。正確には卵を保護する膜だがそんな事はどうでもいい。
見た目はそれほど大きそうに見えなかったが、よくあんなに入っていたものだ。
スキルの力というより、ぎちぎちに詰まっていたんだな。解放された感じがよく分かる。
中に入っていたのは最初に出てきた
よくもあんなに狭い中に4人も詰まっていたものだ。
なんて感心している間に、重量無視のスキルを持つ
「よく無事で――」
「な、何か食べ物を」
「すみません、水を……」
「あ、ああそうだったな。すまん」
考えてみればいつからあそこにいたんだろう。
それに状況も気になる。何であんなところに張り付いていたんだ?
その答えは分かるが、それはあまりにも辛い現実だ。
俺はしばらく待ってから、彼らかから事情を聞くことにした。
そして10分ほど経ってからだろうか。
「とにかく状況を報告します」
そう
彼ら14期生は、
「さっきなのか少し前なのか、そろそろ引き返すと
まだこっちに来ての時間間隔を掴めていないな。
だけどそう言ったって事は往復を考えれば1ヵ月程度。だけどここはもう1月で帰れる距離じゃないぞ。
「それで戦利品を分担して持って、みんなで帰ろうって話になったんです。思ったよりも
さすがだな、
実に惜しい人間を亡くした……ってまだい亡くなってねーよ。
というか、これが終わったらちゃんと日本に帰す約束なんだ。反故にされてはたまらん。
「そんな時なんです。いきなり
「謝るのは良い。それで何があったんだ?」
「とにかく体が動いたんです。大声で叫ばれて、考えるより早く」
そう話を続けたのは、最初に卵みたいなのを作っていた
大学生だが、背は低く、目を完全に隠したおかっぱ頭。身体全体も薄い。何処かおどおどとした小動物感がある子だな。
多分そんな性格が幸いして、考えるより先に反応できたんだろう。
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