第336話 やっぱり精神が不安定になってしまうんだな

 こうして第11期は龍平りゅうへいのみとなったので、半年後に第12期生15人が召喚された。

 その後は3人が命を落としたが、帰還者は出なかった。

 落命したのはやはりというかなんというか、第12期生だ。どうしても新人を育てるのは難しい。

 それに何度説明しても、遺体が残ると動揺が走る。ここは何とか以前のようにしたいところだが、今のところそんなスキルを持っている人間はいない。

 これから来るのか成長で変わるのか……今は見守るしかないか。


 そして半年後に第13期生15人が召喚された。

 ただ順調というには程遠い。教官組が3人に減った事や、彼らのケアの為に自由行動を増やしたことが原因か、とにかく手が足りていない。

 特に探索が大好きで残ってくれた千鳥ゆうちどりゆうに至っては、同じ第7期の生存者9人を引き連れて長期の探索に出発してしまった事が問題だ。

 実は12期生の教育にちょっとだけ参加した後は、10か月以上戻らなかった。

 それだけに成果は凄かったけどな。


 逆に風見絵里奈かざみえりなはあまり迷宮ダンジョン探索は好きではなく、案内や教育も最小限。自然と負担は磯野いそのに集中し、それも限界近くであるわけだ。


 そんな状態だったので、今までなら防げたような事故や怪物モンスターとの戦闘。そして口論から始まった同士討ち。そんな事があって、14期生を召喚しようという頃には12期と13期の新人から11人の死者と7人の帰還者が出た。

 今の状態で残った召喚者は30人。増やしても、また増やしても、なかなか上限に達しない。本気で頭が痛くなる。

 だけど嘆いてばかりでは進展が無いからな。実は千鳥ちどりのチームや、決まったリーダ無しであちこちのヘルプに参加している9期生の中から、何人か新しい教官を選ぶ準備は整っているんだ。当面は7人だな。選んだ理由は能力や人望、それに性格からだ。

 後は本人に確認し、了承さえしてもらえれば確定だ。


 そんな時、磯野いそのが同期二人を連れて訪ねてきた。

 何だろうか? 取り敢えず、希望があれば何でも聞くし、訪ねて来たら何をしている最中でも会う約束にしてある。

 今は特に用件も無かったため、普通に執務室に通してもらった。


「やあ、磯野いその。それに村越むらこし志垣しがきも。何かあったのか?」


 彼等3人は第6期生。彼らよりも上は風見絵里奈かざみえりなしかいない大ベテランだ。

 実際に磯野いそのだけでなく村越むらこし志垣しがきにも教官をして欲しかったが、二人ともそういった事にはまるで向いていないため断念していた。今回の候補にももちろん入っていない。


「実は次の召喚が終わったら、もう俺達は日本に帰りたいんです」


 あまりの急さに絶句してしまったが、憔悴しきった目が本気であることを雄弁に告げている。

 だが本当にいきなりだ。全てを告げた時には、あれほどはっきりと残ると言ってくれたのに。

 なんとなくだが、召喚者の精神には限界があるのではないかという思いが強くなる。

 ただそう考えると、先代クロノスと共にいた連中ってのは、いったいどれほどの化け物たちだったのか。


 他の二人も磯野いそのと仲が良かったから残っていたが、反乱の首謀者であったみやと交流が無かったわけでは無い。

 しかも他人と一緒に行動するって事が絶望的にダメな二人だ。

 村越むらこしはとんでもなく短気で、“なんで?”というような些細な理由で平然と人を殴る。

 志垣しがきは逆に意味不明なほど無頓着で、隣で仲間が死にかけていても薬も使わない。後で理由を聞いたら“どうして?”と逆に質問された。本気で理解できていないらしい。

 まあそんな性格だが、ここまでベテランだと能力は一流だ。今までに幾つものセーフゾーンを確保し、多くの財宝を持ち帰った。

 一緒に探索した奴は、もう二度と組まないと離れていったけどな。

 まあそんな訳なので、肝心の磯野いそのが帰ると言い出せばこうなる事は理解出来る。

 だが――、


「要求は可能な限り全て聞くと約束したし、これは可能な要求だ。拒否する理由はない」


「じゃあ早速」


「いやまあ待て。無理を承知で一つだけ頼む。次の召喚が終わったら、6期と8期の中から何人かを新しい教官組に迎えようと思っている。まあ本人が承諾すればだけどな。だから2か月だけ待ってくれないか? 最後の仕事として、次に召喚する第13期生の教育に同行して欲しいんだよ。村越むらこし志垣しがきに関しては、今すぐにでも構わない」


「……俺、先に帰るっす」


 さほど悩む素振りも無く村越むらこしが応えると、志垣しがきも同意した。

 こいつら磯野いそのが残るかも決めていないっていうのに、薄情だなー。

 まあその辺りが、教官に出来ない所以ゆえんでもあったわけだが。


「分かりました、その話はお受けします。2か月だけですね」


 一方で、磯野いそのは意外なほどにあっさりと承諾してくれた。


「ああ、すまないがよろしく頼むよ」


 本音を言えば、受けてくれるとは思わなかった。どうせ二人と一緒に帰るものだと思っていたのだから。

 だけどまあ、みやがあんなことになって、真実を知ってもなお残ってくれた奴だ。義理堅いのだろう。

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