第340話 こんな所で出会えるとはね

 ちょっと寂しいが一人で進む。

 今の迷宮ダンジョンは鍾乳洞のような形状だ。初めてこの世界の迷宮ダンジョンに放り出された時に近いな。

 あの時の事は未だに悪夢にうなされる事がある。軽くトラウマだな。

 だけど比較的危険は少ない地形だ。それに大変動も無い。というかあったら分かるよ、さすがに。


 召喚者の新人教育は、無計画に動くわけでは無い。

 どのセーフゾーンを通るかは事前の計画書で分かる。特に地形把握のスキルを持っている磯野いそのの計画は完璧だ。今では初めての場所でもセーフゾーンの繋がりまで把握できるそうだしな。

 そんな訳で、あいつのチームが4か月も戻らないとか有り得ないんだ。


 だが何があったかを考えるのは後だ。

 今はとにかく、計画書を見ながらセーフゾーンからセーフゾーンへと飛ぶ。

 無人の所もあれば人が住んでいる所もある。

 どちらにせよ、状況の確認と聞き込みをしながら進むしかない。

 だが1日で進める距離を見た限りでは何も見つからなかった。

 本来なら移動時間が長い。だからセーフゾーンのみを飛んでいる俺の速さは相当だ。

 だけどスキルの限界はどうしてもやって来る。こんな時、制御アイテムがあるのは便利だな。


「今日はここまでか」


 最後に入ったセーフゾーンは、円形のちょっとした盆地だ。ちょっとしたと言っても、普通の体育館程には広い。

 無人だが、俺的にはその方が有難い。ただやっぱり、スキルの負荷を少し感じる。娼館があるところで休むべきだったか?

 しかしここから地上までは1月半はかかる。さすがにここまで遠くなると、そういった所は少ない。

 まあ一応通ったけどね。なんの成果も無かったが。


「はあ……明日も頑張ろう」


 既に予定のルートはとうに過ぎている。不安は募るが、とにかく休まないとな。


 その夜、夢を見た。

 夢なんてもう何年ぶりだろう。

 高校に入ったばかりのころの夢。奈々なながいて、先輩がいて、それに龍平りゅうへいもいた。

 短い……短すぎるほどの時間。だけど、かけがえのない一時だった。


 目が覚めると、いつもの場所。

 ああ、ここが現実だよ。

 目を閉じて自分の精神や肉体に問題かないかを確認。ついで荷物を確認すると、改めて出発した。

 頼むから、いきなり失うようなことはやめてくれよ。失わせるのもな。


 スキルを使って予測を立てながら、いつもの様に進む。

 やはり1回や2回ならともかく、数百回も距離を外すときつい。

 しかも昨日の影響もある。

 だけどあの懐かしい夢が、逆に俺を焦らせる。何で今更、あんな夢を見るんだよ。


 そんな事を考えながらも、感覚は全周囲に集中させる。

 少しでも違和感があったら反応出来るように。

 なにせセーフゾーンからセーフゾーンへと移動しているが、そんな所で立ち往生しているとは思えない。まあ誰かがいてくれれば楽なんだけどね。

 ただそうもいかないから、セーフゾーンに辿り着いたら周囲をスキルで確認。

 ドンドン負担が大きくなる。

 それに……やっぱり寂しい。


 こうして移動を続けると、突然空気が変わる。

 本当に突然だ。急に訪れる独特の緊張感と、懐かしい匂い。こいつは忘れようが無い。マージサウルの首都で、そしてラーセットで味わった感覚。

 奴だ! 奴がこの近辺にいる。

 だとしたら――なんて考えるよりも早く、鍾乳洞の奥から無数の奴らがやって来た。

 人型もいるが、多くはここの怪物モンスター。どれも一部脱皮して、青白い中身が見える。


 しかし、皆はどうしたんだ!?

 こいつらを見つけて、あのベテランの磯野いそのが連絡を怠るとは考え難い。

 最低でも、何人かは離脱させ地上への帰路につかせたはずだ。

 だけど、そんな事を考えるのは後だな。

 今の奴ら程度なら武器はいらない。スキルで命を外せばバタバタと倒れていく。やはり個々はそれほど強くは無いな。


 ついでに通信を試すが、周囲に誰もいないのか、はたまた遠いのか、誰とも通信が取れない。

 嫌な予感がますます強くなる。

 そう簡単にやられるわけがないが、こいつはあれからどれだけの眷族を増やしたんだ?

 スキルの使用には限界がある。もっと早く来るべきだったんじゃないのか?

 2か月という時間を完全に無駄にしてしまった。彼らはまだスキルを使えるだろうか?

 頼む……一人でも良いから生きていてくれ。

 それと同時に願う。奴らの本体よ、必ずここに居てくれと。


 一掃したいがスキルの限界が先に来るだろう。

 ラーセットの時はミーネルがいてくれたから何度でも使えた。それこそ制御アイテムが壊れるギリギリまで。

 だけどここでそんな事をしたら自殺と同義だ。


 クソっ、ここで出会うと分かっていたのなら、無理やりにでも風見かざみに付いて来てもらうべきだったか。

 だけどその場合、これほど早くは到着出来なかったか。悩ましい。

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