第294話 何度だってやるさ

 惨劇が起きたのは前回の召喚から4ヵ月ほど。

 そして1月半ほどして、ようやく二人が護衛を終えて戻ってきた。


「只今戻りましたー」


「お疲れ様」


「クロノス様が飛ばしてくれればよかったのに……あれは怪物モンスターも引き付けるみたい。物凄く大変だった」


 なるほど。すると大村おおむらたちのチームは戦い疲れていたのかもしれないな。

 けれどまあ――、


「俺のスキルは色々と秘匿性が高くてね」


「散々使っといて今更って気もするけど」


「今はな。だけど頻度を減らしていけば、何十年も先には知る人間は殆どいなくなっているだろ」


「召喚者は忘れないけどね」


「だからいつもは引っ込んでいたわけだが、まあ反省はこれからしよう」


 もう半月もすれば、新たな召喚を始めないといけない。

 本当なら全員――は難しくても、最低限半分は生き延びて新人を導いて欲しかったが上手くいかなかった。

 ではあるが――、


「今回も、強力なアイテムを持ち帰ったら力の一部を継承するって話はしようと思う」


「危険すぎませんか? 絶対にまたやる奴が出てきますよ」


「誰かから奪った場合、それは戦利品とは認めない項目を追加する」


「あの……」


「はい、風見かざみさん」


「追加するように進言しておいて今更ですが、絶対に隠れてやると思います」


 まあその可能性はあるが、どうやって手に入れたかは俺のスキルである程度わかるしな。

 それに考えがない訳じゃない。


「今回の件に関しては、大村おおむらたちは軍務庁に連絡をしている。だから先ほどの文言を追加していれば防げたと思う。確かに隠れてやる奴は出るだろうが、そういった奴は俺が始末をつけるよ。名目上は帰ったって事にしてな」


 本当の事を言ってしまえば、奪おうが何だろうが帰してしまって構わないとは思う。

 正義感からすれば許せないが、無理矢理召喚しておいて責める資格があるのかとも思う。

 以前の世界でも何で野放しになっているのか疑問に思っていたが、この罪悪感がそうさせていたのだろう。


 それに今回は事情が異なる。

 スキルの一端でも身に付けて帰る事で、奴等に少しでも対抗する事が出来るのではないかという甘い期待だ。

 そんな力を持った悪人がいてどうなると突っ込まれそうだが、人は環境で変わる。

 そもそも善悪で人を裁く資格なんて、俺にあるはずもないだろう。


 それが分かった上で、ちゃんと報いは受けさせる。

 これは単に、生贄となったラーセット人の命を無駄にした罰だ。

 なんて考えるとちょっとおかしくなるな。俺も随分と、ラーセット人になってきたものだ。


「何にやにやしているんですか?」


「真面目な会議中ですよ……」


「ああ、すまない。これでも真面目に考えていたんだけどな」


 そういえば既に一度見せている事もあって、彼女たちの前では認識を外していない。

 もう今更だしな。


「そもそも最初にクロノス様が出て威圧すればいいんじゃないですか? 不埒な事を考えるとクロノス様が来るぞって」


「いきなり恐怖で従わせるのは却下。君たちも、最初がそうだったら真面目に働く気なんて欠片も出なかっただろう?」


「どうやって倒すのかをみんなで考えたと思いますね」


「そんな訳でボツ」


「じゃあ最初の項目を追加する以外は今回と同じ?」


「それでいいと思う。次に失敗したら、また修正する。俺達は神じゃない。やり直しも効かない。だけど考える事は出来る。知恵を絞っていこう」


 そう言えば聞こえはいいが、これは命を使った実験だ。決して褒められたものではない。

 だけどそれしか手はないのだから、こうするしかないだろう。

 神様とやらが現れて、答えを全て教えてくれると助かるんだけどな。





 ◎     ◆     ◎





 こうしてあまり実りの無い会議を経て、第6期生20人が召喚された。

 それにしても、こうやってきっちり計算できるのはある意味便利。ちゃんとした計算式でもあれば、もっと分かりやすいんだけどな。


 今度は前回よりも更に研修期間を長くした。

 それに、認識を半分外したローブ姿とはいえ彼らの前に姿も現した。

 最初は相当驚いていたようだが、以前他の皆に話した様に、色々あって命を狙われているからだと説明しておいた。

 納得してくれたかどうかは別だけどな。


 それと、今回は2か月の研修期間を置いた。

 スキルの使い方や迷宮ダンジョンでの基本行動。それに過去に召喚された人たちがどんな形で帰還したかの講習だ。

 座学に関しては退屈そうに聞いていた彼らだが、いざ実地で迷宮ダンジョンに入り始めて怪物モンスターと戦うと一発で顔つきが変わる。


 召喚された時はVRバーチャルリアリティゲームみたいなものだと甘く見ていた意識が、これは現実だと認識した瞬間だ。

 喜ばしい事だが、同時に一番怖い瞬間でもある。

 何せ掠り傷ひとつで泣き出して、もう帰ると言い出す奴もいるからな。

 すまないけど、もうちょっと頑張ってくれよ。

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